表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
45/48

45


ここは2本の川が合流する地点なので物流で栄えている特殊な貿易都市『コープランド』。

馬車は川から離れ倉庫街を抜けて街中に入って行った。


大通りに出ると正面に巨大な建物が現れた。

馬車の窓を開けて顔を出すと、それは教会だった、

デカい。

サグラダファミリアなの!? ってくらいデカい。

馬車の窓からジーっと見上げていたが、ファサードを通り過ぎてしまった。


「中、見たかったなぁ」


呟いたら止まってくれた。

そしてUターンして正面ゲートの前で止まった。

気がはやり、馬車から降りて走ったら、すぐに摘み上げられた。


「いや、逃げないって……」


よく考えたら、知らない街で逃げても魔法が使えない今は、別の誘拐に遭うかも知れなくない?

その場合、危ない目に遭うこと間違いなし。

怖いわぁ。


そのまま歩き出す大男。

この人、ほんとデカいの。

たぶん2m越えてるよ。

NBAの選手みたいなのよ。

私がちょっとでも走ろうとすると、シャッと腕が伸びてきて捕まるの。


「せめて抱っこー。やっぱ肩車ー」


言ったら肩車になった。

言ってみるもんだ。

いや、たっか! 高いよ!

100cmしかない私とのこの差……人間の神秘……

手の平もデカいから落ちないように私の足を掴むんじゃなくて、私の足の甲に指を2本ひっかけてるだけだし…


って、広くなった視界に映り込んでくるのは首を垂れる人、人、人……

ああ、前を歩くこのイケメン、大司教だったわ。

なんだか居た堪れなくて、目立たないようにきゅっと縮む。

いや、意味ないだろうけど、気分的に……


大きな扉をくぐり、大聖堂に入った。

うわ~…………と、語意がなくなるほどの豪華絢爛! 荘厳華麗!

ヴェルサイユ宮殿か!?と見紛うほどの装飾と、見渡す限りのフレスコ画。

はぁ、美しいんだけどさ、ただの芸術ではないってところで気持ちが冷めちゃうんだよね……



裏口から出て、また馬車に乗って奥の宮殿へとやって来た。

大司教って敷地内に大司教館という名の宮殿持ってるんだよ。

マジで王宮並みだよ。

至る所にフレスコ画あるし、こっちの方がよっぽど豪華だよ。

メイドさんもいっぱい。

まあ、他の聖職者も一緒に住んでるらしいけど。

てか、この大司教って領主でもあるんだって。

本家が流行病で全滅したから分家の嫡男だった彼が7年前に伯爵位とフローレス領と大司教の座を継いで、今27歳らしい。

若く見えるよ。

それにしても、貿易都市の領主が大司教とか、情報が渋滞してるんですけど……


もちろん修道院もある。

こっちは修道士が住んでいる。

世俗聖職者と修道士は別物だから住む場所も違うんだって。


サロンに通され、お茶を頂く。

お菓子はギモーブとマカロン。

メイドさんは出て行った。

大男は部屋には入って来なかった。

多分廊下にいるんだろうな。

別に脱走しないってば……………………今は………


「元気がありませんね? 圧倒されてしまいましたか?」


あからさまにしおしおしていたのだろう、大司教が気遣わしげに声を掛けてきた。


「……ううん、なんか、ガッカリしたというか……」


一転、大司教の眉間にシワが寄った。

教会を貶されたと思ったらしい。


「無償同然で働いて清貧に甘んじる平信徒や修道士達……重労働でもないのに忙しいと言い贅沢三昧の役職持ち……平民と貴族のよう…まるで世界の縮図だね」


それはずっと思っていた事。

大司教という立場の人なら答えてくれるだろうか?

といっても、痛烈な嫌味に聞こえただろう。

大司教から表情が消えた。


「権力者とかが寄付するのはわかるよ? 便宜を図ってもらう為だもんね。でも、一般の人達って何の為に寄付するんだろうね? 寄付したお金が何に使われてるのか気にしないのかな?」


大司教は沈黙した。

何か思い当たる節でもあるのかな?


「別に、教会を責めているワケじゃないよ。教会の在り方なんて教会の自由なんだし。外部の人間の思い描く通りにあるべきだなんて逆におかしいと思うし。ただ、共感できないなぁってだけ」


大司教は気持ちを落ち着かせるように、ふーっと息を吐いた。


「………教会を嫌っていると報告を受けていましたが……なるほどな、と……」


嫌い?ってのはちょっと違うけど、まあいっか。


「大司教、様、は急に大司教を継いだみたいだけど、信仰心ってあるの?」


「ふふっ、様付けしなくていいですよ。名前で構いません」


返答を避ける為に誤魔化したのだろうか?

えっと、名前はセオドア・ウォーレスだっけ?


「……ウォーレス、さん?」


「呼びにくそうなのでセオでいいですよ、ナナ」


答える気はない、と。

ならば……


「セオ。教会ってなぁに?」


「そうですねぇ、救いを求める人々の集まりでしょうか」


そうね、最初は『救い』だっただろうね。

過酷な時代を生き抜く為にコミュニティを形成するのに便利だっただろう。

教育を受けていない人々は、あたかも正しいと演出された『教義』を信じて守る。

そうすれば幸せになれると思い込む……


なら、今は?

人々は教会以外の世界を知っている。

それでも、教会に縋る人がいるの?

違うか。

インターネットのある世界から来た私とは視野が違うわ。


ここには義務教育はないから普通の学校はない。

だが、読み書きや簡単な計算なら教会が寺子屋的な事をしている。

基本平民でも親が子に教えるが。

そうしないと生きていけないからだ。

小さい頃からおつかいに行き、買い物をしないといけないので計算を覚える。

お店の看板やメニューや金額を読む為に文字を覚える。

冒険者だって依頼書を読んだり報告書を書かなければならない。

農民だって御触れを読めなければ生き残れない。

魔物がいるので緊急事態に対処するのに【文蝶】は必須になった。


だが、それでも死ぬまで故郷の町や村を出ない人が多いので、自分の知る世界はほんとに近所だけなのだ。

この世界の教会は日本人の感覚で言うところの神社仏閣に近い。

関係者でなければ普段はそこにあっても気にも留めないが、イベントや行事ともなれば尊重し頼る。

孤児院や駆け込み寺的な役割も果たしてきた教会に縋る人がいるのは当然かとも思う。


「神様って、何かしてくれるの?」


「それはよく聞かれる質問ですね。答えはイエスでもありノーでもあります。神は直接願いを叶えてくれる存在ではないのです。神に祈ることにより我々は心の平安を得るのです」


ん? その言い方だと、セオって神を信じていないのかな?


「ナナは神を信じていないのですね?」


おっと、先に言われたよ。


「いや、いると思ってるよ?」


シロクマちゃん達が今もお菓子貰ってるし、リンスもハイエルフは神と一緒に暮らしてたって言ってたし。

何より自分が転生したからね、神は信じるとか信じないではなくて『いる』んだよ。

ま、誰にも言えないけどね。


「そう、ですか?」


信じてなさそうね。


「え、じゃあセオは神様ってどんな姿をしてると思う?」


「姿なら、ほら、あちら…」


セオが手で示したのは壁のフレスコ画。

なんというか、ザ・神様! って感じの絵だった。

『ギリシャ神話 イラスト ゼウス』で検索すると出てくるような白髪でおヒゲ。

白い布を体に巻いているだけのような服装で、手には黄金の杖を持って玉座に座っている。


ほ~ぅ、あれが神様か…

シロクマちゃん達が何か悪口的な事を言ってたけど、ハゲてはいないね。

……今はハゲてるのかな?


(ナナの心の声が創造神に聞こえていたら「事実無根だ!」と嘆くだろう……)


「一柱だけ?」


「あちらは創造神様ですね。他にも幾柱の神々がいますよ」


ふむ、セオの見解も私と同じでギリシャ神話っぽいモノと捉えてもいいのかな?


「そうだよね、悪魔との戦争に勝つくらいだし、めっちゃいっぱいいるよね?」


「え、ええ……」


「セオは、ううん、教会は『地上は罪人達の牢獄で、迷宮という試練を乗り越えれば天界へ戻れる』と思っているのよね?」


「ええ、よくご存じですね?」


「イーデンに行った時にちょっとね」


「ああ、その節は本当にありがとうございました」


「セオがお礼言う必要ないよ。私はノア王国とオーランド帝国の王侯貴族の指名依頼でお仕事しただけだもん」


イーデンで教会関係者を現場から追い出したという報告を受けているのだろう。

あくまで教会は関係ないという私の頑なな態度に苦笑するセオ。


「話を戻すけど、罪を犯した人間だけが地上に落とされ、他の善良な人間はもともと天界に住んでいたし、今も天界に住んでいるってコト?天界ってどんなトコ?」


「……憂いも、不安もない…安楽の地でしょうか…」


私のどのセリフに引っかかったのかはわからないが、セオは少し言葉を詰まらせた。


「ふーん…ずいぶん抽象的だね? そこで神様達は日がな一日何して暮らしてるんだろうね?」


「え?」


「食事ってどんなのだろうね? 何が好物だろう? あの絵はずっと前の姿だよね? 今はどんなファッションが流行りなんだろうね?」


「………」


「どうしたの? 天界にも政治や文化や生活があるし、地上の人間と同じように進化するよね?」


そもそも、昔は国によって言葉が違ったんでしょ?

天界ではどこの国の言葉が共通語だったんだろ?

今、天界に行って言葉通じるかな?

獣人やエルフとかドワーフとかも天界からの追放者なの?

天界にはどんな国や種族がいるんだろうね?

そういうのが載っている本ってないの?


私の質問に、セオは1つも答えてくれなかった。


「そもそも、迷宮って神様が作った物じゃないんでしょ? 【碧落迷宮】の天辺のゲートって本当はどこに繋がるんだろうね?」


ふと見たら、セオが泣いていた。

くしゃりと歪んだ泣き顔ではなく、ただ、瞳からぽろぽろと雫が零れている。


「えっ!? どうしたの!?何で!?」


私の所為!? 何か傷つけるようなコト言っちゃった!?


「えっと、なんかゴメンね? その…あっ、神様ハゲてないよ、たぶん。きっとだいじょうぶだよ、うん」


「………ハゲってなんですか?」


あ、涙止まった。よかった。


「創造神に会った事あるんですか?」


あ、追求するんだ?


「会った事ないよ。ただ、ちょっと悪態ついてた人がいたっていうか…」


シロクマちゃん達が言っていたのが創造神ならばって前提だけど。


「なんだ、酔っ払いの戯言ですか」


「そ、そんなトコ~…」


セオは深ーいタメ息をついた。


「申し訳ない。取り乱してしまいました」


「いや、私もなんか変なコト言ったみたい。ごめんなさい」


大人泣かしちゃったよ!


「いえ、教会の教義や自分が信じていた神って何だったんだろうなって……」


セオドアは本家が代々大司教だったし、自分も分家の人間として確かに教会の教義を信じ神を信仰していた。

だが、ナナの疑問の1つ1つが真水に落とされた1滴のインクの様にジワジワと広がり、全体を染め上げた。

教義は時の支配者が民衆を操る為の人間の創作物だと気づいてしまった……


「まあ、結局、人は信じたいモノしか信じらんないし、別にいいのでは? もし神を見たらそれは『信じる』じゃなくて『知る』になっちゃうし」


「ナナ…あなた……やはり聖女では…?」


「なんでそうなるっ!? やめてよね!」


こっちはプリプリしてんのに、セオはニコニコしている。


「あっ、そうだ! 早くコレとってよ!」


隷属の首輪付けられたまんまだよ!


「それは…礼拝堂に行かないとならないのですが、参拝者がいる時間はちょっと都合が悪いですねぇ……19時以降でお願いします」


「えぇぇぇぇぇぇぇ……じゃあ、それまで観光したい。てか、すぐにでも川遡ってオーランドに連れて行かれるんだと思ってたけど…」


「え? 何故オーランド帝国になぞあなたを渡さなければならないのです?」


「え? てっきり第2皇子あたりの差し金かと?」


「それでも、あなたはノア王国の人間なのですから、私の教会にいるべきでは?」


第2皇子の関与は否定せず…

あと、私、この国の人間とは呼べないかも?


「私は冒険者。教会とは無関係」


「またまたぁ~」


「ぶん殴っていいかな?」


「またまたぁ~」


ぷちっ。

もう、私の人生を他人が勝手に決めないで! いいかげんにして!

乱暴に扉を開けて出ていく。

大男がいた。


「肩車!」


大男の膝をぺしぺし叩く。

大男は大司教をチラリと見た。

大司教はニコニコして頷いた。


ひょいっと肩に乗せられるナナ。

今度は大男の頭をぺしぺし叩く。


「観光!」


単語しか発しないのはぷんすこしているから。


大男は黙って歩き出した。

セオは大司教だからついて来ないよね!


「何処に行くんだ?」


「お、初めてしゃべった」


「何処に行くんだ?」


会話を楽しもうとはしてくれないのね。


「街を見渡せる高いトコ」


「ん」


お、これはいい足を手に入れたぞ!





一方、アデル達は……


「これ燃費悪すぎー」

「魔力補充すんのー」

「もう何回目ー?」


魔導機艇の燃費はアメ車並み。

リッター10km未満。

アメ車だったらガソリンタンクは100リットルくらいあるので補給が煩わしい訳ではないが。

魔導機艇は魔石を2個搭載しているが、満タンで40kmしか走れないっぽい。

なので、目的地に着くまで8回ぐらい魔力を補充しないといけない。

補充するのはシロクマちゃん達のお仕事。

3匹なら、たぶん魔力切れは起こさない。


「ジュードのすかぽんたんー」

「おたんこなすー」

「すっとこどっこいー」


「罵声がかわいいから許す!」とジュード。


ジュードは副所長の名前。

フルネームはジュード・フューリー。

副所長は呼びにくいとシロクマちゃん達に不評だったので名前を教えたのだった。


「あとどれくらいー?」

「ナナにー」

「会いたいよー」


「お、おう、ごめんな? もうちょっとだからな?」


運転をサイラスに教えて交代した(させられた)ジュードは3匹をぎゅっと抱きしめた。


「やだー」

「はやくー」

「ナナー」


初めてナナとこんなに長く引き離されてしまったシロクマちゃん達は癇癪を起し、ジュードに八つ当たりして肉球でぺちぺち殴るのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ