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誘拐されてしまった………

シロクマちゃん達は大丈夫だろうか?

案内してくれてたメリッサも御者も無事?

扱いが酷いけど、教会の人間じゃないのかな?

だとしたら、単純な人攫い……?

いや、隷属の首輪付けられてるからやっぱ教会関係?

あ~…どうしようかな………


それにしても、私のコト放置し過ぎじゃない!?

お昼から今まで8時間以上も!

八つ当たり気味に風属性魔法で壁に穴を開けようと試みたが、やはり魔法は発動しなかった。

あ、【文蝶】飛ばせばいいじゃん! と思ったけど、これも魔法だった……

この首輪、魔力封じ効果もあるもんね。

あり?でも、便箋は出せた。

アイテムボックスは使えるのね?

もしかして、魔法はダメでも【スキル】なら使える?

【鑑定】を使ってみた。


貨物帆船:風の魔石により、川を遡る事も可能。


やっぱり船か。

飛行場の側にあった川は『セーヌ川』くらいあるから大型船も航行できる。

セーヌ川のクルーズ船って1000人乗りとかあるもんね。

それにしても、風なのか……

魔法があると、動力という部分の発展が遅れるんだな。

今も荷物が積んであるという事は、飛行場専用船ではないな。

外部組織というか、元からある定期船かも。

という事は、何度も寄港するハズ。

いや、夜だからどこかに停泊するか?


木箱に背を預けて座っていると、小さな何かが目の前に現れた。

ネズミ!?

一瞬、ひぃぃっ!! っとなった。

中世×ネズミってペストを連想するじゃない!?


でも、すぐにネズミではないと分かった。


「チビちゃん!? ついて来てくれたの!?」


ちびゴーレムがピシッと敬礼した。

メリッサに見つからないように隠れていたが、こっそりついて行ってナナが乗り込んだ馬車に飛び乗った。

誘拐された時もずっと追い続けてきてくれたのだった。


「えっと、手の縄を解いて欲しいんだけど」


しゃべる機能はないちびゴーレムは再び敬礼して手首の縄を引きちぎった。


んん!?小さいのに凄い力だね!

建築用ゴーレムだからかな?

でも、助かった。

足の縄は自分で解く。


「ありがとね、チビちゃん」


手の平に乗せて頭をなでなですると、ちびゴーレムはテレたようにくねくねする。


さて、手も自由になった事だし、この首輪外したいな。

徐にひっぱったら、静電気の数倍の衝撃を喰らった。

くぅ~っ、考えなしだった。

血は出てないけど、めっちゃ痛かったわ……


ちびゴーレムがあわあわしてる。


「心配してくれるの?ありがとね、もう大丈夫だよ」


なでなでして落ち着かせる。


「シロクマちゃん達は無事かな?」


ちびゴーレムはしゃべれないので質問は1つずつにする。

こくんと頷くちびゴーレム。


「よかったぁ~。どこにいるかわかる?」


ぷるぷると横に首を振るちびゴーレム。


「この船に乗ってる?」


ぷるぷる。


「そっか……メリッサは無事?」


こくん。


「よかった、なら御者は?」


ちびゴーレムは地団駄を踏んで怒り出した。


「え、もしかして、御者が誘拐犯?」


ちびゴーレムは凄い勢いで頷いた。


馬車に仕掛けでもされてたか?

馬車の中では何も口にしていない。

薬品か魔術か魔法か……?

【スリープ(睡眠)】かもしれない。

また眠らされないように、『リフレクト・リング』を付けとこう。


んん?全員眠らせたのなら、なんでシロクマちゃん達は連れてこなかったのだろう?

シロクマちゃん達の価値は計り知れないのに……

隷属の首輪の数が足りなかった?

私を誘拐するのが目的なら、事前に数を揃えておくのは大前提……

だとしたら、今回のは突発的な誘拐?

私を私だと認識しての誘拐ではない…?


「チビちゃんって、魔法使えたりする?」


しょんぼりして首を横に振るちびゴーレム。


「あ、チビちゃんの所為じゃないから落ち込まないで」


よしよし。

そうだよね、ゴーレム創造の魔法陣を構築する時、そんな術式はなかったもんね。


とりあえず、逃げなきゃ。

ちびゴーレムを肩に乗せ、改めて部屋を見回す。

貨物船なら荷物を積んでなんぼの商売。

でも、この部屋は狭い。

ということは、ここは居住区。

木箱の中身はほぼ食料。

パントリーかな?

ドアには外から鍵がかかっている。

こんな場所に放置ってことは、船員全員がグル。

夕飯は終わったのか、寄港した時に済ませるのか?

大型船が寄港できる港は限られているだろう。

いずれにしろ、いつかは誰かが食料を取りに来る。

あのドアが開いたら脱出しよう……


何か準備してた方がいいかな?

気付けば頭痛は治まってた。

腹の虫を静かにさせとくか。

こんな時でも腹は減る。

食欲もある。

私、思ったより落ち着いてる?

てゆか、現実味がないんだよね。

誘拐の目的がわかんない。


「チビちゃんってご飯食べるの?」


するとちびゴーレムは胸の魔石をてしてしと叩いた。


「魔石があるから大丈夫ってこと?」


ちびゴーレムは首を横に振って、今度は魔石を叩いて口を開けてエアでぱくっと何かを食べた。


「もしかして、魔石を食べるの?」


ちびゴーレムは嬉しそうに頷いた。

へぇ~、ゴーレムって魔石を食べてエネルギーを補給するんだぁ。

不思議な生き物だなぁ。

アイテムボックスから魔石を出す。

属性違いでもいいのか試す為に色々。

手の平に乗せて差し出すと、ちびゴーレムは全部を見渡した後、土属性の魔石を手に取って一飲みした。


「やっぱ土属性のじゃないとダメなの?」


こくん。


「もう1個食べる?」


ぷるぷる。


「燃費いいねぇ」



さて、お腹も満たされ準備万端。

なのに、誰も来ない!

ドアには鍵穴がない。

この世界だと、木の閂?

いや、船員のつまみ食い対策に外から鍵かけられるようになってる?

だったら、つまみの付いた鉄の棒をスライドさせて下にパタンと折りたたむタイプの掛け金プラス南京錠だろう。

つまり、内側からは絶対に開けられないやつ……


くそう、私、シロクマちゃん達がいないとホント何にも出来ないな……

ふぅ……無理して殺されるなんて嫌だし、助けを待つ事にするか。

シロクマちゃん達が無事ならきっと来てくれる………よね?

今までずっとアデルの部下の人?が露払いしてくれていたのに、急に誘拐されちゃったのは腑に落ちないけど……

あれ? 私、囮にされた!?

しくしく、変なところでスパルタなんだよぉ!





人の気配がして目が覚めた。

いつの間にか寝ていたようだ。

明り取りの窓から差し込む光が月から太陽に変わっていた。

むくりと起き上がる。

ケープのフードに重みを感じた。

チビちゃんが隠れているのだろう。

ふと顔を上げると、咥えタバコの男が覗き込んでいた。


「なんで縄解けてんだ?」


「…ひみつ」


「なんで逃げない?」


「世の中がきびちぃと私は知っている」


「こまっしゃくれたガキだな」


「朝ごはんはまだですか?」


「耄碌じじいみたいな事言い出した」


「昨夜もご飯くれなかった」


「へいへい、そいつは悪かったな」


男は私を小脇に抱えて部屋を出た。

食堂に着き、テーブルに着く。

私の前にだけパンとスープが置かれた。

男はコーヒーのみだ。


「いただきます」


遠慮なくいただきますよ。


「お前、本当にガキか?」


「老眼始まった?」


「クソガキだな」


「食事中にクソ言うな」


「そいつは失礼」


軽口をたたき合いながらも相手を観察した。

ふむ、イケオジだな。

白髪交じりのブルネット。

オールバックが男の色気を醸し出している。

アラフィフかな?

無精ヒゲだけど不潔って程でもなく。

顔だけ見ればタレ目の優男。

でも、元軍人か傭兵……冒険者みたいな自由業ではない雰囲気だ。


「なんだ、見惚れたか?いい男だもんな」


「寝言は寝て言え、おじいちゃん」


「お、おじい…」


男は頭をガシガシ掻いて新しいタバコに火を付けた。

こっちは無事に完食した。


「で? 私は何で誘拐されたの?」


「やっぱ誘拐だよなあ」


「え、なにそれ? 責任逃れのつもり?」


「いんや、お前は荷物として承った」


「は?」


「24時間眠り続けるって聞いていたから放置してた」


「ひどい」


「貨物運賃値切ってきたから飯なしだったんだがな」


「鬼畜」


「ちゃんと食わせてやっただろうが」


「隷属の首輪付けられて縄で縛られた幼女を荷物として受け取り金をとる奴は人間じゃない」


「こちとら商売なんでね」


「悪徳商売人の間違いだろ」


「かわいい顔してやさぐれてんなぁ」


配膳係が食器を下げる。

去り際にコトリとココアの入ったカップが置かれた。


「ありがとう」


振り返ってお礼を言うと、配膳係は足を止め、だが無言でぽんっと頭を撫でて行ってしまった。

まだ10代だろう青年は獣人だった。

バンダナで潰していたけど、黒いウサ耳があった!

しっぽは短いから服の下に隠れているハズ!

触り心地を想像するとついニマニマしてしまう。

ゆるんだ表情を隠すようにココアを飲む。

んあ~染みる~。


「俺には?」


「へ? 何が?」


「礼だよ」


「ありがとう?」


「素直かよ」


男は気が抜けたように煙を吐いた。


「それ、隷属の首輪ってマジかよ?」


「魔法使えなくなったし、本物じゃない?」


「魔法使えんのか?」


「私、D級冒険者だもん」


「見えねぇな」


「強いのはシロクマちゃん達だからね」


「へ?」


「一応、テイマーって事になってる」


「もしかして、【巨大迷宮】の第90階層を攻略したっていう…?」


「私達は戦ってないけどね。オマケで連れてってくれたんだ」


言ったら、また小脇に抱えられて移動させられた。

乗り心地の悪い足だ、まったく。



「なんだか豪華な部屋」


応接セットに向かい合う。


「船長室だからな」


「船長!?おじさんが!?」


「おじさんじゃねぇ、ダグラスだ」


「ダグラス。私はナナです」


「呼び捨てかよ」


「ダグラスおじさん」


「……呼び捨てでいい」


「で? わざわざ移動して、話があるんでしょ?」


「ああ、持ってんのか?90階のセーブクリスタル」


「ひみつー」


「まあ、どっちでもいい。もう誰にも言うなよ?」


「なんで?」


「お前が持っていようがなかろうが、悪人が群がってくんのよ」


「あー、なーる」


「今ので分かったのか? 手足を切り落としてでも持っているか確認されたり、人質にしてクランメンバーを脅してせしめようとしたりする奴らがいるっつってんだぞ?」


「あとは隷属の首輪で言う事聞かせたり、でしょ?」


ダグラスに言われて思い至った。

教会にはいくつか目的があるようだ。

各国に聖女を誕生させる事もその1つ。

きっと、派手なパフォーマンスが出来る存在が数人欲しいのだろう。

私は魔力が多い上、浄化が得意と思われているだろうし。

聖属性魔法って見た目が綺麗なの多いよね。

教会のイメージアップになりそう。


そしてもう1つはダンジョン・コアだ。

コアを持つ者が勇者だとか言いふらしているし。

でも、迷宮攻略なんてここ数百年叶っていない。

それが【巨大迷宮】で急に現実味を帯びだした。

クラン『エピタフ』が第90階層を突破したのだ。

特に名の知れた組織でもない冒険者がクリアしてしまった。

ならば、自分達の組織の精鋭なら最後までいけるに決まってる!と調子こいたってトコだろう。

私は両方の欲を満たす為に捕まってしまった?


「それにしても、見張りもなしに何処に連れて行こうとしてるんだろう?」


一緒に来なかったのは、自分がいなくなった事がバレると事件が発覚し、再び飛行場でスパイ活動する事が出来なくなるから?

だからって、たった1人で船に乗せる?

首輪の所為で魔法が使えないからタダの幼女だと侮ってるな?

あってるけど……


「お前は次の港で引き渡す事になっている」


「見逃してくんない?」


「俺はきちんと契約を守る仕事のできる大人だからな」


「年寄りって融通が利かないよね」


「50歳はまだおじいちゃんじゃねぇ!」


「おじいちゃん……かわいい言い方をするんだね」


ダグラスは脱力して肺から煙を出し切った。


「この首輪、外せないかな?」


「呪具だろ、わからん」


「【ディスペル(解呪)】かけるだけで外れるんだけど」


「聖属性魔法が使える奴がそうそういるか」


「そうなんだ…」


「以外そうだな。珍しいんだぞ。知り合いにでもいるのか?」


「私使える。シロクマちゃん達も使えるんじゃないかな?」


天国から帰ってきた時にシロクマちゃん達がナーフされたって言ってたけど、テイム後はネームドになって能力は爆上がりしたらしいし、以前使っていた魔法が使えないなんて事はないだろう。


「教会にでも駆け込めば?」


「教会が敵なんだよね」


「難儀だな」


「見逃してー、てか、私の代わりにシロクマちゃん達に【文蝶】飛ばして?」


「会った事もねぇ奴に飛ばせるか」


「だよねー」


【文蝶】は相手の魔力を目指して飛ぶから、宛先となる本人の魔力を1度は肌で感じている必要がある。


「じゃあ、普通に郵便を」


「到着は何日後になると思ってる」


「だよねー」


その頃、私はすでに違う場所にいる。

八方塞がりだ。


「次の港ってどこ?」


「フローレス領のメイヤーズ港だな」


「地理わかんないわ」


「2本の川が合流する地点でな、向こうの川を遡るとオーランド帝国に繋がっている」


「うげぇ…そうきたか……」


流石に第2皇子は皇都の王宮に帰ったらしい。

何かの計画が動き出したのだろうか?

第2皇子は演技してるって知ったからそこまで警戒しなくていいと思うけど、演技を続けるから私の味方ってワケじゃない。

やっぱ、どこかで自力で逃げるべき?


具体案が思い浮かぶ前に港に着いてしまった。


「船長、例の荷物の受取人が来ましたぜ」


船長室に入って来たのはモブおじさん。

顔がね、モブっぽいから勝手に命名しました。


「積み荷に問題が起きたと言ってここまで連れて来てくれ」


「了解っす」


すぐにモブおじさんが退室した。


「もしかして、積み荷って私のコト? 問題って?」


「縄が解けて目を覚ましている」


「なるほど、それは問題だ」


「余裕あるじゃねぇか?」


「いやいや、どうしたらいいかサッパリだよ。絶体絶命、ノープラン」



モブおじさんが戻ってきた。

一緒に連れてきた人が誘拐犯の一味だろう。


うわぁ、見るからに神父さんだよぉ……

きちっとした聖職服。

ちょっと豪華だから、司教の中でも役職クラスかもしれぬ……

そしてイケメン。

紺色のぱっつんおかっぱがサラサラストレートを際立たせている。

若いのに役職って事は貴族出身?


「こんにちは、お嬢さん。私と一緒に教会へ行きましょうね?」


私が縛られておらず、目を覚ましていても動揺した様子は見えない。

事前に聞いていたのか?


「知らない人について行ってはいけませんって言われてるから」


言ったら、神父さんはほんの少しだけ目を見張った。


「これは失礼しました。私は大司教のセオドア・ウォーレスと申します。以後よろしくお願いいたします」


胸に手を当てにっこりと微笑む大司教。

なんだろう? ちょっとヤな感じがした。

もしかして、隷属の首輪を作動させた?

効いてないみたいだけど……


「ナナです。よろしくは致しません」


そう言ったら、また一瞬の空白。

だが、すぐに大司教は笑顔を作った。


「ふふっ、ご機嫌斜めみたいですね。お眠でしょうか?」


嫌味か他意がないのかわかりにっく!


「教会には行きたくありません」


「それは困りましたねぇ」


なんか、調子狂う人だな。


「まずは、これ外してくれない?」


もちろん隷属の首輪の事。


「教会に行けば外せますよ?」


「え? 今、できるでしょ?」


「え? 専用の道具が必要なので…」


「えっ!?」


「え?」


本気で戸惑っている様子の大司教。

もしかして、本当に道具が必要なの???

でも、シロクマちゃんのは【ディスペル(解呪)】で外せたんだけど……

一応、【ディスペル(解呪)】で外せるって知らないのなら、黙っとこ。

ダグラスも空気を読んで沈黙してくれているし。


さて、ここで時間稼ぎしても状況は何も変わらないね。


「……じゃあ、行こうかな」


「嬉しいです」


大司教のところまで歩き、振り返ってダグラスにお世話になりましたとお礼を言う。

大司教も挨拶を述べる。

その隙にドアを開けて廊下に飛び出した。

が、大男が待ち伏せしていてあっさり捕まった。

襟首をぷらーんとつまみ上げられる。


「ふふっ、お転婆さんですね」


余裕の大司教。

権力者が1人でやって来るワケなかったね!


シロクマちゃん達がついていないただの幼女は豪華な馬車でドナドナされていったのだった。


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