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※ネタバレになりますが今回は『死ネタ』です。

苦手な方はご注意ください。


11人は拠点に戻った。

みんなお通夜みたいな表情でご飯をちびちび食べ…いや、シロクマちゃん達はいつも通りだな……

チラチラ見ていたのがわかったのか、ごちそうさまをした3匹がキリっと表情を作った。


「所詮この世は弱肉強食ー」

「諸行無常のー」

「サバイバルー」


勢いで言いきった。

語呂もいい。

うん、そうね、シロクマちゃん達の言う通りだ。

私達の目的は最深部のダンジョン・コア。

蒼天の願いは呪縛からの解放。

なら、やる事は一つ……


みんなも同じ結論に達したのだろう。

食べるスピードが少し上がった。



「お前等も来るだろう?」


そう言ったのはヒューバート。

今回は『来い』じゃないのね…

それは再び第90階層を訪れて、眠ったはずの蒼天を起こさないように私も一緒にクリアしとけ、という言外の思いを感じた。


わかってる。

もう2度と蒼天を呼び出しちゃダメだ。

一度倒せば、ボス部屋に誰かが訪れない限り、ボスはリポップしない。

幸いな事に、今、【巨大迷宮】の90階に足を踏み入れる事の出来るパーティーは私達3組だけ。

蒼天の眠りを妨げる者はいない。


「うん、もちろん」


「ま、心配するな。何も明日にもってワケじゃない。俺達も準備が必要だからな」


ヒューバート達はもう少し手応えを得る為、翌日から深層を周回する事にした。

が、いつの間に自分達は強くなっていたのか?


第86階層のロック・サーペントをアッサリ倒した。

第87階層のケルベロスをサクッと倒した。

第88階層のサイクロプスをすんなり倒した。

第89階層のグリフォンをちょろっと倒した。


こんなに簡単だったか?

俺達は強くなっていたのか?

とはいえ10の倍数階層のボスは強さが段違いである。

これでもまだ、蒼天に勝てるとは思えないが……



蒼天は長い時間を持て余し、自己鍛錬を行っていた。

それでも、1人では出来ることは限られている。

だが数千年も繰り返せば話は違う。

人間には無理な事。

それなのに、いつも、どんな世界でも人間から『英雄』が生まれる。

ファンタジーのお話の中で魔王を倒すのはいつも人間だった。

同じように長く生きる種族ではなく、100年も生きられない人間ばかり……

何が違うのだろう?

この場合、人間が作った人間の為の物語だから、というのは置いといて。


長命種は蝋燭のように、人間は線香花火のように命を燃やすから?

限られた短い時間で生きる人間は成長率がハンパない。

ちっぽけで非力なままでは種の存続が危ういから。

使い古された表現だが、人間の持つ想いはやはり強いのだろうか?

英雄は何を想って戦う?

助けたい? 守りたい? 平和にしたい? 幸せにしたい…?

そういえば、『想う』という漢字は心の上に相手がいるね。

誰かを想った時、エネルギーが生まれる?


ふぅ…ちょっとセンチメンタルになっちゃった。

精神論で勝てるのなら世話ないよね。



1週間後、11人は第90階層のボス部屋を訪れた。


「遅かったな。待ちくたびれたぞ」


「ごめんね?お腹空いた?」


「ああ、今日は存分に飲ませろよ」


そう、今日、蒼天と戦うわけではない。

『次にこの部屋を訪れた時、お主等を殺す』と宣言されたあの時に約束していたのだ。

最終決戦の日付が決まったら、1度報告に来ると。

離別の酒を酌む為に。


地べたに座布団やらクッションやら敷いて輪になって座った。

食べ物は流石に地べたってわけにはいかないので一人膳を出す。

旅館の宴会みたいだ。


私も飲みたかったな。

惜別の想いを酒に溶かして飲み干せば、少しは胸の痛みがやわらいだろうに……


最初は少し、しんみりしていた。

だが、酒が回ってくるといつの間にか大盛り上がりで。

シロクマちゃん達は自分のご飯を食べ終えるとみんなの膳を回りだした。

お酒を味見がしたいのがバレバレだ。

御酌をして、飲み干す姿をジーっと見ている。

わかるわぁ、美味しそうだもんねぇ。

でも、ダメだよ。

シロクマちゃん達の正確な年齢は知らないけど、見るからに子熊だからね。

私と一緒。飲めません。

一応わかっているのか、手を出そうとはしないが、いつまでもつ事やら……


話題は蒼天が鬼ヶ島を出た後の冒険や、アデル達が冒険者になって一番のピンチに陥った時の事や、ヒューバート達の冒険者ランクをAにあげる為のギルドの試験で想定外のドラゴンに遭遇した事など自慢の冒険譚ばかりだった。


私も何か話せと言われて、それならとアデル達に話していない浄化依頼の事を話したら、なんだか変な顔をされた。

信じてないのかな?

ならば、とアイテムボックスからもらったデカい白い手を出した。

今度はギャーっと叫ばれた。

うむ、いい反応だ。

満足したら眠くなってきた。

まだ22時なのに……


シロクマちゃん達が明らかにお酒に手を伸ばそうとし出した。

でも皆にヒョイっと避けられて、代わりに私がこっそり配っていたお菓子を口に突っ込まれて幸せそうに咀嚼するシロクマちゃん達かわいい。

でも、眠気が限界に達した。

もう……くぅ………Zzzzzzz……………


撃沈したので、最後の方は大人達も酔いが勝ち、とうとうシロクマちゃん達が隙をついて味見に成功し、でもばたんきゅーしてしまったのは知らなかった。


チビ達が眠った事により酒の席はお開きとなった。


「では、1週間後の正午に」とヒューバート。


「やっと覚悟が決まったか。待ちぼうけだけは勘弁願うぞ」


「ああ、必ず…」


チビ達を抱えてドアに向かう大人達の足取りはしっかりしていて、誰も酔っていないのは明らかだった。


「って、クマ公が眠っていちゃ、この部屋から出られねぇ!」


アデルの言葉にみんな慌てた。

イチゴちゃんに声を掛けたり、揺すったり、つついたりして起こしにかかる大人達。


「締まらねぇな……」


ククっと愉快そうに笑いをこぼす蒼天はあたふたと焦る大人達を肴に酒をあおった。




1週間は準備期間。

武器・防具のメンテナンスをしたり、軽い運動に切り替えて肉体の疲れを抜いたり、精神を整えたり。


そして約束の日の正午、11人は再び第90階層のボス部屋にやって来た。

緊張や迷いを振り切る為か、ここまでほぼ会話はなし。

扉が開くと、蒼天は金棒を床に付き立て、両手を乗せて仁王立ちしていた。

幼女+3匹は入り口付近で待機だ。

大人達7人は蒼天の前にずらりと並ぶ。

ヒューバートが開口一番に宣言した。


「真剣勝負だ」


決心が鈍らないようにしているからか、表情は険しい。


「無論だ。いつでもかかって来い」


余計な言葉はいらない。

お互いの気合いがぶつかり合い、戦いの火蓋は切って落とされた。


苦しませないように、という配慮か、最初っからパワー全開で攻めるヒューバート達。

だが、ほぼ攻撃は通らなかった。

魔法を纏わせた剣で斬り込んでも金棒で弾かれ、魔法を撃ち込んでも金棒の一薙ぎで無効化される。

ならばと水属性魔法の直後に火属性魔法をぶち当てて水蒸気煙幕で隙を作ろうともこちらの攻撃は掠りこそすれクリティカルはない。


1 vs 7 でこれなのか……

さすが、最後の10の倍数階層のボスだ。

格が違う。


それでも魔法剣士が4人に魔術師とハンマー使いなので、当たれば火力不足という事はないだろう。

だが、当たらない。

流され、いなされ、弾かれ、返される。


募る焦燥。

滲む絶望。

迷いが疲労を生み、連携にズレが生じてきた。

一旦リズムが狂うと、立て直しはきつかった。


ナナはこぶしを握り締めた。

昨夜、皆に言われた。

手は出さないでくれ、と。

攻撃も、回復も、一切の干渉を拒まれた。


男と男の命を懸けた勝負、いや、決闘だから、と……

1 vs 7 を卑怯だとは言わない。

数千年の研鑽に付け焼刃で単身挑むほうがナメた行為だ。


傷つき地に伏す彼らを見ていられない。

でも、勝負がついてしまったら、それは終わるという事……





「どうした? もう終わりか…?」


蒼天も少しボロボロになってきた。

でも、ダメージはアデル達の方が断然深い。

立っているのもやっとといった体だ。

返事すら出来ていない。


「ここまでか…」


蒼天は金棒を放り、タメ息をついた。

失望がありありと滲んでいた。


中々決着がつかないのは、アデル達の決心が揺らいだからだろうか?

なら、また日を改めて、とはいかないものだろうか…?


そんな甘い事を考えていたら、ふと、蒼天と目が合った。

1度も見た事のない冷めた表情。

瞳には何の色もなかった。


不意に走り出す蒼天。

あ。と思ったが体は動かなかった。

シロクマちゃん達が止めるべく立ちはだかったが弾き飛ばされた。

振り上げられた利き腕。

迫りくる蒼天。

瞬きも忘れ、ただ見ていた。

至近距離でピタリと止まった。

胸から何本も刃が飛び出していた。

フッと微笑む蒼天。

いつものちょっと偉そうで、ちょっと楽しそうな笑い方だ。

ナナの顔がくしゃりと歪む。

蒼天の振り上げられた手がナナの頭をポンと撫でた。


「泣くな……」


しゃべった所為で血を吐いた。

内臓が損傷している証拠だ。


「よくやった……これで、いいんだ………」


蒼天の瞳から、急激に力が失われていく。


「さら、ば…だ……」


崩れ落ちる蒼天。

ナナの慟哭が響き渡った。








シロクマちゃん達に慰められてようやく涙が止まった……


「ナナ……蒼天が迷宮に吸収されてしまう……」と覇気のないアデル。


そんなに、泣いていたのか……

のそのそと蒼天の側に寄る。

血は拭われ、キレイになっていた。

そっと頬に触れる。

まだ、温かいのに……


「これは、お前が持っておけ」


手に乗せられたのは蒼い勾玉。

蒼天の魔石だった。

止まっていた涙がまた零れた。



「あ、みんなケガ…今、【ヒール(回復)】かけるね」


「いや、いい」


アデルの言葉に、みんな頷いた。

この傷は友を屠った罪の証。

この身にしっかり刻んでおきたい。


「うん…」


蒼天の体をアイテムボックスに仕舞う事が出来てしまった。

そう、生き物は収納できない。

『死』を突きつけられた。






「ナナー」

「宝箱ー」

「開けてー」


「でも、私は……」


何もしていない。

何の責任も負おうとはしなかった。

手を出すなと言われたのは、みんなの優しさだ。

私は気付かないフリをしてその優しさに甘えた。

逃げたのだ。


「クマ共がお前が開けた方がいいモノが出るって言うんだ」とアデル。


そっとタメ息をついた。

私にここに居る意味を持たせようとしてくれてる?

ごめんね……ありがとう。


宝箱の蓋にそっと手を触れる。

ああ、本当に終わってしまったのね……

未練を振り切るように開けると、予想外にたくさん入っていた。


剣、隠れ蓑(一見ただのローブ)、浮履うきぐつ沈履しづみぐつ、巻物、宝鍵、万能薬…?


ああ、鬼の宝だとされていた物に似ているのね……

空気読んだのか、宝箱よ……


前世では『平家物語』が好きだった。

関連書に『保元物語』がある。

そこに書かれていたのだ。

流刑にあった源為朝と現地人の会話だ。


「この島の名前は?」

「鬼ヶ島」

「ならば噂に聞く宝があるだろう?」

「先祖がまだ鬼神だった頃なら打ち出の小槌、隠れ蓑、隠れ笠、浮履、沈履、剣などがあった」


だから、鬼の宝だと言われていた品々。

流石に打ち出の小槌はないみたいだけど、似たような品々が7つも宝箱には入っていた。


鑑定しながら一つ一つ説明をしてあげた。


「本当に、お前は規格外だな」


普通は7つも入ってねぇ、とヒューバートに頭をポンポンされる。


「本当に俺等だけで分けていいのか?」とアデル。


「いいよ。私は勾玉を貰ったし、シロクマちゃん達もいらないって言ってるし」


「だって、蒼色勾玉ってー」

「数千年クラスのー」

「魔石だものー」


「ぴぇ……っ!?」


そうだった!

蒼天って数千年もここに居たんだった!!


おぶおぶと勾玉を取り出す。

こ、これ…Sクラスの国宝級の魔石じゃん!

一体どれだけの価値が……っ!?


「失くさない様に革紐付けといてやろうな」


メイソンが革袋の紐を抜いて、ささっと勾玉の穴に紐を通してきゅっと縛る。

そしてナナの首にかけた。


「んじゃ、遠慮なく宝は貰うな」


ナナは誰がどれをゲットするかジャンケンしている大人達の背中を見ながら、胸元にぶら下がる勾玉を人に見えないように、そっと服の中に入れ直した。




いつも以上にボロボロのまま0階に降りたアデル達を見て、周囲はとうとうボスを倒したのかと歓声を上げた。

アデル達は声援に応えてはいたが、どこか陰りを帯びていた。

明日には最高到達階数の垂れ幕が『第90階層到達』から『第90階層突破』に更新されるだろう。

団体名も『バロック商会』からクラン『エピタフ』となる。

ここ何年も目立つ場所にタダで看板を出せていたバロック商会だったが、今ではセーブクリスタルを大金を積んで買い戻しただけでなく、遺族への賠償金も相当な金額になり火の車。

迷宮都市『デルタ8』から撤退したのだった。

大企業の後ろ盾のない冒険者がトップになったのはいつぶりだろう。

当人達を置いてきぼりに、しばらくはお祭り騒ぎとなるのだった。




拠点に戻って、屋上で蒼天の遺体を焚き上げた。

名前の通り、空に帰るのかな?

天に上る煙を目で追っていると、ふわりと風が吹いた。

頭を撫でられた気がした。


誰も敢えて触れなかったけど、もし再び第90階層のボス部屋を訪れたら、やはり鬼が顕現するのだろう。

蒼天と同じ顔、同じ声。

でも、それは蒼天じゃない。

だって、彼の魂はもう自由だもの。

彼の想いの強さなら、きっと呪縛を断ち切れる。

そうでしょう……?


蒼色勾玉を太陽にかざす。

勾玉越しに虹が見えた。


「彩雲だ……」


縦に伸びた一筋の雲が太陽の光を浴びて虹色に輝いている。

虹色の龍みたいだ。

みんなも空を仰ぐ。


「五色の虹…?」


赤・黄・緑・青・黒という不思議な色の組み合わせ……

あ、蒼天とお友達の色だ。

よかったね、蒼天。

みんなで天に帰るんだね。


「バイバイ…」


昇り龍を見送る。

手を振ると、龍はスウっと空に溶けた。


西の空が薄っすらとオレンジに色付く。

夏が終わろうとしていた。


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