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いや~、びびった。

いきなり毛色の違うボスが現れるんだもん。

しゃべるとか、アリ?


「みんな、ちゃんといるよね?」


1、2、3…と数えてみると11人全員いた。


遺体を届ける前に、打ち合わせをしておく。

ボスを倒していないのに戻って来られた事の説明をどうするのか?


「ボス部屋には入らずに、外からアイテムボックスに収納した」


という事にした。


迷宮の真下の0階に隣接されている衛兵の詰め所で遺体と所持品を渡し、遺族が来る前にすぐに帰った。

だって………別れは辛いよ……………………


アデル達は残った。

迷宮での拾得物は拾った人の物になる。

なので、まあ、大人の話し合いの為だ。

第90階層という高レベルのセーブクリスタルなどをいくらで引き取るか、など、ね………




シロクマちゃん達が泳いでいる間、プールサイドでぼへ~っとしていたらアデル達が帰ってきた。


「で?人狼とは何の事だ?」とアデル。


えぅ…また大人達に囲まれてしまった……


「ん~っと、浄化依頼で知り合ったんだよ」


「で?」


ヒューバートの笑顔、圧があるんですけど?


「え? 何が?」


「何が? じゃない! 人狼がどんな存在か知らんのか!?」


「む、人狼は別に敵じゃないよ」


人狼は元人間。

浄化能力がある為に、祟りをその身に受けて魔物化し、キャパオーバーになると狂人化する。


「だから、偶に浄化魔法をかけると誰も狂人化しないと思うよ」


大人達は絶句した。

ああ、またナナが一つ解決した、と。

そして落ち着いたら、ゴルドベルク隊について教えてくれた。


バロック商会の商会長自ら衛兵の詰所にやって来た。

で、向こうが何か言う前に、「無条件で大白金貨2枚払うというなら、今後何が出てこようと一切権利を主張しない」とアデルが言うと、商会長は3秒で即決。

すぐに冒険者ギルドに行って入金してもらったという。


「で、これがお前の分け前な」


アデルに手に乗せられた革袋は結構な重さだった。

分かりやすいように日本円でいうと、取引額の2億円から1割の税金を取られて1億8000万円だから、3パーティーできれいに分けられたという。

そう、革袋に入っているのは日本円なら6000万円相当。

大きな貨幣は使いにくいだろう?と、金貨が600枚だそうだ。


「………色んな意味で重い」


もう、怖いでしゅ……


「お前達のお陰だ。遠慮すんな」


遠慮したいわ!

遺体と遺品で儲けたお金なんて!!!

しかも現金で持ってこないで!

恐怖していた所持金がおよそ倍になったんですけど!?

あっという間に1億円越えちゃったんですけど!?


私が革袋を抱えてしょもしょもしていると、ヒューバートに頭をポンポンされた。


「この先、もし理不尽な目に遭ったら、金で殴れ」


ヒューバートはそう言ったが、もしナナの能力を知った者が莫大な契約金で釣ろうとしても、大金を目の前にしても喜ばないナナなら大丈夫か、と安堵してのポンポンでもあった。


金で殴る…?

前世のゲームで『銭投げ』って攻撃方法があったなぁ…

あれって言葉通り現金を投げつけてダメージを与えるんだよね?

それをリアルでやれって…?


ナナはビックリし過ぎて混乱したまま、「あい」と返事をして中身だけアイテムボックスに収納すると、しぼんだ革袋をヒューバートに返すのだった。



「アデル達はこれからどうするの?」


あの鬼さんに勝てないのなら、もう迷宮攻略は諦めるしかないよね?


「どうすっかなぁ……」


完全に手詰まりだ。

ちゃんと答えが出ないまま3日が過ぎた。




「ナナー」

「鬼さんのー」

「食料尽きたかもー」


あ……食欲が復活した鬼さんがお腹を空かせているかもしれないね……


シロクマちゃん達に促され、第90階層のボス部屋前までやって来た。

来たのはいいけど、鬼さん怖いよぉ。

意を決してタッチパネルに触れる。

シュンっと開く扉。


「遅いではないか」


「ぴ…っ!?」


扉が開くと目と鼻の先に鬼さんがいて、ずざざざざっと後退った。

私につられてシロクマちゃん達も、ってこれ前にもあったな。


「お、お腹空いてる?」


「ああ、飢餓感が凄まじい」


それって、血に飢えてるとか言いません…?


あ、扉が閉まった。

再びタッチする。

鬼さんが仁王立ちしていた。


「早く入って来ぬか」


鬼さんが手を伸ばすが、見えない壁が扉の外に出るのを妨げる。


「いや、ここでいい」


前回、地べたに直接食べ物を置いてしまった事を反省して、今回は椅子とテーブルも出した。

が、また扉が閉まった。

10秒ももたないんだもん。


タッチ、っと。


「ぴえっ!?」


また鬼さんのドアップ。

なんで顔の位置がわかるの!?


「いいから、入れ」


「た、食べない…?」


「貢物しだいだな」


ニヤリとする鬼さん。

冗談か本気か判断しにくい…

逡巡していると、シロクマちゃん達がきゃっきゃと突撃していった。

はいはい、覚悟を決めますよ。


鬼さんと同じテーブルに着く。

イノシシの丸焼きを出したら丸かじりしてるんですけど……


「あれから誰も来てなかったんだ?」


「いや、来たぞ」


え…それって、また全滅させたの……!?

キョロキョロと周りを見渡しても何もない。


「昨日だ。まっことつまらん奴らだった」


おそらく、ゴルドベルク隊のマジックバッグから中身を取り出せたんだね。

そしてフロアマップと情報を書き留めた手帳とセーブクリスタルを使って、別の隊がボスにチャレンジして全滅……


「回収屋さんとかも来なかった?」


「他は誰も来てはおらぬぞ」


そっか、今は第90階層まで来られるパーティーはアデル達の『白刃の残光』と、ヒューバート達『アルゴス』と、私達『シロクマ戦隊モフるんジャー』しかいないのか。

あ、久々にモフるんジャーの名前を思い出したわ。

それにしても、全部クラン『エピタフ』だ。

『エピタフ』って実はスゴい集団?



誰も回収できなかったのなら、セーブクリスタルは消えてしまったのか……


「クリスタルなら、ここにあるぞ?」


「え、なんで持ってるの!?」


「食いモン持ってないか漁っていたら見つけた」


お主の所為で加工品が食いたくてたまらんのだ、とブチブチ言いながらも、首から下げているクリスタルを見せてくれた。

バロック商会が2億円も払って取り戻したのに、もう失くしてしまったと嘆いているのではなかろうか……


「それ、譲ってもらうコトはできないかな…?」


「んー?これが欲しいのか?」


「うん……罪悪感がね、ちょっと……」


迷宮探索が命だけでなく財産も懸けている事は充分承知している。

でも、お金を貰ったのが自分だって思うと居た堪れないよ…!


「ふむ……ならば条件がある」


「えっ、いいの!?」


「ああ、またお主らの連れと戦えるならばな」


「は……い………?」


「連れを、連れてこい」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


イノシシの丸焼きを骨までバリバリと食べてしまった鬼さんに笑顔で甘いものを要求された。

もうあんまり持っていなかったけど、シュークリームをあげたら喜んでいた。

もっと寄こせと言われたけど、大したモノ持ってないよ。

すると、カリンちゃんが面白がって豆まきの大豆を出した。

鬼さんはボリボリ食べてた……

うん、こっちの世界に節分はないもんね。


「んじゃ、とりあえずアデル達に話はするけど、どうなるかは保証できないよ?」


「お主等じゃあ、この先は進めまい。儂が鍛えてやろうぞ?」


「………あなたを倒して進めって言ってる?」


「儂を殺せる者を待っておる。もう、気が遠くなる程昔からな……」


そこんとこ詳しく。

幼女+3匹は椅子に座り直した。

紅茶を出す。

しゃべり出さないので、カリンちゃんがクッキーも付けた。


「あれは数千年前の事だ………」


チョロ鬼さんの名前は『蒼天』。

鬼ヶ島からこの大陸に仲間と共にやって来た。

目的は冒険。

長老達から島から出ることは叶わぬと言われていたが、どうしても外の世界が見たくて仲間達と船を出した。

が、海の怪物や嵐やらで最終的には難破して、流れ着いたのがこの大陸。

魔の海を越えることが出来たのは奇跡だった。

生き残ったのは5人。

赤・青・黄・緑・黒の鬼だけだった。

もう故郷に戻れるとは思わなかった。

航海で失った仲間の分も冒険するんだ。

5人で旅を続けた。

世界は広く、珍しい物ばかり。

人間には恐れられ、諍いもあったが出会いもあった。

人狼に会ったのもこの時だ。

旅は楽しかった。

ある日、迷宮の存在を知った。

当然、冒険した。

そしたらこの様だ。

この部屋で、アイオーンと名乗る人造天使に仲間は全員やられた。

最終的に儂はヤツを倒した。

が、相打ちだった。

しかし、目が覚めた。

体に傷はなく、部屋には知っているモノは何も無かった。

仲間も、アイオーンも。

ただ、人間がいた。

大層な鎧を身につけ、儂を殺そうとしていた。

腹が立った。

皆殺しにした。

その後、部屋から出る方法を探したが、何をやってもダメだった。

すると、部屋を汚していたものが光の粒となって消えた。

自身についていた返り血も消えた。

【千里眼】で外を見た。

最初は近場しか見れなかった。

その内、どこまでも見通せるようになった。

そして知った。

自分は迷宮に取り込まれ、敵を屠る為のカラクリの一つとして再生させられたのだと。

何故、自分だけ記憶を持っているのか解らないが……


「儂は、この残酷なループから抜け出したいのだ。儂を屠り、この迷宮の外に連れ出してはくれぬか?」


「殺すのは……無理だよ」


「儂は、あと何千年待てばよい…?」


誰かが、死ぬより辛い事なんてこの世にはないって言ってなかった?

ここにあったよ……

なんて答えればいいのかわからなくて紅茶を口に含んだけど冷め切って渋かった。


「…………大陸の外にも、文明があったんだね?」


「なんだ、急な話題転換だな。まあよい、付き合ってやる。儂も鬼ヶ島以外に文明があったとは知らなかったぞ」


「海は渡れないって聞いてた」


「ああ、巨大なイカとクジラが戦っていてな、その煽りで別の海流に乗ったのが良かったのであろうな。難破したが、大陸に流れ着いた」


やっぱりいるんだ、クラーケンとモササウルス……


「少し前、北から白い大鷲が襲ってきたよ。大陸の外は巨大生物ばっかりなの?」


「さあな、儂は南西から来たから北は知らぬ」


「……そっか……世界は広いね」


グレアムは暗黒大陸の事しか言ってなかったけど、南西に鬼ヶ島があるみたいだよ…?


「今日はもう帰るね」


「ああ、待っておるぞ」


イチゴちゃんが魔法陣を展開する。


「来ないの?」


鬼さん…蒼天を見るが、椅子から立ち上がろうともしていない。

ボス部屋から出られたら、きっと蒼天は解放される。

そうなれば、人食い鬼が世間に放たれる事になるのだが……


「何故?」


「……外に出たいんじゃないの?」


「数千年前も、儂等は魔物扱いだったぞ」


「今もそうだよ」


「試してみてもよいが、儂は出られぬと思うぞ」


そんなに迷宮の束縛は強いのだろうか?


「この迷宮を作った者の思惑通りに他者を屠るだけの存在として造られたこの魂も肉体も屈辱だ。こんな命のまま生きながらえるのは耐え難い。だが、自殺はせぬ。逃げもせぬ。ただ、戦って負けるのならば恥にはならぬ」


自分を殺す者を育てるというのか……


「わかった。また明日…」




拠点に戻って、アデル達に全部話した。


それにしても、回収屋さんの恋人の女性神官は迷宮に捕らわれる事なく神様のところにいるみたいなのに、どうして蒼天は迷宮内で復活したのだろう?

違いは何?

神の使いと、鬼……天使と悪魔……

天国と地獄?

生前に善行を行った者は天国へ、悪行を働いた者は地獄行き。

魔物は無条件に地獄行き…?

迷宮は地獄なの?

他にも疑問はある。


Q:何故、第90階層のボスはアイオーンではなく蒼天が顕現したの?

A:おそらく相打ちとなったが、死が訪れたのはアイオーンの方が少しだけ早かったのだろう。

だから、迷宮のシステムがより強い方を復活させた。


Q:何故、蒼天の記憶が残っていたの?

A:おそらく、強い想いが形になったからだろう。

仲間を奪われた恨み。

仲間を護れなかった後悔。

航海で失った仲間の分も冒険すると誓ったのに、志半ばで断念せざるを得ない弱い自分への怒り……

強い想いは怨念となり、迷宮に吸収されることなく目を覚ました。


全て憶測だが、大きく外れてはいない気がする……




「どうする?修行つけてもらう?」


あ、またみんなぽかんとしてる。


「その前に、またお前は危険な真似をしてっ! お願いだからこれ以上心配させないでくれ…っ」とヒューバート。


「ご、ごめんちゃい…」


「俺は…鬼に力を借りてでも強くなりたい」とアデル。


「まあ、俺もアリだとは思う。が、信じてもいいモンか?」とヒューバート。


「蒼天が嘘をついているとは思えなかったよ。てか、嘘をつく意味なくない?」


「それもそうだな。じゃあ、明日、早速行くか」



そんなワケで、翌日から第90階層での修業が始まったのだった。

あ、あと、セーブクリスタルは受け取らない事になった。

何故なら、バロック商会のやり方だと、ただただ死人が出るだけだからだ。

そんな事に手を貸すのはナナの教育に悪い!だそうだ。

ネコババしないアデル達、好きだなぁ。


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