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ナナはこの世界の特異点だなんて大層な事を言われているとはつゆ知らず、自分が歩く大金だった事実に肝を冷やしたものの、預金すると大金持っていることがバレるので、それはそれで怖いなぁと、とりあえず一晩寝て起きたら忘れていた翌日。


「今日は迷宮探索はお休み~」


「あいー」

「プールー」

「行くぞー」


ここは娯楽があるからシロクマちゃん達も暇しなくていいね。

私はリンスにお手紙書こう。


――――――――――――――――――――――――――

  おひさ 元気してる?

  現況報告だよ。

  第2皇子は訳あって悪い人を演じてたよ。

  演技は継続中。

  リンスとのコネが欲しい訳ではないみたいだけど

  グレアムのところに貴族達と共に

  居座ってるからまだ要注意かも?

                     byナナ

――――――――――――――――――――――――――


返事はすぐに来た。

もうお店に戻って、しばらく表に出ないことにするそうだ。

でも私達は【文蝶】を飛ばすだけでいつでもお店に行けるって。

今度こそ、適正価格で買うんだからね!

首を洗って待っているがいい!(なんか違う…)



そんな風に幼女+3匹はのんびりと過ごしていた。

お金は充分にあるし、迷宮に意欲的に潜る気にはなれないのでーすよー。


そうしている内に、アデル達は『アルゴス』と合流した。

が、中々進まない。

ある時は、靴を投げたら入口が透明な扉で塞がれ、中で毒霧が発生という初めて即死トラップを目の当たりにして引き返したとか。

ちなみに靴はシロクマちゃんにいくつか貰ったらしい。


他にも靴を放り投げても何も起こらなかったから中に入ったら、ウロウロしていたメイソンが魔法陣を踏んでカエルに変身させられたので解呪の為に拠点に戻って来たとか。

解呪は僧侶や神官系が得意なのだ。

それにしても、靴で異常がない部屋にも端っこに小さいトラップがある事があるのね。

靴は万能ではない事が証明されたのでまた足が遅くなった。




そして数日が過ぎ、流石にそろそろ迷宮探索でも再開しますか、と重い腰を上げて第51階層の探索を始めた。

ボス部屋の小窓からは土星が見えるようになり、やっぱり地球に向かって進んでるのでは?なんて予想しながらゆっくり進み、数日後に第60階層をクリアした。


さて、今日は第61階層。

予想通りなら木星が見えるハズ、と迷宮にやって来た。

ボス部屋でサソリ風エイリアンを倒した後に小窓を覗いたら木星だった。

このままいけば、本当に地球が見られる!?

ちょっとドキドキする~。


「今日はもう帰ろうね」


【巨大迷宮】って双角錐だから、真ん中あたりの階層は広いんだ…


「帰ったらおやつ食べよう」


「やたー!」

「いえー!」

「っしゃー!」


そこに館内放送が響いた。

『第90階層のボス部屋でゴルドベルク隊が全滅』と……



0階に降りると騒ぎが起きていた。

巻き込まれる前に速攻で帰ろうとしたら肩を掴まれた。

ぴえっと肩をすくめたが、アデル達だった。

ラウンジに誘導されたのでついて行く。

シロクマちゃん達はおやつを注文していた。


アデルはショックを受けているようで、ヒューバートが話をした。

ヒューバート達は最近やっと第90階層に潜れるようになったが、そこでとある探索者達と鉢合わせするようになった。

現在のトップランカーのバロック商会所属『ゴルドベルク隊』だ。

何かと突っかかってきて鬱陶しかったが、揉めるのも面倒で距離を置いていた。

そして今日、ボス部屋の手前で鉢合わせした。

勿論順番を守って待機していたが、やはり戦闘中はドアは開かないのかと何気にタッチパネルに手を当てたら開いてしまった。

が、それは戦闘が終わっていたからだった。

ボス部屋の中は血の海で、立っていたのはたったの1人。


「角を持つ武装した人型の魔物…初めて見たが、あれは『鬼』だと思う」


アデル達は扉が閉まるまで、茫然とその光景を見ていたという。


「鬼は俺達を見た。だが、襲ってはこなかった」


「ボス部屋から出られない仕組みとか?」


「かもしれん。ボス部屋のボスは一度現れれば倒されるまで継続して存在するとは聞いていたが、全滅に行き当たったのは初めてだった…」


それで急いで0階に戻って衛兵にバロック商会へ連絡するよう伝えたら、館内放送があった。

さっきのヤツか…


「なんであんな放送を…?」


「駆け付けられる者がいたら、遺品を回収して欲しいからだろうな」


トップランカーならば、装備は全身で大白金貨1枚(=1億円)に届く程の価値があるし、所持品には貴重な情報を書き溜めた物もあるかもしれない。

そしてアイテムボックスならば当人が死んだ場合は誰も取り出すことは出来ないが、マジックバッグなら優れた錬金術師なら中身を取り出す事も可能である。

なにより、遺族に遺体を返してやりたいのですぐに情報が広がるように放送したのだろう。


「そこで、だ。あと20分ほどで全てが消えてしまう。ナナ、一緒に来てくれないか?」


「私!?」


「ああ、敵は倒さなくていい。アイテムボックスに全部を避難させてやってくれ」


確かに、以前回収屋さんの恋人が亡くなった時の動画を見たが、死亡から1時間ほどで迷宮に吸収されていた。

だが、いつも倒した魔物をギルドに売却しているように、アイテムボックスに入れていれば1時間以上経っても消えはしない。


「わかった」


シロクマちゃん達もヤル気満々。

シュタっと椅子を降りてラウンジの出入り口に駆けてゆく。

急げー、ほら早くー、おいてくぞー、と言わんばかりのジェスチャー。

お口だけはモグモグしている。

うん、運ばれてきたおやつを急いで全部口に押し込んだもんね。



「あれ、嬢ちゃん、今から迷宮に潜んのか?」


あ、こないだ幼女にまでチェック入れてきたスキンヘッドのおじさん。


「今はバタバタしてんぞ。何階に行くんだ?」


って、また誰かについて行こうとしているの!?

ボス部屋よ!?命懸け過ぎなんじゃない!?

それにしてもまた私に話しかけてくるなんて、マジで感がいいのか悪いのか……


「なな」


サクっと嘘つくよ!

急いでんの、そこどいて!


「ほう、1つ進んだか。おめでとう。頑張れよ」


はっはっはっ、と大笑いして去って行った。

前回は『ろく』って言ったの覚えてたのか……あなどれん……


よし、気合いを入れなおして90階へ行こう。

アデル達もヒューバート達と別々に転送陣に入る。

高レベルのセーブクリスタルを増殖させる為に現地集合しているんだって。


第90階層は行った事のある86階層と壁の色が違ったけど、まあ、大体似たような雰囲気だった。


「そろったな、じゃあ、道順はわかってるし速攻で行くぞ」


「「「「お~っ!!!」」」


ヒューバートを先頭に、11人で走る。

途中、1部屋だけどうしても直接トラップを攻略しないといけなかった。

タイミングを計り、火炎放射を避けながら進んだ。

そして、16個めの部屋で止まった。


「この先がボス部屋だ。俺達が先に入って鬼の相手をする。その隙に、ナナとクマ共で遺体や遺品を回収してくれ」


「「「「らじゃー!!!」」」」


「っと、その前に、みんなにバフかけるー」とカリンちゃん。


【身体強化】【物理防御】【魔法防御】【魔力UP】と立て続けにかけていった。


出鼻を挫かれた感は否めないが、確かに力が湧いてくる。


「サンキュな。じゃあ、開けるぞ。3…2…1…Go!」


ヒューバート達に続き、アデル達もボス部屋に飛び込んだ。

幼女+3匹はこそっとドアの内側に入り、辺りを見渡した。

それは言葉で表したくない程の惨状だった。

『鬼』をチラリと見る。

金棒を担いで余裕の態度で立っていた。

とりあえず、幼女+3匹は標的になっていない。

ならば、今の内に…

鬼から遠い所から回収する。

1人……2人……3人……全員で12人と聞いている。

あと、2人………………いない?

あ、鬼の近くで倒れている。

ヒューバート達が遺体から鬼を引き離そうと動き回っているけど、鬼は余裕ぶっこいてその場から動かない。


いや、本当に強そうだな。

身長は3メートルくらい?

めっちゃスタイルのいいボディビルダーみたいな体型。

上半身裸、というか、袖を抜いて腰に垂らしているのか。

下はダボっとしたズボンに鎧っぽい防具を着けている。

肌の色は黒、じゃない。

青なのかな?青鬼?

そして顔………イケメンじゃね?

え、なに?鬼ってイケメンなの???


顔をガン見していたのがバレたのか、戦闘中にもかかわらずニヤッと笑ったと思ったら目の前に顔があった。

そして襟首を摘ままれて持ち上げられた。

が、すかさずシロクマちゃん達が遺体を回収した。

よし、これで消える心配はない。

けど、私が消えるかもしれぬ……

私が消えたら遺族に遺体を届けられない……っ


「……お主、犬っころの匂いがするな?」


「へ?しゃべるの…?」


「そりゃ、しゃべるであろう」


「ふぇ!? そ、そうなんだ……」


ちょっと、やめてよ!

意思疎通ができるなんて、もう倒せないじゃない!


「人狼に会ったのか?念入りにマーキングされてまぁ」


「そんなに匂う?もう別れてだいぶ経つのに…」


とりあえず、腕をくんくんと嗅いでみる。

特に獣臭いとかはないよ?

そもそもリアム臭った事ないし。


「ぷはっ、そうではない。練りに練り込んだ魔力が加護のようにお主に纏わりついておる」


ほぇ? 加護???

リアム、私に何したの……?


「まぁ、儂には効かぬが……鬱陶しいわっ」


鬼が吠えたら突風が吹いた?

ナナは見えなかったが、頭から鬼に伸びかけていたリアムのオーラが消し飛んだ。


「とりあえず、降ろして?さもないと、シロクマちゃん達が黙ってないよ?」


思いっきり他力本願である。

でも、鬼の背後にハンマーを振りかぶったイチゴちゃんが見えるもん。


だが、鬼は右手に持っている金棒でハンマーを弾き飛ばした。

二段構えで刀を構えて飛び掛かってきたラムネちゃんも返しの金棒で弾き飛ばした。

さらに3匹目のカリンちゃんが死角から光線銃を撃ったが、これも弾く。

同時に私の事もほっぽってくれちゃったので落ちたじゃない!


「ちょっと!シロクマちゃん達イジメないでよっ!」


鬼の脛を蹴ってシロクマちゃん達に駆け寄った。


「このじゃじゃ馬!数千年ぶりの人間ゆえ手加減してやってるというに!」


「は?何言ってんの?ついさっき何人も惨殺してたよね!?」


「まぁ、先程は久々の訪問者にテンションが上がり過ぎて加減をしくったが…だが、この部屋は儂が死なない限り出られぬであろう?楽しもうではないか」


「はい、タイム。ちょっと相談するから待ってて」


そう言って、11人は集まった。

律儀に待っている鬼。

マジか……

でも、チャンスなので輪になってこしょこしょ会話する。


「おっま、鬼相手になにやってんだよ!?」と小声で怒鳴るアデル。


「あー、私もなんか死ぬかもって思ったら、テンションバグって逆に冷静になったっていうか?」


「冷静じゃねぇよ!明らかにテンションおかしいわ!危ねぇから大人しくしといてくれ」とヒューバート。


「あ、あい……で、みんなあの鬼に勝てそう?」


「いや、正直無理だ」とサイラス。


「俺も無理だと思う」とヒューバート。


「じゃあさ、予定通りイチゴちゃんにスタート地点に転送してもらおうか」


「逃がさねぇよ?」


突然話に入って来た鬼。

11人は不意打ちの一撃を交わした。


ひょいっと片眉を上げる鬼。


「お主ら、いいのぅ」


「はい、タイム」


「またか?」


「いや、ちょっと疑問が。なんで人狼とか迷宮の外のコト知ってるの?数千年前にここに顕現したんでしょ?」


「ああ、そんな事か。儂は【千里眼】が使えるからのぅ。まっこと数千年も暇で暇で…」


もしかして、だから話しかけたら全部答えてくれるの?

それより、ラムネちゃんの【千里眼】は同フロアしか見えないって言ってたのに、この鬼って相当上位の存在なのでは…?


「ご飯ってどうしてるの?」


「食欲なんぞ、かれこれ数千年は忘れておったわ」


ぐ~くるきゅるきゅるぐ~ぐがぐ~


言った側からもの凄い腹の虫が叫んでらっしゃるのですが…?


「さっき血を口にした所為か、食欲が復活したようだ」


ぴえっ!? 好物は人間でしゅか!?


「これあげるよ!」


私はアイテムボックスに保存していた自販機で買った物をこれでもかと出した。

鬼が興味を示している隙に、イチゴちゃんにスタート地点まで転送してもらったのだった。


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