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アデル達から合図が来たのでイチゴちゃんにボス部屋へと転送してもらった。

アデルと抱擁して再会の喜びを分かち合う。

シロクマちゃん達もサイラスとレスターにモフモフ攻撃を仕掛けて喜び合った。


ヒューバートが眠っている5人組に詳しい話を聞きたいと言う。

それに、メイソンの作戦には日が落ちる前がいいというので申し訳ないが【アンチドート(解毒)】で無理矢理起こした。


5人全員が眠っていた事、急に現れた冒険者達など色々おかしい点には気付いただろうが、寝ぼけている間に説明して正常な思考回路を奪って納得させた。

ヒューバートって人を転がすのが巧いんだが……


改めて、令嬢を観察してみる。

少し青みの入ったプラチナブロンド。

ツヤツヤだけど落ち着いた印象を受ける。

全体的に線が細い。

顔だちも繊細だが、ぱっちりとした深い青の瞳に長いまつげが意志の強さを強調している。

魔法使い風の衣装だが、全体的に白で銀の刺繍が施され、どちらかというと聖女っぽい。

10代後半の大人の階段を上りかけた危ういバランスの美少女だった。



「気になることがあってな、失礼だが、深層まで到達できる腕前だとは思えないのだが…」とヒューバート。


「そうですわね、どこから話せばいいのかしら……」


公爵令嬢はぽつぽつと語り出した。

表情が乏しかったのでクール系かと思いきや、しゃべると品のあるかわいい系だった。


自分は『フロイド王国』の公爵家の長女。

(フロイド王国は『デルタ8』の北東にあるお隣さん)

ある日突然、夜会で自国の王子に婚約破棄を言い渡されショックを受けた。

当然、何故と問うた。

王子が言うには自分の婚約者に相応しいのは『聖女』だから、だと。

ならば、自分だって何か偉業を成さねばならないと迷宮攻略をする事にした、と。


え、ちょっと待って?

婚約破棄されたから迷宮攻略!?なんでそうなる!?

あと『聖女』ってラノベ知識の『聖女』であってるかしら?

生活魔法は全然違ったし、ここは一旦確認した方がいいかも……


「『聖女』ってなぁに?」


「ああ、そうですわよね。わたくしも最近知ったばかりですの。なにやら聖女とは世界の終末を防ぐべく神の恩寵により奇跡を起こす女性。各国に1人現れ教会が認定するそうですわ」


「胡散臭すぎる。その人に会った?どんな奇跡を起こしたの?」


「その方は男爵令嬢で、疫病が広がらないように教会で祈ったら、その女性に光が降り注ぎ鐘が鳴り響いたらしいですわ」


え、そんなん仕込みじゃん。

インフルエンザが収束したのは各国の封じ込め作戦が成功したのとタミフルが行き渡ったからでしょ。


それにしても、このお嬢様、『聖女』に対抗するために自分が『勇者』になろうっての!?

斜め上を行き過ぎではなかろうか……

そこでハタと気づいた。


この世界は魔王が降臨した事がないから『勇者』はいない。

この世界は未曽有の厄災がなかったから『聖女』はいない。


となると、今、この時代に教会が作り出したってコト?

ははーん、段々見えてきたぞ。

そもそも『12人の勇者が世界を救う』といって迷宮攻略者を『勇者』と呼ぶ事にしたのも教会。

貴族におもねって融通してもらうのではなく、自分達が決定権を持つには政治の中枢に入り込む必要がある。

だからと言って王座が手に入る筈もなく。

ならば王族に身内を潜り込ませるしかない。

その結果、教会の息のかかった女性を王妃に仕立て上げる為の伏線に『聖女』と『勇者』を持ち出した。

あからさま過ぎる。


「それで、迷宮攻略していた、と……よく深層まで来れたね?」


ヒューバートの最初の質問に戻る。


「それはわたくしが迷宮に挑戦すると申し上げたら、お父様が第81階層へ行けるセーブクリスタルを購入してくださったのですわ」


「侯爵も斜め上、似た者親子……それにしても、深層のクリスタルなんて売ってたんだ…」


護衛の1人が耳打ちしてきた。

大白金貨1枚と白金貨6枚と大金貨2枚(=1億6200万円)で買ったんだと。

え、何、そういうのしゃべっちゃうの!?

自分が仕える公爵家スゴいって自慢したかったの!?

それとも幼女をビックリさせたかった!?

違うところで驚いたのだが、護衛騎士は満足したようにニンマリした。



「わたくし魔法は得意なんですのよ。ですが、いざ挑んでみたはいいものの、思ったよりも敵が強くて…もう少し浅い階層から始めようかと思い直していたところ、トラブルに巻き込まれてしまいまして…」


いや、話聞いたら自分からトラブルに飛び込んで行ったみたいだけど…?



「もしかして、クリスタルの購入は裏ルートを使ったのでは?」


ヒューバートは確信めいた瞳で問うた。


5人組に加え、幼女+3匹も首を傾げた。

アデル達は知っているみたい。


「1年ちょい前だ、全滅したと言われていたパーティーの生き残りがクリスタルを奪って逃げていた、という噂が立った」


「ありましたね。そいつは高値でクリスタルを売り、迷宮内で購入者を殺してクリスタルを回収してまた売るという詐欺集団を作った、と……」と『アルゴス』の魔法剣士のロイド。


「確かに、そいつから購入したパーティーはもれなく全滅したとか言われていたな」と『アルゴス』のハンマー使いのノエル。


「経験の少ない探索者がいきなり深層に足を踏み入れたらそうなるだろうから疑いはかけられていたものの証拠不十分で疑惑だけが残っていたんだよなぁ」とアデル。


「そんな噂があるのに、買う人がいるの?」


「そいつ本人が売っているワケじゃないからな。もちろん売人もグル。クリスタルが本物だから騙されるだろうな」とヒューバート。


「え、では、私達が襲われたのは殺人を目撃したからではなく、最初から襲うつもりだったのですか?」と公爵令嬢。


「まあ、いまだに組織立って俺達を逃がすまいとしているところを見ると、その可能性が高いだろうな」


「では、襲われた方々は、わたくし達と間違われて…?」


公爵令嬢の顔が青い。

手も震えている。


「いや、迷宮専門の盗賊もやっているんだろう。あんたが気に病むことはない」


でも、これでセーブクリスタルを回収するまで公爵令嬢を狙い続ける事がほぼ確したと言ってもいい。


「そこで、こういうのはどうです?」


メイソンが僕の出番だ!と張り切り出した。


「この護符は『ターゲットマーカー』といって、相手の頭上に24時間マークをつけることが出来る代物です」


全員がぽかんとした。

それで?


「迷宮管理局に賞金首として指名手配してもらうんです。ここは迷宮都市、腕自慢は五万といます」


なるほど。前に言っていたのはココに繋がるのね。

ギルドに討伐を依頼しても、引き受けるのは1つの冒険者パーティーだけ。

騎士団に訴えても組織編成や移動やらでターゲットは逃げてしまう。

だが、国が懸賞金をかければ冒険者だけじゃなく、探索者や賞金稼ぎ、腕に覚えのある一般人もこぞって賞金首狩りをするから早めに決着がつくって事ね!


「メイソン、あったまいいー」

「魔術もおもしろー」

「やるじゃんー」


モフモフにいいこいいこされてデレデレのメイソン。

が、キリっと表情を作り護符の説明をした。


「これは相手に貼りつけ魔力を流せば発動します。分かりやすいように【DEAD OR ALIVE】と金額が表示されるように変更します」


「んじゃ、グレアムに金額の指定をして貰わないといけないんじゃない?【文蝶】使えないよ?」


「アイツにいち早く直接会い、事情を説明できるのなんてお前しかいねぇだろ」


幼女+3匹はアデルにビシっと指をさされ、重要な役を命じられた。

「あいっ」とビシっと敬礼し返したら、シロクマちゃん達もノリで真似した。


「それは引き受けたけど、護符を貼れるんなら倒せばいいんじゃない?」


「そこです!あえて倒せる相手にマーキングするだけなのは罠なんです!」


弱い奴は追いかけ回されるのを恐れてアジトに逃げ帰るかもしれない。

裏切りそうな奴を監視もしくは処分するためにアジトから応援が来るかもしれない。

組織の規模を把握し、アジトを突き止める為の罠なんです!

と、拳を握り締めて熱弁するメイソン。


「メイソン、天才ー」

「完璧な作戦ー」

「ぱちぱちぱちー」


シロクマちゃん達にちやほやされて恰好を崩しているメイソンは置いといて。


「お前達も、それでいいか?」とアデル。


「ええ、私達にはもうどうする事もできませんもの。でも、あの…先程グレアム様に会いに行かれるというような事をおっしゃっていませんでしたか?」


「え、うん。なんでか王侯貴族と知り合う事が多くって」


「まあ、アデル様も御母上は現国王の妹君なので血の半分は王族ですしね」


サイラスが急にアデルに様を付けて呼んだだけでなく、出生まで暴露した。

他国の公爵令嬢に対抗でもしてるの!?

てか、王族の血筋!? アデルが!?


「え、初耳なんだけど!?」


いや、でも納得だわ。

セディと妙に仲良かったのは従兄弟だったからなのか……

王城にも簡単に入っていたしねぇ。


「母上は臣籍降下した、ただの男爵夫人だぞ」


血筋は変わらんでしょうが…


「まあ、それでしたらオーランド帝国の第4皇子とも直接お会いできるのかしら?」


あ、そうだよね。

公爵令嬢だもんね、身分とかしきたりとか詳しいから私が王族に会うなんてそりゃ有り得ないと思っただろうね。


「事情があってね、第4皇子になら会えるようになってるんだ…」


やんごとなき雰囲気を匂わせたらきっといいように解釈してくれる、ハズ……!


「では、危険かと思いますが、よろしくお願いいたしますね」


「あい」


「わたし達にー」

「まかせてー」

「なぜならー」


「ガーネット レッドー」

「ラピスラズリ ブルー」

「こはく イエロー」

「アメジスト パープルー」

「「「「シロクマ戦隊モフるんジャー!」」」」


公爵令嬢は一番近くにいたラムネちゃんに抱き着いた。

侍女さんもソワソワしていたのでカリンちゃん自ら抱っこされに行った。

イチゴちゃんは護衛騎士になでくりなでくりされて満足そう。


私は1人ひっそりと羞恥に震えていたが、これだけは聞かなきゃと思った。


「あのね、まだ王子のコト好きなの?」


「えっ…………」


令嬢はラムネちゃんを無駄にナデナデしている。


「そんなバカ王子捨てて新しい恋しよう?」


「えっ…………」


令嬢のナデナデが高速化した。

静電気起こってラムネちゃんがふわっふわに見えるよ。

そして侍女と護衛騎士達が何度も頷いてる。


「もしかして、冤罪吹っ掛けられたりしてないよね?」


「………………」


令嬢のナデナデがぴたりと止まった。

あ、侍女と護衛騎士達が凄い勢いで頷いているよ。

そうか、モノホンのバカ王子だったか………


「よし、『ざまぁ』も計画に入れよう」


侍女と護衛騎士達がいい笑顔でサムズアップしてる。

困惑してオロオロしている公爵令嬢をはさんで、私も笑顔でサムズアップしていたらアデルに服を引っ張られた。


「お前達だけで迷宮を脱出させるのは忍びないのだが…」


「私達は敵に姿を見られていないと思うから平気だよ。でも、どうやって連携とろっか?タイミングとしてはみんなを追ってきて0階に降りた瞬間に指名手配を知らせた方がみんなの興味を引けると思うんだけど…」


「あのねー。敵の1人が竹細工の虫カゴ持ってるんだけど、あれめっちゃあやしくないー?」と【千里眼】を発動中のラムネちゃん。


【千里眼】はスキルなので、魔法の【サーチ(探知)】とは違い相手に感知されにくい。


「そうか、それ迷宮遺物だ!それで【文蝶】を捕らえているに違いない!」とメイソン。


そして諸々の作戦を詰めた。




「んじゃ、すぐにグレアムに話付けてくるね」


「ああ、虫カゴを持っているのはボス部屋の前にいる奴でいいんだな?」とヒューバート。


「うん。転移陣でスタート地点に戻った瞬間におそらく敵が【サーチ(探知)】仕掛けてくると思うから気を付けて」


「ああ、それと……」


ヒューバートが私の両肩をガシッと掴んで顔を近づけてきた。


「そのセーブクリスタルの話を後でたーっぷり聞かせてくれよな?」


「っ……!? ひゃ、ひゃい……」


第50階層をクリアしてすぐに浄化依頼で北に行って帰ってきたばっかりなのになんで深層に来られたのかそりゃツッコまれるよねぇ……



迷宮を出ると、急いで路地裏に隠れた。

そしてイチゴちゃんに転送してもらう。


「ちょえっす」


グレアムの執務室に飛んだ。


「……………………おかえり」


なんだろう?めっちゃ葛藤の末に普通に挨拶されちゃった。


「ただいま。グレアムって驚かないんだね」


「いや、まあ、ビックリはしたな。で、今度はどんなトラブルだよ?」


「トラブル一択なの?」


「違うとでも?」


「ふぅ~っ、違わないんだな、これが。アデル達が迷宮内で殺人犯に狙われてて籠城してる。犯人は11人。賞金首にして指名手配して?」


「詳しく」


私は事のあらましと作戦を話した。



「状況はわかった。そいつらの懸賞金は一律金貨5枚。ただしボスは30枚にしよう」


「相場はわかんないけど、それならより多くの人が動いてくれる?」


「ああ、おそらく……ついでに祭りにするか」


お祭り?

何かわかんなかったけど、グレアムが悪い顔でニヤリとしたから黙ってついて行こう。


グレアムの指示で僅かな時間で衛兵を迷宮に配備させた。

第0階層の準備は万端。

アデルに【文蝶】を飛ばした。

するとすぐに『作戦を開始する』と返信がきた。

無事に虫カゴを奪取できたし、護符も貼ることが出来たのだろう。


アデル達がそれぞれ転移陣で0階に戻ってきた。

そしてすぐ後に犯人達が怒鳴りながら転移してきた。

なんで犯人だとわかるかって?

そりゃ、ゲームで敵をロックオンした時みたいに頭の上にず~っと【DEAD OR ALIVE】と【金貨5枚】って見えるんだよ。

あ、1人だけ【金貨30枚】になってる。

あの人がボスか。


怒声と変な印の所為で注目を浴びた犯人達。

ベストタイミングで迷宮内に館内アナウンスが響き渡った。


『お知らせします。只今より賞金首が街に放たれます。懸賞金は頭上に示してある通り1人金貨5枚。ボスは30枚です。合計11名、早い者勝ちです。腕に自信のある方は振るって賞金首狩りにご参加ください。生死不問。詰所に連行すればその場で賞金と交換いたします。繰り返します………』


うん、えげつないね。

命がけの鬼ごっこが始まったよ。

令嬢を追いかける余裕もなく、犯人達は散り散りに逃げていった。

が、反応のいい冒険者に早速捕まった人がいるようだ。

生きて捕まったのならアジトの場所や構成人数などが割れるだろう。

もう、私にできることはない。

いや、あった。


「グレアム、令嬢を保護して欲しいんだけど…」


「ええ、もちろん。宮殿でおもてなしいたしましょう」


外だから、余所行きの振舞いだね。




令嬢達5人組は馬車で宮殿へと招かれた。

アデル達は早くクランメンバーに無事な姿を見せる為に帰った。

私は令嬢のもう一つの作戦の為に宮殿までついて行った。

とりあえず、サロンでお茶を勧められる令嬢。

グレアムが労りの言葉をかけていると、ばーんとドアが開かれた。


「グレアム!ちびモフ共が来ているんだって?」


第2皇子のヴァルターだった。

いや、まだ居たの!?


「おや、これは失礼しました。他にもお客様がいらしたんですね……」


第2皇子の顔を知っていたのか、令嬢は立ち上がりカーテシーをした。

そして顔を上げた時、ぶわりと風が吹いた。

勿論錯覚だが。

第2皇子と令嬢が見つめ合ったまま動かない。

完全に2人の世界。

恋に落ちた瞬間だった。


「グレアムさんや、第2皇子、まだ居たのね?」


小声で会話する。


「ああ、この建物、いや、街全体が設備が整って居心地がいいだろう?俺だけズルいとか言って帰ろうとしねぇんだ」


「グレアムの側に居たいんじゃないの?」


「確かに毎日毎日構ってきてうざいが、他の貴族も帰らねぇんだよ」


「それはそれはお疲れちゃん」


「いや、お前もありがとな。浄化の礼が早速届いたぜ」


「いやいや、こっちこそ規格外の報酬にビックリだよ。ありがとうね」


「おうよ。で、アレどうする?」


「冤罪かけられた悪役令嬢をどうやって救済しようかと思ってたけど、もうアレでいいんじゃない?」


「そうだな。フロイド王国とは比べ物にならない大国のオーランドの皇子に見初められたんならそれ以上はもうねぇだろ」


それに、あの腹黒皇子なら令嬢の元婚約者と取り巻きにきっちりしっかり『ざまぁ』してくれるだろう。

令嬢の侍女と護衛騎士が涙しながら万歳三唱している。

私は頭の中でキューピッドがプップクプーとラッパを鳴らし、祝福の鐘がリンゴーンリンゴーンと鳴っているだろう一足早い春が訪れた2人を邪魔しないように、護衛達とハイタッチして拠点に帰ったのだった。


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