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「さて、まずはアデル達と『アルゴス』と連絡を取りたいんだけど【文蝶】は使えない。何かいい方法はないかな?」


「「「………………………」」」


あぅ、シロクマちゃん達がお口を開けたまま一時停止してしまった。

うん、こんなピンチに陥った事ないもんね。

とりあえず、私が考えるよ。


「えっと、魔物がダクトを通って移動していたじゃない?あんな風にできたらいいんだけど、この部屋にあるのは小さすぎてシロクマちゃんでも通れないよね?何かいい魔法知らない?」


「あー!わたし変身できるー!」とイチゴちゃん。

「あー!わたしの千里眼とトランシーバーで道案内できるー!」とラムネちゃん。

「あー!わたし役立たずー!」とカリンちゃん。


「えーっと、イチゴちゃんが小さな生き物に変身して、ラムネちゃんの案内でアデル達のところに行くって事であってる?」


「わーん!わたしやっぱり役立たずー!」


「大丈夫だよ、カリンちゃん。カリンちゃんには必要物資を創造するという役があるんだから」


「ぉおぅ!やったー。わたし役立たずじゃないー!」


早速、脚立を作ってもらって換気扇ダクトを外す。


「う~ん、精々20cmってとこだねぇ。ネズミはあんまりだから、エゾモモンガなんてどう?」


「よっしゃー」


ぽんっと煙を立てて変身したイチゴちゃん。

か、かわいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!

サッとカメラを出して撮りまくる。


「ナナー」

「今はー」

「時間ないー」


「すまぬ」


そっとカメラを仕舞った。


「日本の警察の制服だと肩に無線を挟めるでしょ?トランシーバーもあれみたいに出来たら便利だよね」


「いいねそれー」

「カリン、作ってー」

「あいよー」


サイズ的に背中に背負う感じになったけど、早く走るには四つ足にならないといけないから逆にOKだろう。

ヘッドライトも作ってもらい、準備万端。


「大丈夫?行けそう?」


「だいじょぶー。いってきますー」


「「いてらー」」


ラムネちゃんの【千里眼】で方向の誘導は完璧。

ものの数分で到着したようだ。





アデル達はボス部屋でしょんもりしていた。

【文蝶】をいくら飛ばしても返事がない。

つまり、外で何かよくない事が発生していると思われる。

誰か外に偵察に出すか?と言う意見もあった。

が、0階で見張られていたら1人で対処できない。

ならば、ここに籠城して救援を待つ方が建設的だと判断し今に至るワケだが…


突然、天井付近から音がした。

敵か!?

全員が警戒態勢に入る。

ガンガン!

音がするのは換気口で間違いない。

が、あんなサイズの中に何がいるというのか?

音と気配に耳を澄ます。

ガン!という音と共にカバーが外れた。


「アデルー、助けに来たよー」


ひょこっと顔を出したのは全体が薄いグレーでお腹が白のかわいらしいモフモフ。

つぶらな瞳が印象的だが、一体何者?

突然、小動物が被膜を広げ、アデル目がけてダイブしてきた。


「あー!ベルトが邪魔で被膜が広がらないーっ!」


叫ぶ小動物が空中でぽんっと煙をあげ、アデルの視界が塞がれた。


もふん。

アデルの顔面がもふもふに包まれる。


「この、フワフワもっふもふは…ナナのクマ公か!?変身できるのか!?」


アデルはシロクマちゃん達を時々『忠犬ハチ公』のノリで『公』付けて呼ぶ事がある。


「あいー。これでナナとしゃべれるよー」


クマの姿になった事で背中のトランシーバーに届かなくなってしまったので、地面に着地して背中を向ける。

いや、クマになって体格が変わっても固定ベルトが苦しくないのはこれ如何に?

まあ、『神速の指輪』も指の大きさに合わせてシュルっとサイズ変更したし、そういう魔法があるんだね。


ここを押している時だけ向こうに声が届くよー。

離さないと向こうの声は聞こえないよー。

と、簡単な説明で使えるのがおもちゃのトランシーバー。

アデルは早速話しかけた。


「ナナ、いるのか?」


「アデル!よかった、元気そう」


「ああ、お前も迷宮にいるのか?」


「うん、隠し部屋にいるから安全だよ。とりあえず、イチゴちゃんから救援物資を受け取って?」


イチゴちゃんがアイテムボックスから出したのはお風呂とトイレ。

それに食べ物とテーブルとソファ。

隠し部屋とは違い、ボス部屋にはお泊りセットはない。

ずっと硬い床で辛かっただろう。


アデル達は慣れているが、一緒に籠城していたもう一組のパーティーはポカーンとしていた。

さもありなん。

動物が変身しただけでなく、大量の物資を出したのだから。


「あの…これは一体なんですの?」


おや、冒険者にしてはずいぶん丁寧な物言いのお嬢さんですね?

イチゴちゃんは首をかしげた。


「ああ、うちのクランメンバーの従魔だ。異変を察知して近くまで来てくれたらしい。そうだ、先に風呂に入ったらどうだ?」


「え?お風呂、ですか?」


凄く戸惑っていたが、やはりそこは女の子、お風呂の魅力に負けていそいそともう一人の女の子と入って行った。

残りの男性3人は護衛のように入口に立つ。

気になったイチゴちゃんは椅子とテーブルを出してあげた。

勿論、飲み物と軽食付きだ。


その間、アデル達も補給しながらトランシーバーで会話を続けた。

現況の説明だ。

それは昨日の事……




「さあ、いよいよ深層だ。いけるか、お前等?」


アデルはスタート地点で2人を振り返った。


「何をおっしゃいますやら、まずは『アルゴス』に追い付けなければ、ダンジョン・コアなんて夢のまた夢だぜ」とレスター。


「まあ、『アルゴス』の到達階数まで自力で行く事が彼らとの同行許可の条件だからな」とサイラス。


そう、迷宮の深層では他人を気遣う余裕はない。

全部自己責任。

みんな命懸けだが、無理して死ぬつもりはない。


しばらく進み、敵がさらに強くなっている実感をかみしめていた時、遠くから迷宮には似つかわしくない女性の叫び声が聞こえた。


「お嬢様、お下がりください!」


アデル達は顔を見合わせ、頷いた。

様子を見に行く。


そこには、女性2人を庇うように騎士の姿をした男性3人が魔物と奮闘していた。

加勢に入ったアデル達。

無事に魔物を倒すと、5人組はアデル達に転移陣まで連れて行って欲しいと依頼してきた。

正直面倒だが、ここで見捨てて死なれるのも寝覚めが悪い。

ボス部屋ではなくスタート地点へと言うので了承した。

が、急に出てきた魔物に驚き、お嬢が走って行ってしまった。

そう、この5人組は公爵令嬢と侍女と護衛騎士3人のとんでもパーティーだったのだ。

魔物を倒し、お嬢を追いかけると、お嬢はとあるパーティーに難癖をつけていた。

いや、真実は殺人を目撃したにもかかわらず、逃げずに説教をかましていたのだ。

豪胆なのか考えなしなのか…

殺人犯達はお嬢の同行者の人数を知る為にニヤニヤしながらお嬢を眺めていた。


「随分大所帯だな。ガキのお守りご苦労なこって」


そして戦闘になったのだが、全員は倒せなかった。

なんとか逃げようとした矢先、トラップを踏んで知らない場所に飛ばされてしまった。

とにかく出口を探そうとしていたら、奴らが追ってきた。

逃げ込んだ先はなんとボス部屋。

ギリギリ倒したが、みんなボロボロで動けない。

【文蝶】を飛ばしたが、返事は来ない。

これはおかしい。

外で何かが起こっているのかもしれない。

ここで籠城する方が得策か?

0階に誰かが様子を見に行ってみるか?

だが、誰が?

お互いに守るべき人がいる為、傍を離れるのは憚られた。

疑心暗鬼のトラップで身動きが取れないでいた。




「そして今ココな」


「一応、状況はわかった。私も【文蝶】をアデルに飛ばしたんだけど、どうやら敵さんに不思議な魔法が使える人がいるらしくって、『無駄だ。【文蝶】は我々が奪った』って返事が返ってきたの」


「そうか……外と連絡は出来ないのか……」


「私達の前に『アルゴス』がアデル達探しに行ってたよ。今は、同じフロアの別の隠し部屋にいるみたい」


「そうか!……もしかして、勝てなかったのか?」


「まだコンタクト取ってないから詳しい状況はわかんない。でも、ケガはないみたい」


「そういえば、もう帰ってきたんだな?おかえり」


「ただいま。さっき帰ってきたばっかだよ」


「なんか、悪ぃな」


「いいってことよ」



随分話し込んでいたみたいで、お嬢がお風呂から出てきた。


「あの、ありがとうございました。おかげで落ち着きました」


「いや、近くまで救援が来ている。これからの事を話そう」


「あ、その前に、アデルとイチゴちゃんだけとお話したいんだけど」


私がそう言うと、ボス部屋から続く転移陣の部屋に2人だけ移動してくれた。

ドアの前にサイラスとレスターが立って見張っている。


「あのね、敵は殺人を目撃されたから消そうとしているのなら、早いとこ迷宮から出た方がいいと思うの。だから、イチゴちゃんに皆をボス部屋に転送して欲しいんだけど…」


「もち、いいよー」


「ありがと。でも、そっちの人達にイチゴちゃんの転送魔法がバレるのはよろしくないでしょ?だからね、隙をみて皆を眠らせて欲しいの」


「それがいいねー。どうやら違うフロアには飛べないみたいだから転移陣からじゃないとお外出れないー」とイチゴちゃん。


やっぱり迷宮って特殊な空間なんだなぁ。

まるで迷宮内だけ違う理で世界が成り立っているみたい。


「じゃあ、まずは『アルゴス』と落ち合うから、イチゴちゃんは一旦帰ってきてくれる?」


「うんー。ダクト通った方がいいー?」


「そうね、転移魔法も回数制限があるし、温存していた方がいいとは思うけど…疲れたなら飛んできてもいいよ」


「う~ん、疲れてはいないからダクトから戻るー」



というワケで、再びモモンガになってダクトに潜って帰って来たイチゴちゃん。

ああ、かわいい。

じゃなくて『アルゴス』とも連絡とらなきゃ。

ヒューバート達、元気かな?


再びダクトを走るイチゴちゃん。

カバーを蹴破り登場した小動物にヒューバート達は瞠目した。


「あー、久しぶりメイソンー」


「…………えっ、声がイチゴちゃん…?」


「あいー、イチゴだよー」


飛び降りて元の姿に戻るイチゴちゃん。

メイソン達はわっとイチゴちゃんを囲んだ。


イチゴちゃんはマイペースに背中のトランシーバーを取ってもらい、使い方の説明をした。


「皆おひさー」


「おう、マジで声が聞こえる…お前も相変わらず元気そうでなによりだ」


ギルドの長期依頼で他国に旅立ったと聞いていたが、何でいるんだ?

ヒューバートは疑問を飲み込んだ。

そんな場合ではない。


「色々聞きたい事があるが、先にナナ達と合流できるか?」


「ああ、そっちの方が早いね。部屋の中央を開けるから……はい、大丈夫だよ」


床に現れた魔法陣の中に皆が現れ、再会の抱擁を果たした。



幼女+3匹は輪になって座る男性陣の膝の上に1人ずつ座っている。

私は掻い摘んで説明した。

アデル達が遭遇し保護している5人組と敵の事。

外の様子がわからなかったのでボス部屋で籠城している事。

現在の敵の位置と人数など……


「そうか…急に襲われて何事かと思ったが、クラマス(アデルの事)達とは無関係のフリをして正解だったかもしれないな」


もし誰かが捕まっていた場合、人質の身の安全と引き換えに何かを要求されたら従わざるを得ず、共倒れになっていた可能性もある。


「【文蝶】が奪われていたとはな。クラマスに飛ばしたヤツは念の為、暗号で書いててよかったな」とヒューバート。


「ああ、返事がないと思っていたが、どうやって文蝶を奪うんだ…?」


メイソンは自分の知らない魔法なり魔道具なりが存在する事に悔しさを感じていた。


「それに目撃者の始末だけが目的ではないかもしれない。今、敵は11人いるんだろう?俺らは6人は葬ったから残り5人くらいだったはずだ。それがまた同じくらいに増えているのなら殺人は偶発的な犯行ではなく、なんらかの組織の計画的犯行だろう」とヒューバート。


「うわぁ…だったら、0階も見張られたりしてるのかな?」


「その可能性が高い。まあ、俺らの面が割れているのかは半々だな」


「うん……じゃあ、とりあえずアデル達に合図送っていい?」


「ちょっと待ってくれ」


割り込んできたのはメイソンだった。


「向こうがこっちを絶対殺すマンだったら迷宮の外でも仕掛けてくるかもしれない。だから確実にあいつらを倒す、もしくは捕まえないと厄介だと思う」


これからも迷宮探索を邪魔されては敵わない。


「でも、どうすれば…」


だって、ヒューバート達でも敵わなかったんでしょ?


「迷宮管理局を動かそう」とメイソン。


「なぁに、それ?」


迷宮管理局:迷宮都市の領主、つまり現場においてはグレアムが頂点の組織で、文字通り迷宮を管理している。仕事内容は法を定め、施設を整備し、犯罪を取り締まるなどなど多岐にわたる。ぶっちゃけると、安全に迷宮を運営して儲ける為の国家機関である。


「つまり、国に逮捕してもらおうってコト」


「それが出来れば一番いいんだろうけど…」


正直、こういったファンタジーの世界の警察機構ってお粗末じゃない?

軍人がとっ捕まえて処分するだけっぽい。

専門の捜査官って存在してるの?

捜査して犯人を追いつめるって部分が全く足りてないと思うのだけど……


「そこでいい物がある」


ふむ。メイソンは魔術師、なにか面白い魔術を持っているようだ。


「説明はみんな揃ってからがいいだろう?」


というワケで準備だ。

アデル達にメールを送った。

そう、以前トランシーバーと一緒に宝箱に入っていたスパイ7つ道具の1つ『万能腕時計』を渡していたのである。

まあ、使い方を説明したけどサイラスしか覚えられなかったんだけど…

ちなみに、この世界の共通語が使えたよ。

迷宮遺物が万能すぎて怖い…


音声入力で『こっちの準備はOK。返信待つ』とメールを送る。


「それ、何やってんだ?」


ヒューバートが膝の上のナナの手元を覗き込む。


「これは音声を文章で送ってるんだよ」


「へぇ、それも迷宮遺物か?」


「そう、さっきの通信に使ったトランシーバーもね」


珍しいけど、そこまで驚く事じゃないようだ。

なまじ【文蝶】なんてものがあるから、通信技術は発達しなくてもそんなに不便でもないだろうしね。



連絡を受けたサイラスがアデル達に合図する。

とりあえず、お茶に睡眠薬を混ぜるという古典的手段で眠らせてみる事にした。

死線を潜り抜けた運命共同体だからだろうか、5人組は疑うことなくお茶を口にし、アッサリと眠りに落ちたのだった。


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