36
その日、迷宮で館内放送が終わると、ロビーが湧いた。
ヒャッハー!大金が歩いてるぜ!など野蛮な歓声が上がる。
まさにお祭り状態。
腕に自信ニキが大はしゃぎしてその日の内に11人の賞金首全員が捕まった。
その上、待機させていた衛兵に、ロビーで不審な動きをしたノーマークがいたら後をつけるなり捕らえて尋問するなりして情報を集めろ、と指示していたのでアジトも発覚。
金貨の山だけでなく、他者から奪ったであろうセーブクリスタルを複数押収。
逃げた組織のメンバーも少しはいたが、まあ、脅威があるとは思えないレベルだそうだ。
ちなみに第2皇子は公爵令嬢とラブラブで仕事の邪魔をしなくなったので快適だと追伸があった。
そんなワケだから、グレアムから安心しろと【文蝶】が来たのは良かったが、私は夕食後、食堂で大人に囲まれていた。
アデル達は、幼女+3匹は『アルゴス』についてきたから迷宮の深層に入れたと思っていたが、ヒューバートに抱っこされて全部吐かされたその事実に眉間にシワを寄せた。
そして盛大にタメ息をつかれた。
「別に、お前が何を手に入れようとそれはお前の自由だ。言いたいのはそこじゃない」とアデル。
んじゃ、なんで怒ってるの?という顔をしたのが伝わったようで、大人達から口々に言われた。
第90階層のセーブクリスタルを持っていた事を秘密にしていたのは別に問題ではない。
迷宮という特殊な密室で男に付きまとわれた事が問題なんだ。
見ず知らずの男なんか構わず、速攻で逃げるべきだ。
結果的に無事だったからよかったものの、警戒心が足りない。
などと、めっちゃ心配された。
「セーブクリスタルの事はこれからも秘密にするんだぞ」とヒューバート。
「あい」
「あ~、かわいい。娘がいたらこんな感じなんだな」
まだ30代前半のはずのヒューバートがほっぺで私のほっぺをスリスリする。
「あ、そうだ。深層のマップ全部持ってるけど、写す?」
「は?深層全部?」
「うん、これ…」
アイテムボックスからスイッチを取り出しマップを表示させる。
映っているのは第81階層なので、ヒューバート達も見覚えがあり本物だと確信した。
「これ…どうしたんだ?」
「この端末自体は迷宮遺物。マップは迷宮の端末からセーブクリスタルに保存したんだよ」
大人達がフリーズした。
あり?もしかして伝わらないテクノロジーだったかな?
「明日、みんなでマップ見に行く?」
大人達はみんな首をぶんぶんと縦に振った。
転移陣が3回起動した。
各々のパーティーで転移しないとセーブデータが消えちゃうからね。
初期化前提で沢山セーブクリスタルを持っていって、帰る時に一人一人違うセーブクリスタルで帰っても、それは階数を記録してくれない。
迷宮に入った時に使ったクリスタルしか使えない仕組み。
ゲームシステムでいうところのフラグを立てないとダメって事だね。
ちなみにアイテムボックスに入れていても無駄なのだ。
裏ワザとして、迷宮に入る時はソロで、中に入ったらパーティーを組み、ボスを倒して転移陣で次の階へ行く時はまたソロになって移動すればセーブクリスタルは増やせるのだけどね。
ただし、かなり面倒だし、結構深い所まで潜らないとクリスタルの売値より魔物の素材を売った方がうま味があるので殆どやる人はいない。
そんなワケで、やって来ました第76階層。
そうなんです、ここには『シャトル』があるのです!
運転してみたかったけど、ゲームみたいに単純な操作ではないだろう。
宇宙空間に放り出されるのは怖いので試運転はしっかり勉強してからにしよう。
なので、アデル達にマップのダウンロードの説明をするのは管制室でやる。
「これが電源。押すと画面が立ち上がる」
コンピューターを立ち上げただけで「おお~」っと歓声が上がる。
「で、この虫メガネのマークをタップすると検索バーが出てくるから『マップ』と入力する」
「ちょっと待て、なんて書いてあるのかわららんぞ」とヒューバート。
「古代文字だよ。一先ず『マップ』という文字を記号として覚えて」
「あ、メモるから待ってくれ」
メイソンが手帳を取り出しメモメモした。
「文字が入力された状態で虫メガネを再びタップすると検索結果が表示される」
「いっぱいあるんだな」とアデル。
「この『フロアマップ』っていうのがお目当てのヤツね」
メモるのを待ち、フォルダをダブルタップして開くと76~99階のファイルが並んでいる。
1つタップして開くとマップが表示された。
「ガジェットがないと持ち運べないのが難点だね」
「だが、1度書き起こせば歩いてマッピングするより断然早いし正確だ」とサイラス。
なのでサイラスとメイソンが書き写すまで待つ。
シロクマちゃん達はシャトル内を探検している。
うっかり出発しないか心配だ。
いや、流石にそれはないか。
「『アルゴス』はどこまで進んだの?」
「86で足踏みしている。そこから難易度が跳ね上がってな、即死トラップもあるらしい」
即死トラップと聞いて『バイオシリーズ』を思い出した。
この【巨大迷宮】は人工物だから殺人レーザーとかね。
第86階層ね……
何気にマップを開いて吹き出した。
正方形の部屋が縦横同じ数並んでいて廊下がなく、ドアだけで繋がっている。
映画の『CUBE』かゲームの『HALF DEADシリーズ』を匂わせる造りになってない?
リアルマインスイーパー……
殺人トラップてんこ盛り。
絶対生身で行くところじゃないわ。
マップをめくってみると、第95階層まで一面四角い部屋だった。
86階から難易度爆上がりって、そういう意味だったのか…
唯一の救いはランダムダンジョンではないから情報さえあれば安全な正規ルートが分かるって事。
でも、それまで何人が犠牲になった事やら…
他のパーティーには情報が漏れないようにしてきただろうから、組織ごとに犠牲者が……
それぞれの迷宮の年間死亡者数が推定10万人だと言われているのも頷けるわ。
「クマ公【千里眼】持ってただろ?ボス部屋の場所がわかれば楽勝じゃね?」とアデル。
「だったら楽だねぇ。でも部屋に入らないとトラップがあるかわかんないし、閉じ込められて不可避のトラップが発動したら全滅するよ?」
アデル達はまだ86階層に足を踏み入れたことがないから、マップだけ見たら楽勝に見えただろう。
だが、実際に86階層で足踏みしている『アルゴス』は、アレは体験してみないとわからないだろうな、と独り言ちる。
「ナナ、何か知っているのか?」とアデル。
「まさか。行った事ないから、おそらくとしか言いようがないけど?」
ヒューバートが小さな声で『ほ~ぉ』と言いつつ私を見つめてきて、嫌な予感しかしないんだが…
「今から行ってみようぜ!」と、にっかりヒューバート。
「イヤ!爽やかスマイルで言ってもダメだから。私達は51階に戻って順番通り攻略するもん」
「お試しで、ちょっとだけ、な?」
「死にたくないもん!」
「ナナが来てくれなかったら、俺ら死ぬかもしれねぇなぁ……」
「にゃーっ!卑怯だ!幼女になんてコト聞かせんのよーっ!!!」
どいつもこいつも私を何だと思ってんのよ!?
か弱い幼女よ!?
サラリーマンとは違って決まった時間に行動しないといけない訳じゃないから今の生活もスローライフと言えなくもないけど、こんな命がけの毎日なんて私の求める真のスローライフじゃないから!
なのに、抵抗虚しく連れてこられました……(涙)
わざわざ0階まで一旦下りて【文蝶】を飛ばしてクランメンバーを迷宮に呼び出したんだよ。
アデル達のセーブクリスタルを持って帰らせる為だけに。
アデル達のクリスタルは86階には行けないから私のクリスタルで行く事になったからね。
それにしてもマップ書き写すの早いよ2人とも。
まだまだお昼前だからたっぷり時間があるじゃんよぉぉぉぉぉ。
シロクマちゃん達はワクワクしてるけど、大丈夫かな?
「シロクマちゃん達、ここからは部屋に入っただけで死んじゃうかもしれないから何が起こっても絶対に突進しちゃダメよ?」
「あいー」
「しょうちー」
「りょー」
さて、マップを見てみると、部屋数は7×7で、スタート地点は右下だった。
拡大してみても、トラップの詳しい説明なんて書いてないので自分で確かめなければならない。
でも、ゲームと違って動きや能力の制限はない。
いわゆるプレイヤースキルが活かせる点は有利である。
ただし、ゲームと違って命の残機なんてないんだけども…
86階に来ると、マップに変化があった。
スタート地点の部屋に数字の『1』が表示されたのだ。
ゲームだったら、続きの部屋の1つがトラップのある部屋だって意味だけど、既存のゲームと同じルールなワケないから全部手探りだな。
まずはマップで見ると上の部屋から調べてみよう。
「とりあえず、靴を投げてみる?」
言ったらカリンちゃんがスッとスニーカーを出してくれた。
なんて用意がいいんだ!
あ、また私の頭の中見たね?
でも、まあ、何が危ないかわかっているならちょっと安心だ。
「なんで靴なんだ?」とアデル。
「様式美かな」
みんな頭に『?』を浮かべたのが見て取れたが、うまい説明を思いつかない。
ぺいっと靴を放り込む。
一瞬でレーザーで焼かれた。
はい、こっちは無理。
数字的にはこっちは安全のハズだが、一応、マップ左側の部屋にも靴を放り込む。
変化なし。
ふむ、やはりこっちが正解か。
となると、数字は危険な部屋数と判断しても良い?
「今までどんなトラップを喰らったの?」
ヒューバートに訊く。
「そうだな……壁から回転する刃が現れて複雑な動きで襲ってきたり、急に床が抜けて落下した先に槍が仕込まれてたり、壁からでっかい送風機が出てきたと思ったら反対側の壁から棘が出てきたり、だな」
「いやぁぁぁぁぁぁ…殺意高しゅぎるぅぅぅぅぅぅ……」
「まあまあ、即死じゃねぇんなら、俺等が先に入るから」
アデル達も初見なので、まずは『アルゴス』が左の部屋に進む。
何も起こらなかった。
どうやら靴での判別は可能らしい。
大丈夫だろうかと眺めていたら、ドアが閉まってしまった。
でも、この閉まり方は閉じ込める為ではないハズ。
ちょっとドキッとしたけど、ドアのタッチパネルに触れるとまた開いた。
私達も左の部屋に入った。
一番外側の部屋なので、次もドアは2択。
マップを見ると数字は『2』だった。
「今度はどっちの部屋にもトラップあるよ」
「なんでわかるんだ?」
「このマップの数字が危険な部屋数だと推察しているところ」
「ほ~う。なら、気を引き締めないとな」とヒューバート。
カリンちゃんがスニーカーを出してくれたが、イチゴちゃんが投げたいと言う。
ならば、靴を投げるのはシロクマちゃん達に任せよう。
まずは上の部屋の扉を開く。
もわっと熱気が溢れてきた。
地面がマグマだった。
飛び石があるけれど、この部屋は保留で。
左の部屋のドアを開く。
特別な部屋ではないので、一見しただけじゃわからない。
靴を投げて確かめる。
あ、3つも投げなくていいんだよ。
いや、まあいっか。
加圧探知機か、振動探知機かはわからないが、センサーが反応して床からポールが沢山せり上がり、天井まで伸びた。
等間隔に配置されている。
「これは?」
「俺達も見たことねぇな。だが、マグマよりはマシだろう」とヒューバート。
念の為、ハンマー使いのノエルが自分の武器のスレッジハンマーを突き出してみると、バチっと見えない何かに弾かれた。
結構な衝撃だ。
これでは進めないではないか。
かといって、マグマの部屋だって暑くて無理なんですけど!
「こっちは弾かれないが…」
少し進むとまた弾かれるそうだ。
「俺の武器は耐久値を上げてあるとはいえ、さすがに何度もこの衝撃を喰らうのは勘弁して欲しいっす」とノエル。
そうだねぇ、おそらくこれは見えないレーザーによる迷路だろう。
うっかり生身で触ったら腕ごと持っていかれそうな迷路…
レーザーが見えれば……そう、例えば…
「スパイ映画みたいに、メガネかけたら見えたらいいのにねぇ…」
ぽしょりと零したら、イチゴちゃんが反応した。
「わたし『スマートグラス』持ってたー」
『スパイ7つ道具』の1つだね。
トランシーバーといいスパイペンといい、めっちゃ大活躍してる。
イチゴちゃんはメガネをすちゃっと装着して迷路に飛び込んだ。
えっ、突進しちゃダメって言ったのに!
ビックリしてフリーズしていたら扉が閉まった。
「きゃーっ!戻ってきてイチゴちゃん!」
急いでタッチパネルに触れる。
扉が開くとそこにちょこんと立っていた。
引き寄せ抱きしめる。
「あいー、ごめんちゃいー」
し、心臓に悪いわ……
気を取り直してイチゴちゃんに先導してもらう形で迷路を進んだ。
この部屋も数字は『2』。
どっちもトラップあり、だ。
迷路だったが、上の部屋にも左の部屋にも行けるようだが、ラムネちゃんが上の部屋は一面毒沼だと教えてくれたので左へ進む。
扉を開け、靴を投げ込むと中央から大きなカプセルがせり上がってきた。
人型の魔物が入っている。
カプセルのドアが開く。
部屋の中に他にトラップがあるかもしれない。
だが、迷路の狭い通路で一列になっている状態で戦闘なんて目も当てられない。
全員が魔物がいる部屋に飛び込んだ。
ヒューバート達は強かった。
部屋の床は20m×20m、天井までは10mくらいだろうか?
狭くはないが、使える魔法は少ない。
なので純粋に武器だけで倒した。
「なんだ、見惚れたか?」
ロングソードを振って鞘に納めながら、相変わらず軽口をたたくヒューバート。
「かっくぃー」
「いけてるー」
「ひゅーひゅー」
シロクマちゃん達にはウケていた。
そうしてなんとか進み続け、次の部屋がボス部屋だとラムネちゃんが言う。
ここまで来るのに18部屋通ってきた。
途中、天上が降りてきて急いで安全そうな部屋を探してギリギリで飛び込んだり、【スロウ(低速)】がかかった部屋に入ってしまい10倍の時間をかけて脱出したり、様々な困難を潜り抜けてここまで来た。
「やっと、ボス部屋…」
みんな、疲労困憊だ。
ランチも食べそこなっていたので、ここで休憩をとることにした。
この部屋は魔物がいただけの何もない空間なので丁度いい。
椅子とテーブルを出してくつろぐ。
サンドイッチやらからあげやらを並べる。
がっつり食べたい人はカツカレーもあるよ。
そして食後30分の休憩もちゃんととった。
さて、気合いを入れなおしてタッチパネルに触れる。
開いた扉の向こうは空間拡張の魔法が掛けられているのか、だだっ広かった。
天上も高い。
そして現れたボスは巨大ヘビ型エイリアン。
全長20メートルくらい?
胴回りも直径1メートルくらいあるんじゃない?
人間なんて一飲みだよね…
シロクマちゃん達は敵のあまりの大きさにしょんもりしている。
でも、ヒューバート達は全然怯まない。
だが、やはりデカい。
まず氷魔法で動きを止めようとするが一瞬凍っただけですぐに割られてしまった。
ならばと状態異常を引き起こす魔術を発動するが、耐性があるようであまり効果がない。
さらに雷魔法も表面にしか影響がないみたい。
ならば一番火力のある爆発を使いたいが、いくら換気ダクトが通っていても、室内で火魔法は使えない。
酸欠になるからね。
あと、有効そうなのは風魔法。
剣で次々と斬撃を飛ばす。
巨大なのに動きの素早いヘビに翻弄されながらも攻撃の手を緩めない『アルゴス』とアデル達。
幼女+3匹は見ているだけだった。
私はいいんだけど、シロクマちゃん達は元気がない。
「ねえ、ヘビは寒さに弱いから、部屋を氷魔法で覆ったらどうかな?アデル達が滑るといけないから床だけは避けてね?」
そう言うと、シロクマちゃん達は張り切って壁と天井を凍らせ始めた。
完成すると、次は何する?と聞かれたので、
「ヘビの弱点は寒さと刺突だから、でっかいツララを落とすのはどうだろう?」
と言ったら、嬉々として魔力を練り上げていった。
ヒューバート達は常に巨大ヘビを見上げて戦っていたので気付いた。
あれが頭に刺さったら倒せる!
「俺らはアイツの動きを止めるぞ!」
一瞬でいい。
出来るだけ頭が地面に近づいた時を狙ってもう一度氷魔法で凍らせた。
「今だ!」
ヒューバートの合図で、まるでライフル弾みたいに豪速で落ちてきたツララは見事に巨大ヘビの頭部を貫いた。
「「「「「へ…?」」」」」
呆然とするアデル達。
対してシロクマちゃん達はハイタッチして大はしゃぎだ。
「今の何だ?」とアデルが代表して訊いた。
「えっとね、ラムネちゃんがめっちゃ硬いツララを作って、私がバリアでそれを筒状に覆って、イチゴちゃんが爆発を起こして打ち出した物に、カリンちゃんがさらに重力魔法を重ね掛けしたんだよ」
「「「「「なんじゃそりゃーっ!?」」」」」
銃の応用なんだけど、この世界では見たことないし、説明ムズいので笑って誤魔化しといた。
ヒューバート達が『恐ろしい子…!』という顔をしていたが、幼女+3匹は巨大ヘビと記念撮影していたので気づいていないのだった。




