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騎士団員達は確信していた。
教会の人間が自分達では浄化は出来ないと言ってた事は真実だったと。
ナナが浄化出来たのは簡単だからではない。
ナナだから簡単に出来たのだ。
教会の人間がナナを『様』と呼んでおもねっていたのは、彼女の実力を知っていたからなのだ、と。
完全に誤解である。
ちなみに、教会の人間も浄化自体は出来る。
ただ、【ピュリフ(浄化・聖)】の範囲が狭く、1日に使用できる回数が少ないので人数が必要なだけだ。
「あの、お願いがあるのですが…」
副団長さんが言い難そうにしている。
「なぁに?」
「その…小姓に生活魔法を教えて欲しいのですが……」
「ん?生活魔法って、初歩の初歩で誰でも使えるんじゃないの?」
「まさか!生活魔法は四大元素全てに加え闇・聖・無の全属性の理解が必要と言われています。【ライト(光)】など魔石を使った魔道具なら誰でも使えますが、例えば【ドライ(乾燥)】などは風と水と火の複合魔法である為おいそれとは習得出来ません」
あうち。
前世のラノベ知識とかけ離れてた。
そういえば、他の人が使ってるの見た事なかったけど、それは生活魔法自体が人気がないのかと思ってた…
ラノベだと生活魔法使いは役立たずだと認識されてて不遇な扱いだったから。
でも、今ので納得した。
私が魔導書を読んだだけで魔法を使えるのは、転生時に生活魔法を選んだお陰で全ての基礎が頭に入っていたんだ…
しかも【INT(知力)】を上げてあるから魔法の理解も早い…
過去の自分、グッジョブ!
ナナは気づいていなかったが、前世の知識も大いに役立っていた。
魔法はイメージと教わったが、『知っている』方がイメージしやすい。
【ドライ(乾燥)】に関して言えば、水(液体)が水蒸気(気体)となり蒸発するから乾くという原理を知っている。
湿気が多いと乾きにくいとか、ドライヤーは冷風より温風の方が乾きやすいとかを実体験も交え知っている。
更に、物語でよく出てくる事柄なので、魔法が使えなかった頃でも『お馴染みのアレね!』という認識だった。
フィクションだったとはいえ、すでに『事象』を目で見て『概念』を知っているというのは、この世界の人からすればとてつもないアドバンテージなのだ。
「教えるって言われても、魔法陣の種類と詠唱を覚えるだけなんだし、魔導書を見れば済む話では?」
「……ナナさんはそうやって魔法を覚えたのですか?」
「うん。……えっ、他にどうやって覚えるの?」
あ、このコ天才だった…
副団長は頭を抱えた。
感覚派の人は他人に物を教えるのは難しい。
「数年、うちの小姓を弟子として預かって欲しかったのですが…」
「無理っす」
「その様で…」
私が弟子をとるなんておこがましい!
あと、幼女が先生だなんて弟子がかわいそう。
「そういえば、魔法陣を印刷してスクロールを量産すれば便利な世の中になりそうなのにね?」
印刷の魔法は既にあるんだし…
にゃ、にゃにかな、その可哀想な子を見るような瞳は!?
「ただ同じように描いただけで魔法を発動できるなら誰も苦労しないのではないでしょうか……」
そ、そっか…
考えてみたらわかる事だった。
誰もが真似できたら、スクロールを売っている人は仕事にならないねぇ。
1度購入したら、模写すればいいんだし。
そんな事、誰もやってない。
出来ないからだよ。
「魔法って難しいんだねぇ」
そうしみじみと呟いたら、副団長は残念な顔をして私の頭をぽむぽむした。
リアムに「騎士団が国境まで送ってくれるって」と言ったら、帰りはいつになるかハッキリとした日付がわからなかったから商隊との連携は組んでいないから助かるそうだ。
ん?となると、オーランド帝国に入ったら自分達だけで迷宮都市『デルタ8』を目指さなければならないのか……
ま、いっか。
騎士団はお風呂とトイレを購入したものの、ナナ達がいなくては移動できないと気付き、急遽家馬車に改造して馬で引くことにした。
浮遊石を使用したので追加料金を握らされた……
「ねぇ、なんでリアムが人狼だって気づいたの?」
こっそり団長さんに聞いたら、ニヤリと口の端を釣り上げた。
急にいたずらっ子の顔をするから危険を感じ、そろ~っと離れたら、団長さんの背中にふよふよと揺れるモノが……
黒いしっぽ!
よく見たらヒョウ柄!
普段は最初期のベジータみたいにしっぽを腰に一周させていたのね!
耳は人間のそれだったから全然気づかなかった!
「団長さんって黒豹の獣人だったの!?」
「正解だ」
ナナは遠慮なくしっぽに手を伸ばした。
捕まえたと思ったら、するりと手から逃れるしっぽ。
「すべもふ…」
懲りずにしっぽに飛びついていると、リアムに抱っこされてしまった。
「しっぽはデリケートなんですよ」
「えうぅぅ、ごめんちゃい…」
団長さんは気にするなと言ってくれた。
正直、自分に怯えない子供は珍しいのでちょっと嬉しかったりする。
「…偶にいるんですよね、私の正体を見破る方が。だから普段は内勤をしているんですけど」
「まあな、普段魔物と対峙している分、一般人よりは魔物の気配に敏感なんだ」と団長。
「もしかして副団長さんも獣人だったりする?」
「だったら何の獣人だと思います?」
その気品と美貌はそんじょそこらの動物ではないハズ……
「えっとねぇ………ユニコーン!」
「ふふっ、光栄ですが、残念ながら普通の人間です」
「そっか。でもめっちゃ反応してたよね?」
「団長の警戒レベルが尋常ではなかったので、私も気を抜くわけにはいかなかったので」
まだ今も少し緊張してる?
完全には打ち解けていないみたいだけど、喧嘩しないならいいかな。
レオンが仕事の合間にやってきては、炎の魔法が凄かったと興奮気味に騒ぐのでちょっと照れくさい。
オレもいっぱい修行してすげぇ魔法剣士になるんだ!と鼻息荒くしてたけど、副団長さんが生活魔法を覚えて欲しいみたいだよ?と言ったらこの世の終わりみたいな顔してた。
ふむ、やっぱり生活魔法は人気ないじゃん。
そんなこんなで数日後、国境付近に着いたのだが、騎士団を見た避難民達は絶望した。
ここで自分達は殺されると思ったらしい。
村の焼き討ちは、実は領主が独断でやったもの。
国の方針ではないので王国騎士団が一般市民を手にかけることはない。
焼き討ちの件で領主は罰せられる事はなかった。
疫病の蔓延を防ぐ為に村を焼くのは昔からままある事だったのだ。
この世界の法律は『習慣法』が強い。
昔からそうだから、という理由で何もかもが決定する。
領主が急に今日から変えると言っても誰も従わないという。
法律とは…?
何はともあれ、騎士団と別れてオーランド帝国を馬車でひた走る。
途中で預けていたお馬さんを迎えに行き、雪がほとんど積もらなくなるくらい南下すると魔物の襲撃に遭いやすくなった。
シロクマちゃん達がヒャッハーと飛び出していくのはお馬さん達も慣れたもの。
戻ってきた時にはヒヒンと一鳴きするので「おかえり」とでも言っているのかもしれない。
とうとう『デルタ8』に戻ってきた。
ほぼ1ヶ月の旅だった。
2月ももうすぐ終わる。
昼間の日差しは春を感じさせた。
クラン支部前で馬車が止まる。
「ここでお別れだなんて、寂しいです」
「1ヶ月も拘束してゴメンね。色々助かったよ。ありがとう」
「いいえ、こちらこそ刺激的で充実した日々でした。というワケでテイムは…」
「しません」
ドサクサに紛れさせようとしてもダメです。
「どうしても?」
「どうしても」
リアムはタメ息をついた。
「………わかりました」
ふうっ、やっと諦めてくれた!
本当にね、ダメなのよ。
だって、どう考えたって私が先に死ぬじゃない。
主を失った従魔はどうなるの?
テイムした時の魂の繋がりは言葉では言い表せないものがあった。
あれが断ち切られるのはどれ程の痛みだろう。
絆が生まれた人に先立たれるのも、自分が先立つのも耐えられないわ。
大切な人に2度と会えないと気づいた時の喪失感をわざわざ与えたいとは思わないの。
シロクマちゃん達は別よ。
だって、元保護者の神様が放っておかないでしょう?
「リアムは本店勤務?帝都に帰るの?」
「いえ、一応報告をしに戻りますが、私は歳を取りませんからね、同じところに何年もいられないのです。ちなみに商会長は全てご存じです。コーディネーターの仕事を受けた時、完了後に商会を辞める話もついています」
「そっか…じゃあ、どうするの?」
「そうですねぇ……久々に、同胞に会いたくなりました。散り散りになった仲間を探してみようかと思います」
「そっか。会えるといいね」
「ええ、ありがとうございます」
ハグを求められ、応じる。
シロクマちゃん達と全員でハグし合った。
リアムの目が潤んでいたけど、そこには触れない。
バイバイ、またいつか会える日まで……
馬を厩舎に、馬車をアイテムボックスに収納し、キックボードで冒険者ギルドにやって来た。
「ちょえっす」
「ただいまー」
「帰ってきたよー」
「任務完了ー」
「えっ、もう戻って来られたんですか!?」
いつもクールな受付のおにぃさんが目をまんまるにしてる。
「あいー。全部終わったよ」
「えっ、まだ1ヶ月しか経ってませんよ!?」
「そだね」
「えっ、もしかして依頼失敗ですか!?」
「んもう、違うよ。ちゃんとお仕事して団長さんのサイン貰ってきたもん!」
書類を提出すると受付のおにぃさんは呆然と見つめた。
「ほら、これが元凶の白い巨人。腕を持って帰ってきたけど確認する?」
写真を見せると再び呆然とした。
シロクマちゃんが映っているのでハッキリとわかる巨人の大きさに言葉を失ったのだろう。
「おかえり、ナナちゃん。魔物の素材があるのですか?」
「ただいま…素材は大したものはあんまりないかな」
振り向くと、素材買取カウンターのおにぃさんがカリンちゃんを抱っこしていた。
カリンちゃんの足を頬にめり込ませながら…
懐かしい光景だ。
抱っこはさせるけど、頬ずりは許さないのよね。
「はっ、申し訳ない。確かに依頼達成完了を受理します。お疲れさまでした」
「ありがとう」
報酬の受け渡しは素材買取と一緒にということなので、隣の倉庫へ向かう。
何だか2人が私の担当さんみたいだな。
買い取ってもらったのは道中で襲ってきた魔物全部。
「さっき言っていた白い巨人は売らないのですか?」
「ちょっとね、別の用途があるの」
「ちょっとだけ見せて欲しいのですが…?」
「いいよ」
デデン、とアイテムボックスから出した手首。
よく見ると左手だった。
切り口から血が滴るので結界で覆った。
「初めて見ますね…」と受付のおにぃさん。
「そうですね、新種なので名付けが必要ですね」と買取のおにぃさん。
提出した写真と見比べて見分し始めた。
「第一発見者は誰になります?」
「そうですね…イーデン王国の冒険者ギルドに連絡を取らねばなりませんね」
頭の上で、ギルド職員のお仕事の話が飛び交っている。
「少しだけ、ほんの少しだけ分けていただけませんか?」
買取のおにぃさんは仕事柄、珍しい素材に興味津々だろう。
「いいよ」
結界を解除すると、おにぃさんは切り口からほんの少し肉を削ぎ取った。
税金や手数料を引かれて手元に残った金額は白金貨が2枚だった。
「おかしくない?」
依頼報酬は白金貨1枚だったから、手取りは大金貨8枚。
買取の魔物素材は精々金貨5、6枚。
ならば残りの白金貨1枚と+αは何!?
「白い巨人のサンプルの値段ですよ?」
「高すぎ怖い」
「ですが世界に一つだけ。未知の物質なのですよ?」
「騎士団からタダで貰ったものなのに…」
「それはナナさんが素晴らしい仕事をした報酬でしょう」
受付のおにぃさんも当然の金額だと言う。
「そこまでの事は…それにしても高すぎ…」
「これくらいに設定しないと、どこぞから聞きつけた研究者が自分にもくれとたかって来ますよ?」
うっ……それは嫌だ……
「わかった。じゃあ、もうちょっといる?」
というワケで、10cmの輪切りが追加された。
そうだ、グレアム達にも依頼達成のお知らせしなくちゃ。
文蝶を飛ばす。
アデルは迷宮探索中だろうから、邪魔になるといけないよね?
拠点で待っていようかな。
そう思ってクラン支部に帰ると、何やら慌ただしかった。
「どうしたの?」
1人捕まえて訊ねると、泣きそうな顔で言われた。
「昨日からアデル様達が迷宮から帰ってきていないの!」
幼女+3匹はキックボードを最大速度で走らせた。




