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「途中からすっかり敬語が飛んでましたね、彼女」と副団長。


「ああ、まだ幼いから仕方ないだろう。不敬にはしねーよ」と団長。


「ええ、そうでしょうとも」


副団長もこれまたイケメンであだ名は氷の貴公子なのではなかろうか?という風貌をしている。

神経質そうだが淡い紫色の長髪を無造作に一つに束ねていて、黒い団長と真逆を狙ったかのような真っ白の鎧。

実年齢は団長より上なのに、副団長の方が年下に見える。


威圧感のある団長は初対面の子供に逃げられるのが常である。

それなのに、ナナは聖職者が帰ってからはリラックスしてお茶とお菓子を楽しんでいた。

素に戻ってタメ口になってしまったのは却って微笑ましいというものだ。

天幕を後にする幼女+3匹の背中を見送る団長と副団長の表情は優しかった。



スウィフト団長が所属する王国騎士団は国の常備軍である。

近衛でも親衛隊でもないので王城に常駐するのではなく、有事の際に集まるのが通例だ。

スウィフトは王都ではない王領地の代官もしている。

そこには鉱山があるのだが、魔物がよく出るので戦い慣れている。

此度の病の発生源となった漁村のある領地の領主が自分の手には負えないと王宮に騎士団の派遣を願ったのもあり、領地任せではなく王国騎士団が派遣された。


騎士爵は準貴族、一代限りの名誉称号だ。

騎士団の正騎士は次男以下の貴族子息達が殆どである。

だから家督を継がなければ貴族という身分ではなくなるものの、貴族だった頃のプライドはそうそうなくならない。

元からの平民に対し横柄な者が多いのだが、スウィフト団長は「王の騎士に選ばれたのならば生まれではなく騎士道に誇りを持て」と教育され、後進もそのように育てている。

よって、表面上は皆仲良しだ。




ナナはログハウスを出し、馬を馬房で休ませた後、また団長の天幕を訪れた。


「あのね、お風呂とトイレを持っているの。騎士の皆さんも使う?」


「……………はい?」


団長、副団長が同時に首をかしげる。


見てもらう方が早いと連れてきた。


「このお風呂とトイレをもう1セット持っているの。皆さんも使う?」


「是非お願いします」


即答したのは副団長さんだった。

風呂好きなのだろう、ニッコニコだ。

お湯に関しては魔法で扱える人がいるというのでお任せする事にした。

ちなみに薪式サウナストーブを設置しているので極寒の地でも寒くないよ。


お礼にご飯は騎士団が作ってくれるという。

ありがとう。


「ログハウスの方も凄いな」


急遽始まったルームツアー。

だが、1部屋しかないし、家具もないので一瞬で終わったのでお茶を出す。


「こちらは旅をコーディネートしてくれたナッシュ商会のリアムだよ」


リアムを紹介したら、めっちゃ警戒された。

団長さん達がバッと立ち上がり、剣に手をかけたのだ。

うそん! リアムが人狼だって即バレしたの!?

シロクマちゃん達と一緒にリアムの前に立って手を広げて「めっ!」したら、剣から手を離してくれた。


深~いタメ息が出た。


「ちょっとそこ座ろうか?」


激おこ幼女に説教される大人の図の出来上がり。


「一般人にいきなり剣を抜こうとするなんてどういう了見なの!?」


「蛮族ー」

「野蛮人ー」

「乱暴者ー」


「平民が貴族には逆らえないの知ってるよね!?」


「威張りんぼー」

「パワハラー」

「弱い者いじめー」


「暴力で押さえつけるのがあなた達の騎士道精神なの!?」


「弱者の保護はー?」

「フェアプレーはー?」

「ノブレス・オブリージュはー?」


シロクマちゃん達の追撃もあり、団長達のライフはゼロになった。


「「不徳の極み」」


膝に手をつき頭を下げる団長達。


「あ、いえ、私が人狼なのは事実ですし…」


さすがに人狼だとは思っていなかったのか、リアムが言うや否や、また剣を抜こうと立ち上がる2人。


「いい加減にせいっ!!」


思わず【パラライズ(麻痺)】かけちゃった。てへっ。


「解除するけど、暴れないって約束してくれる?」


団長達は痺れながらもなんとか頷いた。


「ったく、言葉も通じるし社会的、文化的生活を送っている相手に問答無用で斬りかかろうとするなんて、どっちが獣よ?まずは話し合いでしょ?」


幼女+3匹に白い目で見られ、しょんもりする大人が2人。


「だが、人狼はいつの間にか人間社会に紛れ込み、人肉を貪る怪物だ」と団長。


「そういえば、私、人狼がどんな人達か知らないや」


リアムを見ると、困ったように眉をハの字にしていた。

何も知らないで傍に置いていたのか?と呆れてもいるし、責められてもいる……


「どんな、と言われましても……私の両親は人間です」


えっ!?と言ったのは団長達。

彼らも人狼について実はよく知らないようだ。


「人狼は人間から生まれます。私の一族は人狼が生まれやすいと言われていました」


リアムは知っていることを教えてくれた。

人狼は人間として生まれてくる。

ところが、ある日突然人狼に変身してしまう。

多くが成人してから変身するのは充分に生きていける年齢を待っているのだと思われる。

不老となり、超速再生持ちとなるので致命傷を負わなければ半不死身となる。

たいてい戦闘により死亡するので、正確な寿命はわかっていない。


「満月の夜に変身して人間を襲うのは何故だ?」と団長。


「満月で変身するのは一番最初だけで、次からはいつでも変身できますし、人肉を食べようとも思いません」


「リアム、甘い物が好きだもんね」


「ええ。ナナさんから頂くスイーツはどれも絶品です」


団長達は微妙な顔をした。


「ですが、実際に人狼に滅ぼされた村があるでしょう?」と副団長。


「ええ、何故か定期的に狂人が発生するようです。100年に1人くらいでしょうか…」


「お前がそうならない保証は?」と団長。


「100%の保証は出来ませんが、私の知る限り、狂人化するのは幼少期から少々乱暴者でしたね。ですので私は大丈夫だろうとしか…」


リアムは私を見てにっこり笑った。


「ですが、ナナさんにテイムしてもらったら100%になると思います」


「いや、だからテイムしないって!」


「残念です」


「お前は何故人間に紛れて生きている?」と団長。


「何故と言われましても……私が生まれ育った村は実は人狼の隠れ里だったのです。ある夜、同胞が狂人化してしまい、他所の村を襲ってしまいました。放っておくことは出来ません。里の人狼数名でその者を討伐しました。ですが里に帰ってみると里の皆は殺されていました。近隣の村には人狼の住む里だとバレていたようですね。私達は人間に追われ、散り散りとなりました」


「そんな……」


リアムは穏やかに微笑みながら頭を撫でてくれた。


「もうずっと、ずーっと昔の事です」


でも、だから平気ってワケじゃないでしょう?


「人狼といえど、元は人間です。せめて獣人として生きていきたいのです」


「うん、リアムはただしっぽが生えているだけの人間だよ」


団長達はしばし考え込むように沈黙していたが、重い口を開いた。


「わかった。人間の脅威ではないと認めよう。だが、もし何らかの兆しが見えたらその時は討伐させてもらう」


「ええ、構いません」


「あなたが人狼だという事は皆にバレないようにしていただきたい」


「もちろんです」


ふうっ、もしもの時はイチゴちゃんに転移魔法を使ってもらう事になるかもと思ってたけど、なんとか戦闘は回避できたようだ。

えうぅぅぅ、疲れたぁ……



ログハウスのドアがノックされたので開けてみると、自分とあまり変わらない歳くらいの少年が立っていた。

随分話し込んでいたみたいで、空には星が瞬いていた。


「あのう、夕飯出来ましたよ?」


「まぁ、子供なのに騎士団でお仕事してるの?偉いねぇ」


「…いや、おまえもだろう?」


およ、そういえばそうだね。


皆で青空食堂へ行く。

焚火を囲んでテーブルと椅子が並べられていた。

団長さん達はいつも自分の天幕で食事をするらしいので、私達は呼びに来てくれた少年と一緒に食べる事にした。

どうやら、リアムが冒険者ではない事は周知されているらしい。

でも私の仲間なので食事は出してくれる。


少年の名前はレオン・ウォード。

7歳で家を出て小姓になってまだ1年未満らしい。

男爵の四男なので早々に騎士として見習いに出されたのだとか。

小学1年生で寮生活みたいなもの?

こっちは子供には生きにくい世界だねぇ。


「おまえ、1人で浄化作業すんのか?」


「シロクマちゃん達もお手伝いしてくれるよ?」


ちゃんとスプーンでシチューを食べるシロクマちゃん達を眺める少年。

こいつらが?と思っただろうが、口には出さなかった。


「私も身辺警護くらいはさせていただきますよ」とリアム。


「ついて来てくれるの?」


ないとは思うが、1人にして知らないところで討伐されたら嫌だから、傍にいてくれた方が安心だけど。


「ええ。瘴気は魔物を生み出しますからね」


「そうだった。巨人の足跡から魔物が湧くって聞いたけど、近隣の村とか大丈夫なの?」


「近くの村に人はいないからか、魔物はこの陣を目指してくる。それに全部の足跡から生まれるワケでもないんだ。一晩に5、6体くらいかな?」


「一晩中警戒しているの?」


「ああ、日中は殆ど発生していない。だから夜を重点的に警戒して半数が夜勤にあたっている」


う~む、大変そうだ。

これは、なる早で浄化した方がよさそう…

でも幼女だから、夜は使い物にならないから今夜はまだゴメンね。




翌朝、団長さん達と打ち合わせする。


「えっと、瘴気が発生しているのはここから500m先から海に向かって200mくらいだったよね?なら、そんなに時間はかからないかも」


「は? まるで今日中に終わるみたいな言い方だな?」


「そうね。とりあえず、距離をとって後ろからついて来てくれる?」


「ああ、それはもちろんだ」



「では、しゅっぱーつ!」


「「「「おぉーっ!」」」」


リアムもノリノリである。


てくてく歩く幼女+3匹。

その後ろについてくるリアム。

そして更にその後ろについてくる騎士団。

傍から見たら遠足に向かう園児と引率だ。


ちなみに、騎士団のみんなは昨夜、久しぶりにちゃんとお風呂に入って全身ピカピカにしたのでシャキッとして見える。

ナナが用意した石鹸とシャンプーのお陰で髪の毛もサラサラつやつやだ。

鎧もナナが【クリーン(清掃)】をかけたのでとても気持ちがいい。

副団長は小姓に生活魔法を覚えさせようかと本気で悩んでいた。



明るい空の下で見ると、肉眼でも空気が淀んでいるのが見える。

薄っすらと漂う紫色の霧。

海からの風が強く、だいぶ流されてきているようだ。


「さて、この辺から結界張った方がいいかもね」


魔法は自分を中心に半径十数メートルに効果がある。

効率を考えたら、瘴気の中に突っ込んで行ってから魔法をかけた方がいい。


「【サンクチュアリ(聖域)】」


瘴気を遮断する聖なる結界で自分達を覆う。


「この結界は瘴気は通さないけど、物理攻撃には意味ないから気を付けてね」


「「「「らじゃー」」」」


「さて、どの辺りに足跡があるかわかる?」


「わたしが【千里眼】でナビするー。えーとねー、あっちー」とラムネちゃん。


「了解」


向かいつつも、時々【ピュリフ(浄化・聖)】で空気を浄化する。

うん、ちゃんと私の魔法が効いているようだ。


背後で騎士団がざわついている。

聞き耳を立てると『あんなにあっさり!?』とか『本当にできるんだな!?』とか言われてた。

甚だ心外である。

私はデキる幼女なのだ!


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