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サロンでの話し合いは長時間にわたった。
そもそもの原因は、4年前にオーランド帝国王の側妃である第2皇子ヴァルター殿下の母親が秘密結社『コルウス』のメンバーとなってしまった事だった。
息子を皇帝の座に着けて国を乗っ取る。
その為に、まだ12歳だった皇子を洗脳する側妃。
聡い子だったヴァルターは身の危険を感じ、母親の望む自分を演じ始めた。
他の皇子達はみな敵、自分が次期皇帝に相応しいと。
「演技上手過ぎません?大勢の前で婚約破棄を言い出しそうなダメ男そのものでしたよ。女性を侍らせ始めた時には、兄上はもう駄目だと思いました」
組織に監視役を付けられるのなら美人の方がいいからハーレムを作ったのだという。
てか、グレアムの言っていた「あいつだけはダメだ」っていうのは『暴君だから』だと思っていたけど、『ざまぁされて破滅する王子』という意味のダメだったのか……
「そうしていた方が御しやすいと思われるだろう?それに、私のお願いは女性はみな叶えてくれるからね」
ふふっと含み笑いをする皇子。
監視役を落として自分の手駒に変えたのか…
第2皇子は自分の容姿をよくわかってるな…
しっかり腹黒皇子じゃん。
いや、チラっとこっち見んな。
好みじゃないですよー。
それに今回グレアムに酷い態度をとっていたのは病をうつしたくなかったからだと。
確かに、演じているキャラ的に心配だから会いに来るなとは言えないだろうなぁ。
そうやって第2皇子は味方のフリをして組織の事を探っていたという。
わかったのは最高幹部の1人がパクストン教皇だという事。
教皇とは創造神を崇める教会の総本山『ティリオン教皇領』の最高指導者。
そして教皇領はトリスタン帝国の一部に存在する大陸一小さな独立国家である。
「どうやら、隷属魔法が使えるようなんだ…」
ハッとした。
ラムネちゃんが『暗黒団』に誘拐されそうになった時に隷属の首輪を使われたことがあるじゃないか!
「これ…」
アイテムボックスから首輪を出した。
第2皇子が手に取って確認する。
「この鴉の紋章…『コルウス』だ」
そこに繋がるのか。
だとしたら、最初の盗賊と暗黒団は根本は繋がっていたのかもしれない。
『地上は罪人達の牢獄で、迷宮という試練を乗り越えれば天界へ戻れる』か…
ゲオルギオスの手記でも似たようなことが書いてあり、【碧落迷宮】に秘密があるという。
全部のダンジョン・コアを中央の塔の天辺に持っていったら天界へ行けちゃうのだろうか?
シロクマちゃん達の元保護者の神様が住んでいるところ?
そういえば、シロクマちゃん達はもう神様のところに瞬間移動できないのだろうか?
………ああ、シロクマちゃん達が何も言わないという事は、神様はこの事を何とも思っていない、もしくは干渉する気がないんだ。
この世界の神様も、人間の営みには無関心………
まあね、神様は人間じゃないんだから、人間と同じ感覚や倫理観を持っているワケじゃないよね。
『コルウス』の詳しい教義もわかった。
七つの厄災による破壊とダンジョン・コアによる再生という終末論。
えぇ…神が人類を滅ぼしにかかっている………
興味がないどころか、価値がないの!?
もしかして、悪魔に人間の魂を吸収し力を取り戻せないようにする為?
シロクマちゃん、あなた達の元保護者は一体何を考えてるのかしらね?
「疫病が流行り、地震が起き、干ばつが続き、隕石が降り注ぎ、洪水が起こり、氷河期が訪れ、魔王が降臨するらしい」
えぇ…最後自然災害じゃないじゃん…超自然的ではあるけど。
つまりは神が「地上生物は一旦リセットしましょうね」と言っているが、迷宮という試練をクリアしてダンジョン・コアを手に入れたら安全地帯に行けますよーってことか。
塔はノアの箱舟なのか…
それにしても、悪魔のお城が楽園への扉の鍵?
謎は増えるばかり…
「というワケで『コルウス』にダンジョン・コアを渡すわけにはいかないのだが、どうやら凄腕の探索者を雇ったらしい」
アデルは【巨大迷宮】だけは渡さないと宣言する。
私も【庭園迷宮】を奪わせるわけにはいかないなぁ、と第2皇子。
「問題はそれだけじゃない。北の大鷲と瘴気の浄化を依頼したい」
「…何でこっち見るの、グレアム?」
3個目のプチケーキをとろうとしていた手が止まった。
「お前をご指名だ」
「幼女に何させるん!?」
手に持っていたトングでビシっと指さす。
ついでにカチカチする。
「お前の【ピュリフ(浄化・聖)】はアンデッドの肉体も消滅させられるほど強力らしいな?」
「教会の人達いっぱいいるんだし、力を合わせればすぐ終わるよね?」
「その教会が依頼者だ」
「だが断る!」
「まあ聞けって」
「やでーす」
むむ、勢いでお皿にプチケーキが4つになっちゃった。
でも、戻すワケにはいかないからちゃんと食べないとね~。
と、思ったのだけど、私の目の前でシロクマちゃん達が口を開けて待っている。
はいはい、あ~ん×3。
予定通り、1個いただきます。
「何で嫌なんだい?」
第2皇子まで聡そうとしているな。
「だって、そんなコトしたら聖女だとかいって利用されそうなんだもん」
もしなるのなら、聖女より悪役令嬢派です。
「そうだな。瘴気は教会の仕事だよな」
アデルの賛同を得ました。
「それより、同盟はどうなるの?」
「そりゃ、継続だろう」
グレアムも頷く。
そうか、第2皇子がバカ皇子ではなかったからと言って、ノア王国に土地を返してくれるワケじゃないもんねぇ。
返還の為にはグレアムが帝位につかないと。
「同盟?いや、私は聞かないでおこう。ヘマはしないが隷属魔法を使われて情報を吐かされないとも限らないからな」
それがいいだろうね。
「真面目な話、瘴気の浄化は可能か?」
「やった事ないからわかんないねぇ」
「だいじょぶー」
「ナナならー」
「できるよー」
そうなんだ?
「なら、俺からの依頼なら受けてくれるか?」
「へ?何で他所の国の問題をグレアムが解決しないといけないの?」
「イーデン王国は今回の感染症騒動で一番被害が大きいんだから援助しないと」
「と、いいつつ恩を売るのね?」
第2皇子とグレアムはワザとらしくさわやかに笑う。
「わかったよ。アデルと連名でギルドに指名依頼出しといて」
「連名で?」
「じゃないと受けませーん」
2日後、冒険者ギルドに顔を出した。
「ちょえーっす」
「お久しぶりです、皆さん」
「おひさー」
「元気ー」
「してたー?」
カウンターに顔だけ出してぶら下がる3匹を順番に撫でる受付のおにぃさん。
「ええ。疫病が沈静化して良かったですね」
「うん。でも、鹿肉取りに来れなかったよぅ」
腐る前に売られちゃったよね?
「こんにちは。ちゃーんとアイテムボックスで預かってましたよ」
鑑定のおにぃさんも元気そう。
「わぁ、ありがとう!」
受け取ったお肉を頭上に掲げて輪になってはしゃぐ3匹。
「寄せ鍋ー!」
「すき焼きー!」
「しゃぶしゃぶー!」
飯テロやめい!
スキップするカリンちゃんをひょいっと抱えて頬ずりする鑑定のおにぃさん。
が、足で拒否られる。
本日も、もふもふチャレンジ失敗!
「さて、指名依頼が入っています」
そう言って見せてもらった書類はちゃんと2人の連名だった。
えーっと、イーデン王国北部の土地の浄化、及び魔物の死体の無害化ね…
報酬は白金貨1枚。
日本円だと1000万円ね。
「……………………………金額が怖い」
「ええ、断ってもいいんですよ?D級に昇級したばかりの冒険者に依頼する内容ではありません、断りましょうか?断りましょう」
「ううん。受けるよ」
「いいんですか?こんなの、何年掛かるか分かったもんじゃないですよ?」
「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫だよ」
笑顔で答えたのに、おにぃさんは受理印をゆっくりと持ち上げ、とてもゆっくりと押した。
ワンダーウォールの冒険者ギルドの受付のおねぇさんと真逆だ。
彼女は瞬きした瞬間にもう押してたからなぁ。
「どうぞお気を付けて…」
ギルドを出てすぐに馬車に乗った。
先日のお茶会で図らずも第2皇子が味方になったのは良かったが、『コルウス』よりも先にダンジョン・コアの入手が急務となった。
よって、アデル達は【巨大迷宮】を、セディの調査団は当初の計画通りに【庭園迷宮】を攻略しなければならない為に幼女+3匹は己の力だけで現着しないといけないのだ。
ハッキリ言って、方向すらさっぱりわからない。
乗合馬車を使用しようとしたが、『○○行き』と言われても、詳細な地図が存在しないので地名の確認もできないという。
「おまたせしました。しばらくの間、お世話になります!」
過保護なグレアムがオーランドのナッシュ商会に幼女+3匹の護送を依頼してくれたのだった。
直通はないので途中で商隊を変え、リレー形式で現地まで送り届けてくれる手筈になっている。
そう、これは護衛依頼ではない。
幼女+3匹はお客さんなのだ。
ギルドの依頼なのに、手厚いお世話をありがとう。
「ええ、約2週間の強行軍になりますが、どうぞよろしく」
このおにぃさんは馬車を乗り継いでもずっとついて来てくれる、いわゆるコーディネーターだ。
ふっふっふっ、実はたぬきの獣人さん(20歳・男性)です!
お名前は『リアム』さんです!
けっこうイケメンです!
とある森でローンを背負わせてくるあのタヌキさんとは違い、殆ど人間だけどしっぽはもっふもふです!
頭に獣耳がついてるけど、犬と違いが判りません!
眠そうな眼でアデル達と乗って来た私達の家馬車を運転して商隊の後ろをついて行ってくれています。
あれはタヌキの目の周りの黒い部分ではなくてクマですね。
大丈夫かな?
まあ、自動車とは違って居眠りしてもそうそう事故らない、ハズ……
コーヒーを差し入れよう。
「ブラックでいい?」
「ええ。ありがとうございます」
不意にしっぽが揺れたので目が行った。
もふもふだ。
じーっとしっぽを見つめる。
そっと手を伸ばしたらふいっと向こうを向いちゃった。
背中に目があるのかにゃ?
残念だけど、前世だとペットでしっぽを触るのを嫌がるコもいたもんね。
諦めて室内に戻る。
さて、私は巨大迷宮でダウンロードしてきたゲオルギオスの手記を読もうかな。
スイッチを出して電源を入れる。
第2皇子が言ってた『コルウス』の教義がこの世の理なら、本当に人類滅亡の危機なんだよね?
どうも実感がわかないんだよねぇ。
前世もしょっちゅう大災害の予言が流行っていたけど、当たった試しがないからなぁ。
読みだしたら集中するナナ。
御者台からそっとリアムに見られていたが、ナナは全く気付いていなかった。




