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セディの馬車に乗せてもらい、グレアムの宮殿にやって来た。

ふふふ、今日は晩餐会なのでドレスなのです。

セディは白パンツにロイヤルブルーの上着、金糸の刺繍が豪華な正装だ。

初対面の時と同じ、『夜空』のイメージ。

今回はアデルはサイラスとレスターと同じく騎士服だった。


シロクマちゃん達がまた騎士服にすると言うから私もと思ったけど、セディがエスコートするからドレスにしろと言われた。

ふむ、セディが白青金なら、私は白青銀にしようか。

青い裾から上に向かって白へと変わるグラデーション、刺繍は銀糸でお揃い感を出した。

頭はパールとスワロフスキーをあしらった銀細工のヘッドドレスとふんわりと編み込んだ後の方にもキラキラを散らしてある。

ヒールも履いて身長を少しでも高くし、おませさんを演出した。


「兄妹みたいだな」とグレアム。


髪の色は銀とミルクティーだが、この世界では緑だの青だの色々いるので、親の髪色が違えば兄弟で色が違う事はよくある。


ちなみに、シロクマちゃん達はナナの騎士だからと、青に銀糸の上着と左肩に白いペリースを羽織り、頭にちょこんと軍帽をかぶっている。

やっぱり下ははかない。

めっちゃカッコかわいい!

いっぱい写真撮った。




やはり、最初に調印式を執り行う。

といっても、非公式なので私達しかいない。

しかし、これでノア王国はグレアムの後ろ盾となったのだった。

グレアムが国王になった時、迷宮都市を含む土地が返還される。

第4皇子なのに、どうやって即位させるんだろう?

何もなければ長子が皇太子になるよね?

ち、血生臭い事は起きませんように!


晩餐会はちゃんと行われた。

料理はやはり日本人好みにアレンジしてあって大変美味でした。

食事が終わると、サロンでお話をという事になった。

皆にはお酒が配られた。

飲酒に関する法律はないので15歳のアデルも飲むのだという。

私はダメだと言われた。

ズルい…

残念だなぁと思ってたら、色とりどりのひと口サイズのスイーツが沢山盛られたケーキスタンドが登場して幼女+3匹はテンション上がった。



「ナナ、ハイエルフと知り合いなのですか?」


どれから食べようかと吟味していると、グレアムが余所行きの口調で聞いてきた。


「ん?うん」


「その方が『幻想亭』の店主だというのは本当でしょうか?」


「そだね」


『うらやましいぜ、こんちくしょう』


笑顔で日本語で罵られた。


「第2皇子がこちらへ向かっていると聞いたが?」とアデル。


「ええ、急に取り巻きの貴族連中を引き連れて来ると連絡がありました」


「目的は?」


「最初は『幻想亭』のコネが欲しいのだと思っていました…」


グレアムは一旦言葉を切った。


「ですが昨日、国内の至る所で内で疫病が流行し始めたと報告を受けました」


「なっ、つまり、自分達だけ逃げてきたと…!?」


アデルが憤る。


「もしかして、貴族間でも流行ってる?」


「ええ。商人や冒険者だけでなく、新年の祝賀会も原因だと思われます。イーデンの使者にキャリア(保菌者)がいたのでしょう、接触した貴族が地方に戻り伝染していったようです。文蝶を飛ばしまくって症状を聞いたところ、まだ誰もが酷い風邪だと思っているようですが……『新型インフルエンザだと思う』」


私の問いに、グレアムが途中で日本語で答えた。

つまり異世界の言葉では当てはまるものが無い、これはこの世界にはなかった病気という事か…

インフルエンザは前からあっただろう。

ただ、今回みたいに酷い風邪くらいに思っていたのではなかろうか。

だが、何らかの要因で変異し、新型が生まれた…

だったら、対処法が誰にもわかっていない。

だからまだ感染報告のないこの迷宮都市に避難してくるのだ。

権力者が軒並み逃げるのは卑怯だとは思わない。

緊急事態に大統領がエアフォースワンに乗るみたいなモノでしょ?

指揮者とサポートが現場で死んでしまったら、誰が事態を収束させるのか?と思うのだけど。

グレアムは人情派か…



『実は、迷宮遺物の【タミフル】持ってるんだよね』


アイテムボックスから出し、箱を揺すった。


『それは…っ!』


『でも、この世界の人間に使えるかはわかんないよ』


『何故だ!?』


『だって、考えてもみてよ?この世界には【魔法】があるんだよ?元の世界の人間と遺伝子レベルまで同じだと思う?』


『それは…』


『この世界にしかない食べ物だってあるでしょ?それはこの世界の人にとっての必須栄養素なんじゃないかな?体に必要な物が違う。だから、前世の世界の薬が効くのかも、どんな副作用を起こすのかもわかんないのよ』


タミフルの副作用はめったに出ないけど、出てしまったら酷いから…


『タミフルの原料は【八角】らしいよ?』


『【八角】?あの中華料理の香辛料か?』


『そう。何とかって成分を科学反応させるらしいけど、ごめん、ちゃんと覚えてない。だから、薬師と錬金術師に急ぎで研究してもらえないかな?パンデミックが起こる前に』


スペイン風邪が流行った時は世界人口の3分の1が感染、5000万人が死亡した。

あの頃よりも医療技術も知識も足りないこの世界ではもっと被害が大きくなる可能性しかない。


「これはあげる。権力を持っているあなたが有効活用して」


「ありがとう。無駄にはしません」


「おい、オレ等にもわかる言葉で話せよ」


一応会話が落ち着くまで我慢してくれていたアデルがぶすっと呟いた。


あ、すまぬ。ワザとなんだ…


「ごめん、ごめん。迷宮遺物でお薬出たから研究用にグレアムにあげたの」


「それは、今回の疫病に効くのですか?」と硬い表情のセディ。


パンデミックが起こる可能性を理解しているのだろう。

貴重な薬を他国にばかり持っていかれるのは看過できない。


「たぶんね。もう1個あるよ、これはセディに。薬師だけでなく、錬金術師にも研究してもらって?」


王宮の錬金術師って凄そう。


「ありがとう。そうさせてもらいます」


セディの表情がほっと緩んだ。


「セディはパンデミックの対処法知ってる?」


「ぱん…?」


「今回みたいな感染症が世界中に爆発的に広がって猛威を振るう事、かな」


「世界中に広がる可能性があるのですか?どちらにせよ、疫病の封じ込めは感染者の隔離しかないと思うのですが…」


「うん、それと外から持ち込ませない事と防衛だね」


「検疫と防衛ですか…」


「移さない・移されない・広げないが大事だからね」


「なるほど、目的を明言すると、具体的な対処法が決めやすいですね」


「患者が咳やくしゃみをするとウイルスが飛び散るから、看護する人は手袋とマスク必須。患者に触れた手で目を擦っただけで移るからね」


「そう、なんですか?よくご存じですね?」


セディが戸惑っている。


「厳密に言うと、患者の口や鼻の中にウイルスが溜まっているから、咳した時や鼻水が手について、その手でドアノブとかを触ったらそこに移り、他人がそのドアノブに触れた手で顔周りを触ると体内に侵入して発病すると言った感じですね。なので手洗いうがいは必須です」


神童と言われるグレアムも援護射撃してくれた。

なんでそんなこと知ってる?と疑念が生まれた時、相手の言葉の信憑性はガクンと落ちるものだ。

信じて対処してくれないと、マジでパンデミックが起こる。

だって、冒険者は移動しまくるんだよ。

冒険者自体は健康体で免疫力も高いだろうから感染しづらくても、ドアノブからお金を触って各所でばら撒く可能性ありありだからね。


「じゃあ、色々知っているグレアムが中心となって動いてね?」


「やっぱ、そうなるよなぁ…」


「がんばれヒーロー(志望者)!」


『ふっ、ヒーローねぇ……実は、もう諦めていたんだ、俺には誰も救えねぇって…俺だけが疫病が何か知っていても、だった1人で何ができる?ってな』


脳症を発症したら、1、2日で急死してしまう。

こんな世界で折角生き延びて年を取ることができた者達や、これから世界を楽しむはずの子供達が一番の犠牲になるなんて惨過ぎるだろう。


『お前が王国の王子に順序立てて説明しているのを聞いて、俺も何をすればいいのか頭の整理がついた。貴重な薬の提供もありがとな』


『なんのなんの。豪運先生のおかげだよん』


細かい症状や対処法などは文蝶でやり取りすることにして、晩餐会は慌ただしく解散となった。




支部に戻ってきたが、もちろん自分達でもできることはある。


「早急に王国に戻って特効薬の開発と封じ込め、検疫の手配、そして近隣諸国にも勧告をしなければなりません」


セディが部下に指示している。


「というわけで、イチゴちゃんの出番です」


ラウンジでの打ち合わせ中、イチゴちゃんは急に話を振られ耳をぴくっとさせた。

今の話の流れでわたし?と、もらったマカロンを口に放り込んだところだったので無言で首をかしげる。


「セディを王都まで転送してあげて欲しいの」


お口もぐもぐの為、サムズアップで意思表示するイチゴちゃん。

シロクマの指って人間と違って親指は独立してない筈なのに、器用だねぇ。


「私は立場的に、国を跨ぐ移動は明確にしないとならないのですが…」とセディ。


「影武者くらいいるでしょ?連れて来てないの?」


まさかそんなワケないよね?

敵国ともいえる国に自ら乗り込む危険性を考え無しにノコノコやって来たってんなら心配なんですけど…


「文蝶だけでうまくやれる気がしない。片道1週間は命取りだよ」


影武者の存在がバレバレだなんて、形無しだ。

セディ達は顔を見合わせた後、苦笑いして肯定した。


馬車は明日、セディの影武者を乗せて王都に出立する事にして、早速セディと側近や護衛の数名だけ王都へ転送し速攻で戻る。

移動時間の不自然さなどちゃんと誤魔化してね!



「アデル達はどうする?自領の対処の為にすぐ戻る?」


「そうだな。頼む」


今度はアデル達をワンダーウォールに転送した。

アデル達の出国手続きがない事に気づかれても、きっとグレアムが何とかしてくれるだろう。




そうして1週間経った。

ひっきりなしに文蝶が飛んできたから迷宮探索どころではなかった。

毎回シロクマちゃんに魔法を使ってもらうのも何なので、私も【エスト・パーピリオ(蝶になれ)】を覚えた。

グレアムからの手紙によると、発生源は北の国『イーデン王国』だった。

ちなみに名前がないと不便なので、今回の疫病を『インフルエンザ』と呼ぶ事にしたらしい。


イーデンはオーランド帝国のお隣さんだから、広がるのが速かったのだろうって。

隣接している他の2つの国でも感染が確認されたらしい。

でも、まだ全世界には広まっていないから勧告でどうにかなるハズだと。

どの国も疫病を恐れ、ちょっとでも不健康だと入国を拒否するところが多いそうだ。

そうこうしている内に疫病の噂が流れ、国民が逃げ出す事を恐れた国々が出国も禁止したとか。


よって私達もオーランド帝国どころか迷宮都市『デルタ8』からも出られまてん。

転送魔法でどうとでもなるのだけど、自分がキャリア(保菌者)の可能性もあるので迂闊な事は出来ない。

それにインフルエンザは哺乳類に移るという。

シロクマちゃん達も用心しないと。


第2皇子も到着したらしい。

でも、宮殿に籠っているとか。

しかも感染症対策は全て自分グレアムに押し付けてきやがった!と愚痴が書かれていた。

でも、何も知らない素人に仕切られても迷惑だから、こちらからしたら不幸中の幸いである。

グレアムがんば。


そして一番の問題が発生したとも書かれていた。

それは、このインフルエンザはどうやら北から来た魔物が媒介となっているかもしれないという事だ。

北国のずっと北、つまり大陸の外のだ。

何がそんなに大変なの?と質問したら、驚くべき答えが返ってきた。

この大陸以外に人は住んでいないし、人間は大陸から出られないのだという。


何を言ってるの???


手紙じゃ埒が明かないので支部の図書室を訪れた。

エピタフ本部よりも蔵書があり、入り浸っているとシロクマちゃん達が暇だと騒ぎだしたので、グレアムの執務室に転送魔法で遊びに行った。


「来ちゃった」


「ナイスタイミング!手伝え!」


驚かそうと思ったのに、急に現れた私達をすぐに認識したうえ対応されてこっちが驚いた!


「な、何すればいいの…?」


「世界中から相談や問い合わせどころか支援の要請など様々でな、手に負えん」


「それは、お疲れちゃん」


「同情するなら金をくれ」


「お金でいいの?」


「ジョークだ。つか、金あんの?」


「ちょびっとなら」


「ちょびっとか…」


ああ、本気でお金も必要だもんね。

ワクチンや特効薬の開発、診察、検疫、国境警備、封じ込めの場所と看病と見張り、物資の調達と運搬。

全部人の手がいる、つまり、莫大な人件費がかかる。

こういう時、きっと国王から貴族達に手持ちでやれと命令が下って各地で税金が上がるんだ…(ラノベの見過ぎ)


「この世界って、ボランティアやっても知識がない人ばっかりだから逆に足手まといだったり?」


「その通り。義務教育はないからな。集団で行動するのも無理だろうな」


ふむ。確かに軍人以外、統率の取れた集団を思いつかないわ。

一般市民だと、命令系統を把握しているワケないもんねぇ。

独自の判断で勝手に動かれるのは恐ろしい。

例えば検疫で「これくらいならいいと思った」で通されたら意味がない。


丁度、グレアムの秘書が入って来た。

幼女+3匹にビックリしてはいたものの、忙しさの所為で自分が知らない間にやって来たのだろうと気にも留めないようだった。

けど、お茶とお菓子を出してくれた。

ありがとう。



「そう言えば、北から来た魔物がどうのって言ってたじゃない?」


おしゃべりしてても、手はちゃんと書類を分類分けしてるよ。

シロクマちゃん達はお菓子を食べたらお手伝いしてくれるそうだ。


「ああ、暗黒大陸から来たかもしれない」


「そう、それ!載っている本を見つけられなかったの。どういう意味?」


「んー、あ、ほら『H×H』の暗黒大陸みたいなもんだよ」


「…………………は?あんな物騒な大陸がこの世界にもあるっていうの!?」


「あるとすれば惑星の裏側だが、いや、それが誰も確かめた事はないんだよなぁ。この大陸から20kmくらい沖に行くと巨大生物に襲われる」


「それって、空も?」


「もちろん。過去に魔女がチャレンジしてみたらしいが、空を飛べば怪鳥に襲われ、海面に近づけば巨大な触手に引きずり込まれそうになったとか、デカいクジラみたいな生物に食われそうになったとか、嵐で飛べなくなったとか」


「ダイオウイカ…モササウルス……」


「巨大生物の生息地域近くまで行ったとしても、島影は見られなかったらしい」


地球だと、海上では5km先も見えないらしいから大した距離は確認できなかっただろうね。


「ふむ、で、そこから魔物が来た事がなんで問題なの?」


「今まで外からの驚異なんて確認されてないんだぞ。それが急にその巨大生物群を突破して疫病を運ぶ魔物が飛来した。何故今だ?次は何だ?と思うだろう…」


可哀想な子を見る目は止めてちょ。


「その魔物討伐をS級冒険者に依頼した。奴らに依頼するとバカ高ぇんだ」


「近隣諸国で出し合えばいいじゃん」


「それで一国の負担は大白金貨4枚だぞ」


「……………4億円!?」


「未知の魔物で疫病持ちだからな。2つのパーティーに支払う16億を4ヵ国で均等割りした結果だ」


「わぁお。あれ?4ヵ国なのに2パーティー?」


「S級は全ての国が抱えているワケじゃねぇぞ」


「ほぇぇ。S級しゅごい」


「だが、まだ討伐完了の報告がねぇ」


「え?その魔物ってめっちゃ強いの?災害級?」


「いや、現着は今日だと聞いていただけだ。あと、伝説級かもしれん」


「うわぁ、それ、大丈夫なの?この世界の人の強さってどのレベル?」


「ん―――――…魔法とかならリムルや五条悟で、格闘ならサイタマや悟空?」


「うわ、そんなんでよく私生きてたな!もうそれ以上強さのインフレはないよね!?」


「それ以上は俺も想像力働かねぇわ」


「同感。でも、早めに判明してよかったわ。絶対無理しない」


なんかドッと疲れたのでお茶を飲む。


「ねえ、チートで救ってくれる救世主が現れないって事は、転生者って私達だけなのかな?」


「………そうかもなぁ」


寂しいような、心許無いような何とも言えない空気になってしまった。

と、いきなりドアが開き人が飛び込んできた。


「殿下が発病しました!」


なんと第2皇子、キャリア(保菌者)だった!


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