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さて、とんでもないセーブクリスタルを手に入れてしまったワケだが。
「私達は自力でフロア攻略していこうね」
「もちー」
「当然ー」
「あたぼうよー」
「まずは、カニ取ってこよう」
ゲットしたら周回はせずに27階に挑戦だ。
「ま、ルートは決めているのよねぇ」
シロクマちゃん達に敵を蹴散らしてもらいながら進むのだが、これだと私、全然成長できないよね。
テイマーなのだから戦闘スタイルとしては間違ってない。
けど、この世界で生きていくには自分自身が強くなる必要がある。
シロクマちゃん達は連携が取れている。
その証拠に、乱戦になってもお互いの位置を把握しているからフレンドリーファイアはない。
そこに急に私が加わったら?
そんなん、連携がぶち壊れるのは目に見えている。
自分のレベル上げの為に、シロクマちゃん達を危険に晒せない。
むぅぅぅ…二進も三進もいかないねぇ。
考え事をしている内にボス部屋に来た。
ドアは閉まっているけど、並んでいる人はいない。
潜れば潜るほど人けは減っていく。
扉が開いた。
ボスは馬型エイリアン。
突進してきたので、バリアを出したらぶつかって気絶した。
シロクマちゃんがトドメを刺して終了。
あうぅ、ビックリした。
宝箱を開ける。
「これは……キックボード。しかも電動だ」
運転手は私。
1匹は下目に付けた前カゴに座り、1匹は後ろを向いてリアキャリアに座り、1匹は私の前に立つ事で全員乗れる。
この世界に交通法がないからやれるコト。
迷宮の中はもちろん、街中もこれで移動しちゃおう。
1日に3フロアずつ攻略していくコトにした。
ある日、ふと気づくと、小窓から惑星が見えた。
青い惑星。
大陸も雲もないから地球ではない。
もしかしたら、海王星かもしれない。
青い青い惑星。
地球の青に似ているけど、海じゃないんだよねぇ。
そしてまたある日、気付いたら小窓から見える惑星が変わっていた。
今度は水色。
そして土星みたいな輪っかが付いている。
もしかして、天王星?
風景が変わるなんて、この宇宙船、進んでる?
設定細かいな……
探索は順調だった。
シロクマちゃん達は強い。
自分達の何倍もの対格差でも物怖じしない。
ヒュージ・スライムの時は舐めプしてたのでは?
敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げして9日目、とうとう第50階層へと辿り着いた。
「ボスって、鹿だったんだ…」
「ジビエー」
「もみじー」
「しゃぶしゃぶー」
ふむ。ギルドに売った時、少しお肉を分けてもらおうか?
緑の牡鹿…水色の鳥の羽をもち後ろ脚も鳥…
ペリュトンじゃない?
人間が好物っていう……
あ、イチゴちゃんのハンマーでクラクラした隙に、ラムネちゃんが鹿の首を刺して決着がついた。
「ナナー」
「結界でー」
「逆さ吊りにしてー」
ナニゴト?
「すぐにー」
「血抜きしないとー」
「おいしくないー」
「お、おぅ…」
結界を鹿の後ろ脚に通し、両端だけ床につけたまま上に伸ばす。
すると、足を持ち上げられた鹿は逆さ吊りにされるという寸法さ。
後向いててと言われたので素直に従う。
嫌な予感がしたしね。
音が色々時になったけど、いいと言われるまで待った。
私は見ないぞ。
呼ばれたので振り返り、結界を解いた。
カリンちゃんが重力魔法で血抜きをしたそうだ。
ほんと、魔法は便利だねぇ。
「ついに50階達成だね」
「わたし達にかかればー」
「これくらいー」
「ちょろいー」
宝箱の中身はまた『鍋セット』だった。
どうも、食い意地が物欲センサーに勝ったらしい。
帰りにギルドに寄った。
「ちょえーっす。鹿さんとってきたよ」
「まさか!まだ10日も経っていないのに第50階層に到達したのですか!?」
受付のおにぃさんが大きな声を出したので注目を浴びてしまった。
「おめでとう、ナナちゃん。これでやっとD級だね!」
鑑定のおにぃさんまでやって来た。
あれ?もしかしてこれワザとでは?
ちびっこ達が中層を踏破したと知らしめてくれたんだね!
策士だなぁ、おにぃさん達。
シロクマちゃん達がこしょこしょ囁き合って期待の眼差しでこっちを見た。
あ~、はいはい。久しぶりにやりたいのね。
「ガーネット レッドー」
「ラピスラズリ ブルー」
「こはく イエロー」
「アメジスト パープルー」
「「「「シロクマ戦隊モフるんジャー!」」」」
ギルドのロビーが湧いた。
「昇級おめでとう」とも声が聞こえる。
幼女+3匹は「どもども」と、手を振って退場した。
買取カウンターのおにぃさんだけでなく、受付のおにぃさんとも一緒に隣接する倉庫にやって来た。
2人の笑顔がぬるいと感じるのは私だけだろうか?
お遊戯会を見守るおじいちゃんみたいだよ。
「では、売ってくれる素材をどどーんと出してくださいな」
「んじゃ、まずは討伐証明の鹿さんね。シロクマちゃんが血抜きしてくれたみたいだよ」
ででーんと出す。
「はい、確かに第50階層のボスです。D級への昇格を正式に承認いたします」
「わーい!」
「いぇー!」
「やりー!」
お祝いのダンスを踊るシロクマちゃん達。
ドンドンパフパフと太鼓とラッパを鳴らし、紙吹雪をまき散らしている。
はわゎ、あとで【クリーン(清掃)】かけなきゃ…
「素晴らしい、血液が1滴も残ってませんね。これは大変質のいい肉が取れる事でしょう」
「あのね、お肉を少し、私も欲しいのだけど…」
「はい、では明日までに捌いておきますので取りに来てくれますか?」
「ありがとう。代金は引いといて」
「いえいえ、お肉の質がいいのでおまけです。タダでいいですよ」
「いいの?」
「ええ、何kgくらい必要ですか?」
「シロクマちゃん達とお鍋できればいいんだけど」
「では、余裕をもって1kgにしておきましょうかね」
「よろしく」
そして他の階層のボスを全部出した。
諸々引かれた手取りが、なんと白金貨2枚、大金貨6枚(=2600万円)だった!
上層と中層って桁が違うよね!?
そして即金で出すんだね!?
ザコ敵のロボットはもう出さなくていいや……
「ちなみに鹿は大金貨4枚です」
「カニより高い!あ、カニ出すの忘れてた。ほい」
「ありがとうございます!まあ、金額は捕獲難易度の違いですね」
そうなんだ…シロクマちゃん達があんまりアッサリ倒すから違いが分かんないや。
「カニの分は手数料などを引きまして大金貨2枚と金貨4枚ですね」
ギルドを運営していくには資金が必要である。
仲介料を取るのは色んな商売にてある事。
2割は安い方かも?
私は移動労働者に該当するから、儲けた金額から税金をギルドに引かれちゃうんだよね。
1割が税金、あとの1割がギルドの仲介手数料である。
ギルドは1割しか手に入らないけど、懐事情は悪くなさそう。
素材の売買が順調なのかな?
あと、おにぃさんの機嫌がいいのは、解体しながらつまみ食いする気だな…
怒られないといいけど。
再びギルドに戻る。
ギルドカードの書き換えの為だ。
「では改めまして、D級昇格おめでとうございます」
「ありがとう」
「さんきゅー」
「あんがとー」
「おおきにー」
支部に帰ると、セディ達が到着していた。
アデルの部屋に荷物を運び込んでいるので玄関横のラウンジで待機しているのだ。
「おかえりなさい。お仕事ご苦労様」
早速シロクマちゃんをおいでおいでするセディ。
イチゴちゃんがセディの膝に乗る。
ナナもソファに座った。
アデルの膝にも1匹、ナナの膝にも1匹。
「ただいま。そっちもお疲れさん。てか、迎えに行ったのに」
セディは王族なので、堂々と派手に移動しないといけないんだって。
そういう世情的なものはわかんない事ばかりだなぁ。
「あのねー」
「ナナがねー」
「D級になったよー」
「は?もう!?」とアデル。
「ひと月くらい前に昇級祝いしなかったか?」とレスター。
「迷宮のー」
「第50階層をー」
「踏破したんだよー」
「それは凄いですね。おめでとうございます」
「ありがとう」
「で、さっきの乗り物なんだ?」
アデルはずっと気になっていたらしい。
アイテムボックスから出して見せた。
「キックボードだよ。宝箱から出たの」
急遽、試乗会となった。
この世界の人は自転車にも乗った事がないので、大丈夫かな?と思ったが、最初こそ不安定だったが、すぐに乗りこなしていた。
自動で走るモノって妙に楽しいよね?
ロビーを爆走する男共。
キリがないので1人5分と決めた。
順番待ちのメンバーがおしゃべりしていると、来客があった。
グレアムの使いだという。
封筒を置いて行った。
アデルが中を確認する。
「明日の晩餐会に招待したいだとよ」
表向きは晩餐だけど、本当は調印の為の招待だろう。
「気が早いですね」とセディ。
「何か不測の事態でも?」とサイラス。
「わからないが、お前も招待されてるぞ?」
アデルが私を見た。
「ほえ?私…?」
えっ!何で!?
「『影』。報告を」
アデルが誰ともなしに声を掛けると、本当に『影』が現れた。
本体は見えないのに、片膝をついている人影が床に落ちている。
「はっ。帝国の第2皇子がこの迷宮都市へとやって来るようです」
「何だと!?」
「おそらく、ナナに直接接触する為かと思われます」
「うげっ、なんでそんなに執着されてんの!?第2皇子ってロリなの!?」
「ハイエルフと会話している姿を目撃されたからではないでしょうか?」
………リンスの事?
「『幻想亭』の店主に繋ぎをつけて欲しいのかと…」
なんでリンスが『幻想亭』の店主だとわかったんだろう…?
「『幻想亭』の店主だと確信はないと思われます」
首をかしげていたら、私が何を疑問に思っているのか察してくれたらしく、『影』さんが先回りして教えてくれた。
リンスに連絡しなきゃ。
膝の上のラムネちゃんに頼んで事情を説明した手紙を『文蝶』で飛ばしてもらった。
「とりあえず逃げてって伝えたよ」
「そうか。明日、お前も来れるか?」
「うん。私も状況を把握していた方がいいみたいだしね」
それから食堂へ移動した。
セディは王族なのに気さくなのか、私達と同じテーブルに着いた。
「そうだ、今日迷宮で鍋セットが出たんだ。4人前だけど、夕飯はすでにあるから味見程度に皆で食べよ?」
そう言ってテーブルの上でセットしていく。
しゃぶしゃぶだから、遠いと大変なので2つに分ける。
「それ、クマに見えすが…」とセディ。
そう、これは出汁がテディベアなのだ。
字面だけでは『?』となるが、出汁はコラーゲンたっぷりなので、つまりはゼリーみたいなのでテディベアの形に立体に固められているのだ。
鍋に水を張ってくまちゃんを温泉に浸からせるように置き、周りに野菜を飾るとかわいいんだ。
「そうだよ。『くまちゃん温泉』って言うらしいよ」
ちょっと前に流行ったねぇ。
「くまちゃんが溶けたらお肉をしゃぶしゃぶしてね。これが付けダレ」
言ったら、セディがショックを受けていた。
「こんなにかわいいのに、溶けてしまうんですか?」
「くまちゃんが、出汁なので…」
言ったら、全員の視線がシロクマちゃんに向いた。
「形だけだよー」
「クマは1個も入ってないよー」
「共食いじゃないよー」
容赦なくIHのスイッチを入れる。
今のうちに、ご飯食べなね。
今日のメニューはお魚料理だからかぶってなくてよかったわ。
あ、こらこら、くまちゃんを野菜の上に避難させないの。
溶けるのが運命なのさ。
「あの、私が鍋奉行をお引き受けいたしましょうか?」
みんな鍋に構って全然箸が進まないのを見兼ねたのか、『影』さんが声を掛けてきた。
てか、まだ居たんだね。
お願いします。
溶けゆくくまちゃんに哀愁を抱き、やいのやいの言いつつも、結局最後の締めのラーメンまでみんな完食したのだった。
ごちそうさまでした。




