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セクハラ発言にお怒りのシロクマちゃん達。

そうだね、やっぱり知らない人と行動するのは止めよう。


「私達、冒険者ギルドの昇級試験中だから無理なんで」


いくよ、シロクマちゃん達。

部屋を出て、ボス部屋に向かう。

今日はもう帰ろう。

そう思ったのに。

えぅぅ、何でついてくるの……?

先に行かせようと思って適当な部屋に入っても、中まで入ってくるのだ。


男性からしたら、ただ単にナナ達が子供だから心配しているだけだった。

死んで欲しくない。

もしボスに苦戦するようなら手を貸すし、ソロは止めておけと忠告するつもりであるのだが。


「ついて来ないで」


「……探し物をしているだけだ」


ありきたりな言い訳ね。


「何を探してるの?」


「…………………………」


答えられない。

適当なこと言うからだ。


「どうせウソなんでしょ?」


「………ウソではない。俺が探しているのは、恋人の遺品だ」


えぇっ!?

予想外な返答が斜め上から心を抉ってきた。


「迷宮では、遺体は消えてしまうって聞いたけど?急いだ方がいいんじゃない?」


おにぃさんは黙ってしまった。

もしかしたら、もう時間的にダメだと悟っているのかもしれない…


「何か、手掛かりとかは?」


「いや、それを探している」


鼻と口を布で覆っているので、おにぃさんの目しか見えない。

でも、その目が迷子のそれにしか見えない……


「事情を、聞いてもいいのかな?」


男性は逡巡した。

子供に話したところで何になる?

しかし、藁にもすがる思いではある。


「……俺は探索者だった。ある日、怪我で自分だけ潜らなかった。パーティーは戻ってきた。恋人だけが帰らなかった……」


恋人が亡くなったのは、もうずっと前のことのようだ。

シロクマちゃん達も探索の手を止め、黙って聞いている。


「仲間に見捨ててきたのかと問い詰めたが、否定された。詳しい状況を聞いたら、第26階層の植物プラントでトラップにかかり、あいつが身を挺して庇ってくれたのだとしか言わなかった。だから俺は自分で探すことにした」


彼らの仲間がどんな人か知らないから何とも言えないけど、答えは『故意に見捨てた』or『故意ではないけど見捨てた』のどちらかでしかない……


彼が探しているのは何だろう?

本当に恋人の遺品だろうか?

もしかして真実なのではないだろうか?


「俺はパーティーを抜けて回収屋になった。ここを訪れる探索者に目撃していないか聞いて回った。10年間、1人もいなかった」


仲間と言えど、疑うのはわかるよ。

でも、10年……

きっと、諦め時がわからなくなったのね…


「色々考えた。あいつ等が何か隠しているのは明白だった。やはり見捨てたのか?そうでないとしたら何なのか?あいつが俺から離れたくて黙って消えたのか?今もどこかで生きているんじゃないか…?」


ああ、遺体を目にしていないから、恋人の死を受け入れられていないのか……


「ちょっと、ついて来てくれる?」


「何だ?トイレか?」


「違うわっ。もうっ、あなたのその無神経な発言は何とかした方がいいわよ」


シロクマちゃん達も半目になっている。

なのに、回収屋さんは何のことだ?という表情をした。


「はあっ…手掛かりの心当たりがあるのよ」


「本当か!?」


「絶対じゃないわよ」


「構わない。連れて行ってくれ!」




私達はまた植物プラントに戻って来た。

コンピュータ制御で稼働しているのなら、カメラもあるハズ。

そしてここの制御盤から監視カメラにアクセスできると思ったのだ。


「さて、見つからないように行動しないといけないワケだけど…」


「あいつらは、野菜に手を出さない限り何もしてこない」


それは知らなかった。

ならば、安心だ。

2度目なので、制御盤も触れていいとわかっている。

踏み台を出してパネルを操作する。

アーカイブ検索すると、映像データがあった。


「当日の正確な日付わかる?」


「〇〇〇年△△月××日だ」


約10年前のデータが保存されているかは賭けだな。

もう一度検索するとそれはあった。


「何時頃?」


「午前中だとしか」


「充分」


回収屋さんは何がなんだかわかっていないようだったので、これは過去を映せると説明するとひどく驚いていたが、真実が見れるかもしれないとすぐに期待の眼差しに変わった。


60cmしかないシロクマちゃん達は回収屋さんによじ登ってディスプレイを覗き込む。

再生し、早送りをする。

人影を確認し、少し戻して通常再生する。

カメラの数は8台。

画面を分割し、同時再生に切り替える。

少し荒い、音のない画像を、皆で黙って見つめた。


男性1人、女性2人がプラントに入って来た。

まだ10代の若者達だ。

回収屋さんが息を飲む。


「もしかしてー」

「この人達がー」

「お仲間さんー?」


「……ああ」


3人はヒューマノイドに気づき戦闘態勢に入るが、相手が無関心なので警戒を解いた。

しばらく歩き回り、ふと女性がミニトマトに手を伸ばした。

1つもぎ取る。

途端に照明が赤くなり、おそらく警報も鳴っているだろう。

奥の扉が開き、ロボット犬が走ってくる。

3人は敵を蹴散らしていく。

男性が大剣を振るい、女性の1人が柄の長いハンマーを振るう。

もう1人の女性は神官らしく、長杖を振り回してけん制はしているが直接的な戦闘はしないようだ。

多勢に無勢、徐々に押されていく。


男性が何か叫んでドアに走り出した。

あとの2人も走り出す。

が、ハンマーの女性が神官を突き飛ばした?

角度的によく見えなかった。

よろめき倒れた神官に敵が群がる。

助けを求め、伸ばした手が血の海に落ちた。

ロボット犬達は次のターゲットに狙いを定めた。

焦って、ドアを開けるのに手間取る2人。

飛び掛かるロボット犬。


間一髪、男女は外に飛び出した。

しかし、ドアが閉まるまでにラグがある。

多くのロボット犬が流れ出すかと思われたが、不自然に跳ね返された。

まるで見えない壁に阻まれているかのようにロボット犬が進めないでいる。

別のモニターを見ると、神官の女性が杖を構えていた。

おそらくバリアを張ったのだろう。

ドアが閉まった。

女性はもう一度倒れた。

もう、動かなかった。


回収屋さんはどう思っただろう?

トマトをもぎ取ったのは女性神官。

本当に突き飛ばされたのかはわからない。

神官は、振り返りもせずに逃げた2人を最後まで庇った。

何とも後味の悪い結末だった。


「ちょっと、早送りしてみるね?」


あの2人が戻ってきたかもしれない。

そうであって欲しい。

だが希望虚しく誰も現れず、女性はキラキラと光の塵となって消えた。

何も残さず、何事もなかったかのように……

更に早送りした。

数組のパーティーがやって来たが、どれもあの2人ではなかった。

日付が変わり、映像は終わった。


回収屋さんはその場に座り込んだ。

かける言葉が見つからない。

どうしようかと視線を彷徨わせたが、シロクマちゃん達は3匹でコソコソ話してて、ちょっと疎外感を感じた。

くすん。




「ありがとう……おかげで真実を知ることが出来た」


「真実?本当に?音声がなかったから、本当は何があったのか正確に知る事は出来ないハズだよ?」


「ああ、もういいんだ。やっと踏ん切りがついた。故郷に帰る……」


ホ、ホントかな…?

今にも人を殺しそうな瞳をしているよ?

でも、私が口を出す事じゃない。


「えっと、じゃあ、私達もう行くね?」


「ああ、気をつけろよ」


「そっちもね」


ナナ達が出て行ったあとで、男性は呟いた。


「あいつ等を手土産に……」





ボス部屋に入った。

ボスはカバのエイリアンだった。

それはいい、それは別にいいんだ。

でもね…


「何で回収屋さんがいるの!?」


ドアが閉まる寸前に回収屋さんが滑り込んできたのだ。


「……手を貸そう」


「大きなお世話!こういうのってルール違反なんじゃないの!?」


「……そうかもしれん事もないかもしれん」


「何言ってるのか分かんない!」


「ナナー」

「宝箱ー」

「開けてー」


プリプリしていたら、シロクマちゃん達がボスを倒していた。


「私が開けていいの?」


「もうー」

「メダルはー」

「充分だからねー」


ニシシっと笑うシロクマちゃん達。

何か含みのある笑いに見えるのは被害妄想だろうか…?


「…了解」


返事をしたが、ちらっと回収屋さんを見る。


「俺はここから動かない」


降参のポーズをとる回収屋さん。

ナナはため息をつきながら宝箱を開けた。

すると、中から蝶が羽ばたいた。

それはヒラヒラと舞い、お兄さんの指にとまった。

『文蝶』だった。

紙に変化したそれを、恐る恐る開く回収屋さん。


回収屋さんの瞳からぼたぼたと涙が溢れた。

それだけで察した。

あれは恋人からの手紙だ。

何故宝箱から出てきたのか?

内容はわからないが、死ぬ間際に書けたとは思えない。

だったら、死後に書いた事になるのだが…

奇跡というべきか?

いや、彼女は神官だった。

彼女が信仰する神の慈悲だろう。

この世界は前世とは違い、神の影がチラつく。


ん?神様…?

シロクマちゃん達を見ると、そろっていい笑顔を向けてきた。

はは~ん、さっきからニヨニヨしてたのはコレか。

神様に連絡して手紙とペンダントを送ってもらったのだろう。

悪戯っ子め、よくやった!

シロクマちゃん達をめっちゃナデナデした。


天国からの手紙か…

私のも、届けて欲しいなぁ…



ここはボス部屋、外で誰か待っているかもしれないので回収屋さんを次の間に誘導した。


「これ、もしかして神官さんのじゃない?」


宝箱にはロザリオに似たペンダントも入っていた。

チェーンの部分が数珠になっていて、トップはおそらく教会のシンボルマークだろう。

受け取った回収屋さんはとうとう泣き崩れた。


迷宮に吸収されても、何かがここに残っているかもしれないと思っていた。

他の階層に現れるかもしれないと、彷徨い続けた。

ずっと迷宮に捕らわれていた。


『2人を恨まないで。

 子供から親を奪わないであげて。

 

 愛してるわ。

 だから、あなたも幸せになって。』


あいつは誰も恨んではいない。

未練もないのなら、ここには居ないのだ。

今、やっと出口が見えた……




翌日、いつも通り迷宮にやってくると、入り口で男性に声を掛けられた。

誰?


「俺だ」


「詐欺はお断りです」


「違う」


男性は口元を手で隠した。


「あーっ、回収屋さん!?口布してなかったからわかんなかった!」


「その節は世話になった」


「いやいや、私なんにもしてないし」


シロクマちゃん達も一緒に顔の前で手を振る。

満更でもなさそう。


「宝箱の中身を譲ってくれた」


「ん?それはそうだね」


「これをやる。俺にはもう不要だ」


小さな革袋をくれた。

反射で受け取ったけど。


「えっと、ありがとう。故郷に帰るの?」


回収屋さんは首に下げているペンダントを大事そうに握り込んだ。


「いや、旅に出る。あいつが、巡礼の旅をしたいと言っていた…」


「そっか。元気でね」


回収屋さんは幼女+3匹の頭を撫でて去って行った。

手を振って見送る。

目の奥の暗さが霧散していた。

回収屋さんはもう大丈夫だろう。



「ねーねー」

「なにをー」

「もらったのー?」


小さな巾着に入っていたのはセーブクリスタルだった。

シロクマちゃん達は残念な顔をして興味をなくし、売店へと走って行った。

でも私は嫌な予感がして、すぐにスイッチで中身を確認した。

それには深層の第90階層のデータが入っていた。


ふと振り返り、上を見上げた。

大きな垂れ幕がかかっている。

目立つ数字は『89』。

最近更新されたこの迷宮の最高到達階数だ。

あれは自己申告の数字。

手元の画面には『90』……

回収屋さん、一体何者…!?


あまりにビックリして「ぴょ」とか「ふぇ」とか変な声がもれる。

きっと挙動不審だったに違いない。

シロクマちゃん達に追いつき、モフることでこの動揺を静めようとしたが、ふと目に入った張り紙にまた「ひぃ」っと声が出た。

第50階層のセーブクリスタルを大金貨5枚(500万円)で買い取ると書いてある。

ならば、深層の90階のクリスタルなんておいくら万円!?


「はわゎゎゎ…シロクマちゃん達、たしゅけて…」


急に深層にチャレンジなんて、命を捨てるようなもの。

アデル達にもあげられないよ。

かといって、使わないと消えてしまう。


とりあえず、マップや手記などのデータを貰った方のクリスタルに移し替えた。

そして自分が元から持っていた方を売店に持っていった。


「おう、んじゃちょっくら来てくれ」


転移陣に連れていかれた。

貰った方のクリスタルはシロクマちゃん達に渡し、転移陣の外で待っててもらう。

セーブクリスタルは転移陣で複数持っていると、コンソールに差し込んだクリスタル以外のデータが消えてしまうから。

この世界でたった1つしかない第90階層のデータが吹っ飛んだら大変だ。


売店のおじさんがクリスタルを挿し込むと、十の位が【2】、一の位が【7】のボタンまでが光った。


「27階層か。これがお前さん達の記録か?もらったクリスタルがどれくらいか知らんが、急に深い階層に潜んなよ?」


「もち。てか、なんで貰ったってわかるの?」


「見てたからな。あいつ、回収屋だろ?うちに卸してくれてたんだがな、辞めるって昨日来たんだよ」


「旅に出るから、もういらないって」


「やっと吹っ切れたんだな」


「おじさん、何か知ってるの?」


「いや、だが10年の付き合いだ。訳ありなのはわかってたぜ」


「さっきは、明るい顔してたよ」


「おう。あいつの門出を祝おうじゃねぇか」



売店に戻り、カウンターにコインが並べられていく。


「27階だから金貨3枚、大銀貨7枚、銀貨5枚…のところ、銀貨5枚色付けて大銀貨1枚に増やしてやろう」


つまり、38万円。

もう、金銭感覚バグるわぁ……


「えっと、なんで?」


「お前さんのお陰だろ?あいつがあんな晴れ晴れした表情してたのは」


「いや、それはどうだろう?」


シロクマちゃんを抱えてカウンターに乗せた。


「もしかしたら、このコ達のお陰かもよ?」


「そうか!」


ニカッと笑い、3匹の頭をポムポムする。


「おまけ、ありがとね」


「おう。まいどあり!」


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