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拝み倒してシロクマちゃん達に許してもらえたおにぃさん。

上機嫌でカリンちゃんをモフり倒し、今度はお腹に顔を埋めようとして足で拒否されながら問うた。


「そういえば、まだE級なのですね?これだけ戦えるのであれば昇級試験を受けてみてはどうですか?」


「昇級試験?」


「ええ。FからEに上がる時にもあったでしょう?」


「ううん。依頼を100コ達成したらEになったよ?」


おにぃさんはカリンちゃんの足をほっぺにめり込ませたまま、ふむ、と考え込んだ。

実力があるのはわかっているが、年齢とソロという境遇の所為で昇級を躊躇われているのか………

ギルド職員をやっていると、そういう抜きん出た人物に出会うのは退職までに1人いるかいないからしい。

どうやら私はその1人に出会えたようですね。


「試験ってどんなの?」


「そうですねぇ、依頼達成数が少ない人はギルド指定の依頼をいくつか受けてもらい、達成数が十分な人はギルドの闘技場で実技試験ってところですかね」


「ランクを上げるメリットは?」


「より報酬の高い依頼を受注できることと、社会的信用の向上でしょうか」


まあ、冒険者はフリーターみたいなものだから、住宅ローンは組めないだろうね。


「今すぐっていう必要性は感じないかなぁ」


「あの巨大蟹はD級以上の依頼ですから今のあなたでは受注できないのですが…」


「マジですか」


「マジですねぇ」


「素材としてのギルド買取価格はバカみたいに安いですよ」


「マジですか」


「マジですねぇ」


ふむ。ならばサクッと昇級しちゃおうかな?



おにぃさんは管轄が違うので、幼女+3匹は別の職員に引き継がれた。


「難しいですねぇ。1ヶ月ほど前に昇級したばかり。しかも冒険者登録して3ヶ月と少し、ですか……」


そんなにホイホイ昇級させては依怙贔屓を疑われかねない。

その上、他の冒険者の嫉妬や妬みにより諍いが起こらないとも限らない。

面倒な事に、それは高確率で起こり得る事態だ。


「実力をわからせる為に、迷宮の第50階層をサクッと攻略しちゃってください」


「ほぇ?」


「ああ、それはいいですね。50階層のボスの素材、お待ちしてます」


何故か相談中もずっといる買取カウンターのおにぃさん。

瞳をキラキラさせている。

もしかして……


「美味しいの?」


「はい。大変美味です」


「マジですか」


「マジですねぇ」


美味しいと聞いて、シロクマちゃん達が俄然やる気になった。

大丈夫なのだろうか?

シロクマちゃん達の実力を、私は把握できていない。

強そうだとは思う。

けど、ヒュージ・スライムには敵わなかった。

戦い慣れていないのは明白だった。


「どうする?シロクマちゃん達」


「やるー」

「やりたいー」

「やろうよー」


「………OK、わかった。明日から本気出そう」


「ナナー」

「それはー」

「ダメフラグー」


あはは、実はまだ正月気分~。





「んじゃ、気合い入れていきまっしょい」


「「「おーっ!」」」


セディ達がこの街にやって来るまであと2週間くらい。

時間がないので、階層の隅々まで探検するのはまたの機会にする事にした。

下層の地図は手に入れているので最短ルートは確認済み。

RTAの気分。

シロクマちゃん達もストップウォッチなんて用意しちゃってノリノリだ。


「いちについてー」

「よういー」

「どんー」


この世界に来て、初めて真剣に体を動かしたと思う。

何か、体が軽い。

たくさん歩いて体力も筋力もついたのかもしれない。

元々動体視力はよかった。

それだけでなく、【神速の指輪】がいい仕事をしてくれる。

シロクマちゃん達のリズムを壊す事なくついていけた。


第24階層のボス、狼型エイリアンはデカくて素早かったけど、シロクマちゃん達は連携がとれているからいつも通りサクッと倒せた。

ストップウォッチは3分2秒だった。

比べる数字がない……

でも、シロクマちゃん達は「あと2秒…っ!」と悔しがってた。


第25階層のボスは亀型エイリアン。

イチゴちゃんが巨大ハンマーで気絶させてラムネちゃんがトドメをさす。

まだ一撃で倒せる範疇か。

ボス部屋にある小窓を見やる。

なんで外が宇宙なんだろう?

迷宮都市がどこにもない。

もしかしたらこの巨大迷宮自体が巨大な宇宙コロニーという設定なのかもしれない。

映像なのだろうか?どこまでも広がる闇…

果てがないのは恐怖だ。

宇宙には空気がなくてマイナス数百度だって前世で聞かされてきたから、宇宙空間に放り出されたらって想像してブルリと震えた。

ちなみにストップウォッチは3分32秒。

シロクマちゃん達が発狂ダンスを踊りまくっているけど、前の階層よりこのフロアは広いんだし、3分はもともと無理なのでは?


「どうせならー」

「あと1秒足してー」

「3分33秒にしたかったー」


あー、うん。ゾロ目ってなんだか嬉しいもんねぇ。




第26階層にやって来た。

ここから『中層』と呼ばれる。


「地図を手に入れる為に端末探そうね」


「あいー!」

「りょー!」

「うぃー!」


もう機嫌が直ったシロクマちゃん達。

踊ってスッキリしたかな?


久しぶりに【マッピング(図化)】を使用する。

なんとなく右側から攻める。

敵にメカ、ロボ、ヒューマノイドが現れるようになった。

鉛弾を撃ってきたが、カリンちゃんが雷属性魔法で静かにさせた。


……この世界に、火薬はあるのだろうか?


銃は売ってなかった。

魔法があるから発達しなかったのかな?

転生者も意図的に触れなかったのかもしれない。

ガンマニアが転生しなかったことは幸運だった。

まあ、この世界の中級以上の冒険者なら銃弾は見てから回避余裕だろう。

となれば、魔物も銃弾を避けるし、サイズ的にも命を奪うほどの威力はないのかもしれない。

魔物、デカいものはデカいしね。

その上、この世界の一般人は弓さえ持つことはないので、護身用すら生まれなかった、と考えるのが自然かもしれない。


大砲は作られていてもおかしくないと思うが、この世界の科学技術では、数人がかりで運用し、命中率が低い物を研究開発するお金も時間も無駄だと思ったのかも。

魔法の方が範囲も威力も大きい。


鉱山では使っているかな?

いやでも地球ほど鉄製品は量産されていないな。

ならば採掘は人力?魔法?

どっちにしろ、私も火薬については口をつぐもう。


「このロボ、素材としてギルドに売ったら、兵器として使用されちゃうかな?」


「そうだねー」

「ゴーレムとしてー」

「動かすかもねー」


あ、そっか。既にゴーレムがあるのだし、私が少しくらい持って帰っても影響ないか。



しばらくは端末がある部屋は見つからず、ラムネちゃんに千里眼で見てもらったら、中心付近に広くて植物がいっぱいある施設があるという。

行ってみると、ガラスで囲われたそこは水耕栽培の植物プラントでロボットアームが野菜やハーブを育てていた。


あれ、持って帰っていいのかな?

マイクラで見つけた村の畑から失敬する気分。


見回りのヒューマノイドに見つかったら攻撃されそうだな。

幼女+3匹はこそこそとプラントに侵入した。


「私が端末から情報をダウンロードしている間に野菜を少し貰ってきてくれる?見張りには気づかれないようにね?もし倒しちゃったら、野菜のお世話が滞って枯れちゃうといけないから」


「「「らじゃー」」」


この時、幼女+3匹は気づいていなかった。

何故、これほどまでに野菜が残っているのか?

何故、誰も持って帰らないのか…?



あ、制御盤見っけ。

やっぱ、コンピューターで管理するよね。

AIかもしれないけど。


お、マップ見っけ。

やっぱ、中層だけだよね。

そしてゲオルギオスの手記。

続き読みたかったんだ。

あとは、この植物プラントの施設の説明か…

いらないんだけどなぁ…後で後悔するかもしれないと思うとダウンロードしちゃうんだよねぇ。



一方、シロクマちゃん達は物陰に隠れて相談していた。


「何にするー?」

「ハーブよりー」

「野菜かなー?」


「ミニトマトー」

「リーフレタスー」

「パクチー」


最初にミニトマトをぷちっとちぎった時だった。

照明が赤く変化し、警報が鳴る。


「「「い―――――――――や―――――――――――っ!!」」」


叫び声の移動速度でシロクマちゃん達がこっちに走ってきているのがわかった。

声の方に目をやると、丁度コーナーを曲がった3匹が見えた。

直後、硬い材質の床に足をとられ、曲がり切れずに滑り棚に激突するロボット犬の群れ……

急いでセーブクリスタルを引っこ抜く。


「逃げろーっ!」


幼女+3匹は植物プラントを飛び出した。


「何でついてくるのーっ!?」


自動ドアが閉まり切る前に飛び出してきた3匹が何処までも追ってくる。

って、もう攻撃してもよくない?

と、思った時、通路の向こうにおいでおいでする人が目に入った。

後をついて行ってみると、とある部屋の前でまたおいでおいでされた。

勢いのまま部屋に飛び込む。

扉が閉ざされると、ロボット犬は諦めて帰って行った。

警告音も消えてホッとした。

視界から数秒間消えたら見逃してくれるタイプだったらしい。


導いてくれたのは口元を布で覆ったおにぃさんだった。

なんとなく、忍びをイメージさせる衣装。


「えっと、ありがとう?」


「いや。あの植物プラントはトラップだ。ちょっと手を出すだけで警報が鳴る。警戒中は魔物が無限湧きする。さっきみたいにプラントから出てきたら他の探索者にも迷惑だから二度とするな」


「はぅわっ、ごめんなさい。気を付けます」


そうね、敵をなすり付けて自分達だけ逃げるのはマナー違反だね。


「ああ。お前みたいな子供の遺品は持ち帰りたくない」


「もしかして、回収屋さん?」


「……まぁな」


大きな荷物を持っていない。

アイテムボックス持ちだろう。


「ソロでここまで潜れるのなら、普通に魔物を狩ってギルドで買い取ってもらえばいいのに?」


そっちの方が絶対儲かる。


「別に、金の為にやってるワケじゃない」


ワケありさんか。

理由を聞くのは無粋かな。


「そっか。おにぃさんのお世話にならなくていいようにしないとね」


んじゃ、と手を振って部屋を出ようとすると呼び止められた。


「今日はもうあがる。お前達について行っていいか?」


「え?それって、ボス部屋に一緒に入るってコト?」


「ああ、俺は宝箱には興味ない。楽をしたいだけだ」


うーん、どうしよう?助けてもらったとはいえ、信じていいのだろうか?

またシロクマちゃん狙いとかだったら……


おにぃさんは室内をチョロチョロ探索している3匹の内、近くを通ったラムネちゃんを摘まみ上げて顔を覗き込んだ。


「クマだな」


「シロクマだよー」


「獣人か?」


「ちがうよー」


何だろう?独特な雰囲気の人だな。

少し朴訥で、真面目……コミュ症ではないが、人との接し方は不器用だ。

さて、どうしたものかな?


「そうか。何故ハダカなのかと疑問に思っていたが、従魔なら…」


最後まで言わせてもらえず、3匹に蹴りを喰らったおにぃさんは解せぬとばかりに眉間にしわを寄せた。


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