45話 元番人の黒い悪行
夕陽が雲海の地平線に沈み、雲海から溢れる光だけが空の天空城の更に空を照らしている。
現在儂等は城から少し離れた離宮にいる。ルシフェイルの突撃尋問によって天使の一人が口を割り、石板を持っているだろう先王がここにいると言った。だが正直半信半疑だ。追い詰められていたとしても、真実である確証は何処にもない。そしてその場所に罠が張り巡らされていたら目も当てられない。
どうしようかと考えつつ、離宮をその場で見つめてみる。石造りの大きめの屋敷だ。四角の形に外壁があり、中心には頭一つ抜けた高さの塔がある。離宮の形状自体に何かあるようには見えない。
ここで疑問が一つ。離宮までの道中、離宮の周囲に、天使がいないのだ。余りにも静か過ぎる。天空城で暴れた結果、兵士や騎士を全滅させてしまったのか。もしくは……
「マネカレザルキャクジン。テンのバンニン、ルシフェイル。オカゲでクニはコンラン。センダイオウであるワレがタイジするハメになった。ヤッてくれたナ。ココにクルノはマホウグツウシンでワカっていたゾ」
「ようやくだ。あの時の理由の分からぬ突然の革命。この地の守護者である俺を封じ込めるとは、やってくれたな」
何か誰かを守ったり、儂等を早急に倒す必要が無くなったか。離宮の中心にある塔のバルコニーに佇む老天使。あれが先王……あの堂々とした様相、後者だろう。あの天使が強いか切り札があるか。あの天使から感じる意志ある敵意、警戒を緩めなければ確実に痛い目に遭う!
「コーヒーなどトイウ、ドクブツをクニにモタラシテオイテ、なにをイウカ!」
「おい」
儂の一言の追求に、ルシフェイルは納得していないように頭を掻いて口を開く。
「いやぁ、地上で試しに飲んでみて、美味かったから皆に振る舞っただけだが」
「アレのオカゲでクニがカタムイタのダゾ!フルマッたオマエは、コーヒーをノンダコクミンを、ヒトリヒトリかくにんシタノカ?!」
「あれ美味すぎて倒れたんじゃ無いのか?」
「シシルイルイなドウホウをミテなぜそんなことをイエル!!」
{「「……」」}
『マスターと同レベルですね』
儂とエンデとファザーが唖然とし、怒神が国を滅ぼした自身の製作者と同じなのだと呟いた。儂とエンデは怒神のマスターとやらのやらかしたことを知っている分、余計に言葉が出ない。
確かにコーヒーはある意味、あの味は毒物ではある。そもそも人間と天使とは身体の構造が全く同じとは限らない。人間には大丈夫な物が天使に取っては害になる物、というのはあり得る話ではあるだろう。実際、人間は食べられるが犬や猫が食べてはいけない食料が存在している。それが天使に取ってのコーヒーだったという訳だろう。
ルシフェイルは……そもそも一般的な天使と違うと宣言している以上、天使の枠に入れないほうが良さそうだ。
「フタタビタイジしシンソコリカイした。モウユルサン!モウゲンカイだ!コヨイ、キサマもろトモ、チジョウを、ニンゲンをホロボシてやる!」
その言葉を残し、先王がバルコニーから姿を消した。いや違う、先王がいた塔自体が崩れるように姿を眩ました。
ゴゴゴッ!と空なのに地鳴りが響く。儂の想像のつかない何かが目覚めるような気配を感じ、一歩、そのまた一歩とじりじりと離宮から離れ、エンデと怒神とあとついでにルシフェイルが臨戦態勢を取った。
星明かりの中、消えた塔の場所から何かが膨れ上がる。その瞬間、夜を照らすほどそれが輝いた。数多の巨大な天使の羽によって構築された空に浮かぶ純白の羽の集合体。その中心部から、先王が現れる。
『……発せられる魔力、ゴーレムとは全く違う何かです。恐らく魔法具だとは思いますが、前のワタシの大規模戦術ゴーレムクラスです!ルーダさん、エンデさん、ファザーさん。ご注意を!』
「俺は仲間はずれか?!」
先王を含むこの場の全員からの冷ややかな目線がルシフェイルを襲う。残当だ。
取り敢えず、あれに暴れられたらかなり不味い。すぐに先王に向けてナイフを投げてみる。だが、虹色に薄く輝く膜のような物に阻まれ、儂が投げた速度以上の速度でこちらに向けて弾かれる。幸い当たらなかったが、少なくとも生半可な攻撃では有効打にならなさそうだ。
「ファザー」
その言葉を発したエンデと、ファザーの目が合い、数瞬の時間の後ファザーが頷く。
{……良いだろう}
「あの魔法具と天使は私が相手する。それで良い?」
「特に異論は無い」
『ワタシからも、エンデさんがそうするなら止める理由はありません』
その後押しで、エンデが覚悟を決めた目になった。エンデが、儂等が話していた僅かな時間で増量し増大した純白の羽。その中心で佇む天使を見据え、先王も敵意に満ちた目で儂等を見下ろす。
ルシフェイルのやらかしたことを聞く限りでは頭が痛くなるし、天使にも同情する。だが地上を滅ぼすなんて蛮行を許す訳にもいかないので、取り敢えず死なない程度に反抗心を折ろう。ついでにルシフェイルもちょっと巻き込もう。
その旨をエンデに小声で伝え、今の小声が聞こえていた怒神がルシフェイルに蹴りを入れる。その蹴りで吹き飛ぶ方向は先王が動かす魔法具。儂なら背骨が粉々になるくらいの威力で、純白の羽の中に放り込まれた。
「それじゃあ、本気出すからルーダをお願い」
エンデのその宣言の瞬間、陽の光が完全に消え失せ、星々が空を照らす夜になる。




