43話 天の元番人
「おい貴様!もう少し優しくだ!優しく外せ!」
ギィー!っと音を鳴らしながら、片腕を切断機に変えた怒神が天使を繋いでいる鎖に向けて振り下ろす。そして天使が恐怖によるものなのか大きく声を荒げる。何故こんなことをしているのかと言うと、天使が鎖を外してくれればどんな質問にも応え協力すると言ったので、取り敢えずその鎖を破壊している最中。
もし天使が口約束を反故にしても何とかはなる。というエンデの提案の元こうしている訳だが、もう何か、やり方は無かったのだろうか。儂でもあんな状況になったら普通に怖い。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
天使を閉じ込めていた檻も、鎖ももう無い。あの様子からこの天使の国に不都合な存在であるとは考えられる。だが儂等と協力できるという保証は何処にもない。
エンデが目を細め拳を強く握る。怒神は切断機に変えた腕を戻さずその天使に向けて軽く構えた。ファザーは小さな状態から膨れ上がるように黒が膨張し、二枚の羽を携えた悪魔の姿と鳴った。大きさとしては儂の二の腕ほど。何と言うか、親が幼子に買い与えるような人形にしか見えない。
ちなみに儂はナイフをすぐに取り出せる位置に隠し持っている。
「自己紹介をしよう。俺の名はルシフェイル。この天空城の守護者を務めている」
……こいつがこの天空城を守る存在なのか?あの本で存在事態は知っていたし、確かに守護者や番人と呼べる存在に先程まで会っていなかったが、この天使が?
「偽物か?」
「さぁ?少なくとも私よりは弱い」
「貴様らぁ……俺をどこまで愚弄すれば気が済む。この俺が本気になれば……!」
エンデが拳を握り怒神が片腕を振り上げファザーから黒い炎が吹き上がる。
「いや何でもない」
流石に今のは儂も冷や汗が出た。
「して、解放してくれた礼に何を望む?何を望むのか詳細に頼む。適当だと何をすれば良いのか分からなくなるからな、俺が」
「なら、この天空城について教えてくれ。儂等はこの本からこの地の存在を知り地上からここに辿り着いた。いくつかこちらから質問をするから、その質問について応えて欲しい」
一呼吸置き、その場で座り質問に応える体勢となったルシフェイルに質問を投げかける。
「まずこの天空城が造られた経緯を教えてくれ。この本にはそういったことが全く書かれていない故に、儂は知りたい」
「知らぬ」
歴史書は無いのか?華々しい建国神話とか……そういうの……知らないのなら仕方ないか。
『次はワタシから。天使という種族が生まれた経緯を知りたい。人から進化したのか、呪いで変異したのか、魔法の産物による人造生命体なのか。教えて頂きたい。それによって対応が少し変わる」
「分からぬ」
怒神が天を仰いだ。
「ならば天使社会の階級制度はどうなのだ?王や帝王がいるか?もしくは議会などによる合議制の複数権力なのか?教えてくれ」
「昔は分かるが今は分からぬ。この魔力を縛る鎖で封じられたのが数百年前だからな」
……
「どうするルーダ。こいつ何も知らないぞ」
「まだ一応質問はある。恐らく知らないだろうが」
大きく息を吐き、儂の荷物の中から二つのコレクションを取り出し見せる。
「最後に、この石板について知っているか?」
恐らく世界が凍えた原因に迫れる儂の意味深コレクションである二つの石板。今まで隠されていた場所的に、そうそう見つからない物だ。見つけようと思って見つけられる物では無い故に、ダメ元で聞いてみるだけ聞く。現状それしか方法はない。
「ああ、それならば知っている。確か宝物庫にあったはずだ」
「何だと?!」
すぐに場所と位置を教えて貰い、駆け足でそこに向かう。走り始めてから少し経って後ろを見ると、ルシフェイルが共に来てくれていた。ここの者がいるのは探し物を探す上でかなりありがたい。
怒神が先陣を切り儂がそれに続き小さな塊に戻ったファザーが儂の頭に乗り、エンデとルシフェイルが儂の後に続いている。走っている最中、背後からエンデとルシフェイルの会話が聞こえ、それを聞き取ろうと耳を澄ます。
「そう言えば、ルシフェイルは何故あんな場所で捕らえられていた?」
「反乱の……敗北者だ」
それ以上は何も応えず、ルシフェイルはただ静かに口を閉ざした。
「そう言えば聞き忘れていた。何故天使は羽の無い人を差別し軽蔑する?過去に迫害されたことでもあったのか?」
過去の惨劇から特定の国や部族や一族を敵視することは、歴史上を見ても良くある。
「……初耳だ。俺が封じられる前は人間との交流を度々していたし、問題を起こされてもこの地にある数多の魔法具がそれを許さぬ。過去に人間の大国から攻められたこともあったが、難なく返り討ちに終わった。迫害されようがないし、差別するほど理由を俺は知らん」
「そうか」
「……貴様の名はルーダ。だったか?一番人間に見える貴様に一つ聞きたい。あのバケモノ共はなんだ。まさか人間なのか?俺を軽く一蹴しそうな強さだが……」
儂とルシフェイルの前方には、侵入者に対抗するべく武器を構える天使の兵士や騎士たち。天使たちはルシフェイルの顔を見て一瞬驚愕するものの、圧倒的な蹂躙でそれどころでは無いようで、恐怖を押し殺すように雄叫びを上げたり、がむしゃらに突撃をしている。
それをしてもエンデが魔法を一発放つだけで紙屑のように吹き飛び、天使たちの戦意がその身体と同じように吹き飛んでいくのを表情から察せられる。怒神はゴーレムだから人ではないし、ファザーは悪魔。エンデを一般的な人間と言うには……正直頷きかねる。人間の子供は天使を蹂躙する実力など無い。
取り敢えず、かいつまんで儂の仲間をルシフェイルに説明する。ルシフェイルは哀れみと疑問を含んだ顔で儂を見た。表情から察するに同情心と訳の分からない者を見る目だ。
「貴様本当に人間か?」
「エンデたちの力を見るたび儂は力の無い人間なのだとつくづく実感しているが?」
軽く反論するとルシフェルはそう言うものかと呟きながら、少し先にいるエンデたちよりも先を見据え、よく響く声で高らかに叫んだ。
「その先!無駄に豪華で無意味に堅牢な扉の先が宝物庫だ!」
その声を聞いた怒神が人ならざる脚力を発揮し、止まるそぶりを見せず砲弾の如く直進する。ちなみに怒神が足を踏み入れた箇所は、石造りの床であるのにも関わらず砂利のように粉々である。
それほどの突撃。それほどの速度と力。宝物庫の扉は見るも無惨に大穴が開き、それに繋がる壁には無数のヒビ。この城の主には少なからず同情しよう。もしこれを完璧に修繕しようとしたら、国家予算が消える。元々小市民であった儂でも、消える金額を想像し身震いした。
宝物庫の中は薄暗く。窓が無いので扉が完全に閉まれば真っ暗になるだろう。その様相は、金銀財宝が納められた宝物庫と言うよりも、置物部屋か倉庫である。少なくとも大きな城にある権威の象徴には見えないし、全然綺羅びやかではない。
流石に暗いのでエンデが魔法で光源を生み宝物庫内を満遍なく照らす。だが見渡す限り金銀財宝。全員で一つずつ確認して行くが、石板も魔法具も無い。この凍えた世界では金銀財宝など無駄な荷物でしか無い。
「ここの通貨に?宝石のついた剣に?金銀財宝の宝箱……石板が無いぞ。そっちはどうだ?」
「無い」
『無いですね』
{……眩しい}
宝物庫をひっくり返しても石板らしき物体は無い。嫌になるほど真っ当な金や銀や宝石ばかり。一同の視線がルシフェイルに突き刺さる。
「あーっ!あいつ……そう言えばそうだった。そう言えば興味持ってたなあいつ。はぁ、お前達が探している石板。恐らく現王が持っているはずだ」
つまり宝物庫に来たのは無駄足と。何とも言えない顔で、エンデが軽くチョップを放った。




