42話 天使たち
ただ静かに、緊迫とした空気を漂わせこの国の住民たちが各々の家へと帰って行く。バサバサと背の羽を羽ばたかせ、防具を身に纏った兵士らしき者達が四方八方へと飛んで戻りかなりの頻度で巡回している。
そしてそんな中、その元凶となっている儂等は……
天空城の城下町をただただ普通に観光している!
現在地は天空城にある町中の少し広い木々の生えた公園。元々あの塔に転移してから誰もいない街角に逃げ込み、そして今は街角から更に進んだ公園。
魔法で姿を認識されないとは言え、果たしてこのようにゆったりと進んで良いものか。少々疑問が残る。ちなみに天空城はまだ遠い。塔のバルコニーだけでは全貌を把握しきれなかったが、ある程度進んだことで大体分かった。
中心に天空城。その外周に権力を持っているであろう一族の家々。更にその外周に階級としては平民と思われる者達の家々や商業などの地区。更に更にその外周には広い農村があり、所々に開拓されていない森や平原が存在している。そして最後に城壁のように取り囲み、一定間隔で儂等が転移された塔がある。儂等が転移した塔は城壁の近くまで家々があったから、まさかこれほどまでに広いとは予想外だ。
……儂の経験上、高い場所=権力の象徴ということが多い。そしてここではそれが顕著なのか、城を頂上として、山のように外周に向かうほど高さが下がっている。元々そういう造りなのか、天使達がそういう風に造り直したのかは定かではない。だが今一つ分かることがある。
それは、怒神に背負ってもらって正解だったということだ。山のような造りになっているとはつまり、ここは坂だ。しかも登り方向。老人の儂にはかなり厳しかったことだろう。
楽。あまりにも楽。
「……!」
透明なエンデが儂の袖を引っ張る。緊迫とした何かでもあったのだろうか。無意味に音を立てないように周囲を見渡す。ちなみに儂は怒神に背負ってもらい、ファザーはエンデに片手で抱えてもらっている。頭に乗っかっているだけでは何かしそうで怖いというファザー以外の全員の意見の一致によってそうなっている。
……あれか。
エンデが袖を引っ張った理由が分かった。エンデが袖を引っ張った方向には、派手な装飾をした天使が意味深な魔法具らしき鈴を手にこちらにジリジリと近付いていた。しかも天使の兵士数十名のおまけ付き。
チリーン、っと鈴がなる。すると派手な装飾をした天使がゆっくりとこちらを向いた。そしてゆっくりとこちらに歩みを進めている。即座に周囲を見渡すがエンデや怒神の姿は見えない。今儂等に掛けられている魔法は一度認識されたら効果が無くなるらしい。もしあの天使に見つかっていれば儂等の姿が剥げているはず。
恐らくあの天使が持つ鈴。あれは魔法具で、推測するに鈴を鳴らすと対象の位置のみを知る物だろう。位置以外も知られていたのならかなり不味いが……
突然、儂を背負う怒神の向きが変わった。恐らくあの天使から逃げようとしているのだろう。それには賛成だし、観光なんて実際問題している暇はあまり無い。ここは急ぐべきだ。
……歯痒いな。
仲間の姿が見えないと、言葉を交わさない情報共有すら困難になる。そしてそれは仲間の姿を視認する術がない儂が特に顕著。だからこそ、儂にできることをしよう。
認識を阻害する魔法の対象者はエンデが直接魔法を掛けた儂、エンデ、怒神、ファザーの四者。なら、その魔法は儂等の何処に掛けられ、何処までが範囲内なのか。エンデはそこまで詳細に説明はしなかったが、最近魔法の基礎を学び始めた儂にはある程度推察できる。
魔法範囲は儂の全て。身体、服、荷物の全てが対象。ならば先日自衛用にエンデに作って貰った爆弾の魔法具をあの天使との直線方向に落としても、誰も気付けない。
エンデと怒神は儂が何をしたか気付いたのか、足早にこの場をまっすぐ直線に歩みを早めた。正直に言うと、儂はエンデが作ったその魔法具の威力を知らない。相手に投げれば爆発するという簡素な説明だけ。だが……
派手な装飾をした天使が再び鈴を鳴らし、チリーンっと音がこの場に響く。何を察したのかその天使が腕をバッと広げ、周囲の天使たちが剣を抜き、羽を広げてこちらにまっすぐ突撃を始める。
だが向かう先の足元には爆弾。しかし天使は飛んでいるので、あの高度だと触れもしない。どうやって爆発するのだろうか。儂としては、姿の見えぬ儂等に天使が迫る緊迫感よりも、ただただ単純にあの爆弾のことが気になって仕方がない。
天使がその位置に達した瞬間、良く響くように手が鳴った。そしてそれと同時に爆発音がそこに鳴る。恐らくエンデだ。今の音は、起爆させるための行為だろう。でなければ触れてもいないのに独りでに起爆するの理由が分からない。あの爆弾の使用方法は依然として相手にぶつけることだろう。今回は状況があれなので、仕方なくエンデが直接起爆させたのだろう。
それにしても凄まじく五月蝿い。儂は単純に火薬のように爆発する物だと思っていたが……何だあれは。儂の知る爆弾ではない。あの爆弾の形状は導火線の無い木製の札。だから儂の想像する物と違うのは理解できる。だがあれは完全に予想外だ。本当に訳が分からない。
音が連鎖的に爆破しているのだ。
爆破音という塊が可視化され、衝撃という現象を導火線のように引き起こし、天使たちが吹き飛ばされている。派手な装飾をした天使も例外ではなく、武装した天使たちと共に巻き込まれている。しかも、爆破に吹き飛ばされその次の爆発に捕まり吹き飛ばされと延々と抜け出せずにいる。製作者のエンデには悪いが、流石にこれは酷い。追加で渡されても、余程の危機的状況でなければ使う気は起きないだろう。
「ここまで来れば大丈夫そうかな。ふぅ」
周囲を見回す。周囲に天使影は無く、外の喧騒もあまり響かない。儂は一息ついて怒神の背から降りる。
安全を確認したのかエンデが軽く手を叩き、儂等に掛けられていた認識阻害の魔法が剥がれ皆の姿が見えるようになった。全員ここにいて安心した。本当に安心感が胸を支配した。姿が見えず言葉の意思疎通が計れないので儂がどれだけ精神を削ったか……
「ふぅぅ。さて、城の内部に侵入できたのは良いが、これからどうする?儂としては天使とは敵対せず、隠れながら手当たり次第部屋を調べ上げようと思うが」
「一旦この城の天使を追い出して結界を張ろう。そうすればゆっくり探索ができる」
『ここの権力者を拷問した方が早いのでは?』
{一々相手にするのは面倒だ。我の意見は殲滅一択}
……天使の力量差を未だに完全に判断できない故に、一般人としての意見を出したつもりだったが、駄目だった。少なくとも儂以外の全員がそれを可能とする実力を持っているから、余計に儂の案の存在感が薄れてゆく。
「オイ、ダレカソコに、イル……ノカ……?」
全員がその声の方向に目線を向ける。ここは高さ的に城の地下一階。場所的には倉庫や牢屋などの人目に晒されない物があるような位置だが。
ゆっくり薄暗い中その声の主に近付いて行く。
天使しかいない地でに響く声と言えば、まぁ案の定と言えば案の定だが、天使が鎖に繋がれ牢屋と呼べるそこにいた。
「メズラシイ……ニンゲンか。ニンゲンがナンのヨぅっ……っ?!
「……その変な発音やめて」
エンデがボロボロの天使に容赦なくボディブローを叩き込んだ。確かに聞き取りづらい独特な発音で会話が段々嫌になるような言葉だが。
「ぐはぁ!はぁはぁ、貴様!いきなり何を……っ?!」
「ほう。儂等に近い発音に変えたのか」
「動物を喋らせたい時とかに使える。効果を他人に与えることにかなり乱暴な措置が必要になったりして扱い難いけど」




