39話 天蓋の園
一夜の遊戯を終えた翌日。儂、エンデ、怒神、ファザーのは何とも言えない疲労感が漂っていた。
魔法人生ではしゃぎ過ぎたか、熱中しすぎたか、長引いて徹夜気味になったかも知れない。年甲斐も無くはしゃいだ自覚はある。たまに自身の年を忘れるクセを直したほうが良いかも知れないな。
……いや待て、儂は七十過ぎ、エンデは推定一万以上、怒神は数千、ファザーはエンデ以上。老人なのに儂以外が長生き過ぎて儂が若輩にしかならないのはどうにかならないだろうか。
「待って、今過ぎた」
天空城に行ける道標である本に歩きながら目を通していたエンデがそう言い、儂等は足を止める。
「過ぎた?城が何処かに飛んで行ったのか?」
あり得る可能性を口にしつつエンデの言葉の真意を問う。空中に浮かぶ天空の城だ。本当に存在していたとして、天空は風が吹き荒れ地上のように固定できる地面が存在しない。魔法を用いたとしても、多少の移動は確実に起きるだろう。そもそもその場にあり続けるよりも、世界中の空を飛んでいる方が現実味がある。
「そうじゃない。地上の地形が変わってるせいで転移の魔法陣の場所があると思われる場所を過ぎた。ほら、この地図と本の地図がかなり違っているだろ?」
エンデがこの周辺を記した地図と本に記された地図の両方を見せる。確かに大きく違う。本には儂等が今いる場所には渓谷があるようだが、周囲を見る限りそんなものは見当たらない。天空城直通であろう転移の魔法陣の近くには湖が記されているが、今の地図には川しかない。これは魔法陣を見つけるのに苦労しそうだ。
『確かに違いますね。ワタシも内容を一通り見ましたが、こうして見比べて見なければ分からない些細で大きな違いばかりです』
「転移の魔法陣を使えば天空城に直通できるものの、時間経過がここまで牙を剥くとは……転移の魔法陣そのものが壊れていたり劣化していて消滅している可能性も考慮しないと」
「なぁエンデ、一つ聞くが……天空城自体はこの上空にあるのだろう?ならば空を飛べば何とかならないか?儂の推測では、その本に記された行き方は空を飛べない者に向けたもので、空を飛べるエンデや怒神ならば……」
「ルーダの意見は手段の一つとしては考える余地がある。けどこんなにも天空城と行き方について詳細に書かれた書物が、たった一つの行き方しか記されていない。つまり現実的じゃ無いんだ。王城にも正面の入口と裏口の最低二つがあるだろうけど、もし敵にたった一つの逃げる手段を押さえられたら助けに行けないし逃げられない。だからこれしか無いのはあり得ない。でも現実的では無い。ここの記述を読んでみて」
エンデにそう言われ、指をさした箇所を読み上げる。
「天空城は誰にも見えぬ、誰にも手を伸ばせぬ、誰にも壊させぬ。天空の護り手は国々の武をも退ける……」
『大まかに翻訳すると、誰にも手を出せない幻術と天空城までの距離と強固な結界と番人がいる。という訳ですね。幻惑で進めず、空にあるため普通は到達できず、強固な結界で物理的にも侵入できない。もし結界を突破できても番人が立ちはだかる。ですが逃げるだけなら転移の魔法陣を使わず外に出て落ちるだけで城から出られます。もし許可証が存在すれば空から入れますし、空にあるのに空の移動手段が無いとは考えられません』
「つまるところ、直接行ける手段はあるだろうが、ほぼ無理ということだ」
確かにそうか。だがそれほど侵入されるのを拒むのなら、俄然天空城に何があるのか気になって来た。
エンデと怒神と相談し、まず魔法陣があるそうな場所を探索してから、最終手段として直接空を飛び天空城に向かうことに決まった。
{『「「……」」』}
あれから大体半日の時間を掛けて地図の場所と今の地図の差異を見比べ場所を特定したものの、その状態を見て頭を抱えたくなった。いや、頭を抱えたいのはエンデの方だろう。現に今、頭を抱えている。
天空城直通の転移の魔法陣は見つけた。地下に半分埋まっていたものの、それ相応の神殿もあった。だがいかんせん場所が良くなかった。ここは元々地震が多く発生し、大きな地震も数十年程度の頻度で発生しており、更には火山も近い。数百年前の話になるが、大噴火によって地形が変わり、地図を丸々書き換えることになったという当時の記述もある。地形の変動が激しい土地だ。
だからこそ、こんな目の前の現実はある意味間違っていはいないだろう。
「なぁんで転移の魔法陣が粉々になっている?!下地ごと?!魔法陣も?!何で?!稼働中なら魔法陣破損で爆発するけど、流石に常時は動いてないはず!でも何で?!半分でも魔法陣が残っていたらそこから魔法陣を逆算できたのに!」
「落ち着け。天空城に行く方法が完全に絶たれた訳では無いだろ?魔王、ゴーレム、悪魔。どんな魔法も結界も番人も到底阻むことができないとは思わないか?」
「ルーダ……」
「さて、当初の予定通り直接天空城に向かうとしよう。異論はあるか?」
周りを見回しながら儂以外の全員に聞いてみる。特に反論は無く、直接向かうことになった。
天空城に行く方法だが、その前にまず天空城の現在位置を探さなければならない。無策で突撃して見つからず一日が無為に終わるのは正直避けたい。が、そもそも天空城の位置確認なんて儂には分からないのが現状だ。こうなった場合は主にエンデと怒神に任せるしか無い。
『魔力反応を感知しました。東方向です』
「待って、安易に行くのは危険。他の方向にも大きな魔力を感じる。ダミーの可能性も考慮しないと」
『……だとしてもこの上方向の視界の悪さではどうしようもないかと。暗雲のせいで視界最悪ですよ。地図に、魔力反応を感知した位置を記して、手当たり次第叩くのが確実かと』
「うーん。そー……うか。でも魔力を隠していたら目視に頼るしか無いし、いやそもそも幻惑の魔法があるみたいだから、それも厳しいか……」
エンデと怒神の話し合いは案が出されては潰れを繰り返し、最終的に手当たり次第探す方向に纏まろうとしていた時、儂の背後が光った。
急いで周囲を見回す。そう言えばファザーがいない。そして話し合いをしているのは転移の魔法陣がある神殿跡、そして儂の背後の奥には魔法陣の残骸足り得るか怪しい石の欠片。十中八九ファザーがそれに何かをしたのは確実。エンデと怒神と共にファザー以外の全員で光の発生源へと向かう。
然程時間は掛からず光の発生源でファザーを見つけた。そしてそこには、魔法陣があった。エンデが顎が外れそうなほど驚いているから、恐らく転移の魔法陣。その驚きようから推測するに、エンデにとって予想外の方法を実行したのだろう。儂も怒神も驚いている。せめて先に相談か報告はして欲しかった。
「それで、ファザーは一体何をしたんだ?」
{時を戻した}
「はい?!時に干渉する魔法なんて超々高度で私にも厳しいんだけど」
唖然とするエンデを視界に捉えつつ、エンデがこの様子ではまともに説明できるか怪しいので、その時の魔法についての説明を目配せで怒神に頼む。
『時間系統の魔法は世界の流れに逆らう為、気軽に行使はできませんし。下手に使えば魔法自体が暴走し自滅するのでリスクは大きく、使用される魔力は膨大で行使可能者は限定されます。時間を止めるならまだしも遡るなんて、普通は悪魔だからとしても無理としか言えません。本当に行使したのか疑問が先に来るレベルです』
確かに、前に孤島で見つけた悪魔に掛けられていたのは時間を止めるだけに特化していたし、それを補強する為に極大魔法陣まで使っていた。その悪魔が時の魔法について知っていれば封印されなかったかも知れないし、時の魔法に対する術を知っていれば抜け出すこともできたと思う。
……取り敢えず、聞いた限りではファザーは普通ではないと。ファザーを見た限りでは消耗した様子も無い。実に頼もしいが、ファザーと同レベルの悪魔と会った時が怖いな。
「兎に角、その魔法陣が正常に動けば今すぐにでも行けるのでは?さっきの案を実行するよりも更に確実と思うが」
「ちょっと待って」
エンデがそう言うと、魔法陣に触れたり至近距離で見たり軽く叩いたり。恐らく魔法陣の点検だろう。魔法陣が時の魔法で戻ったとしても、正常に動く保証は無い。儂にその知識や術はないから、それをしてくれるのは本当にありがたい。
すぐに点検は終わり、エンデが魔法陣に触れて儂等に手招きをした。ファザーは確実に回収し、エンデと同じように魔法陣に触れる。怒神も同じように魔法陣に触れた。この先が、天空の城。今更ながら緊張してきた。
「それじゃあ、起動するよ」
そうエンデがいった途端、魔法陣からさっき以上の光が放たれる。流石に眩しすぎて儂は咄嗟に目を閉じた。
「ふう。これで到着したはず」
声が聞こえたが、さっきの光で目が眩んだようだ。まだ周りが見えない。
だが、なんだか身体が軽くなっていく感覚が……いや、この故障だらけの老体から、疲れや重さが取れているのを感じる。何かの魔法だろうか。儂が考えるよりも、エンデに聞いた方が確実なことを教えてくれるだろう。そう思いエンデに聞いてみる。
「……何だか、疲れが癒えていかないか?」
今朝から引いていた疲労感や今まで蓄積された疲労が段々と回復して行くのが肌で分かる。しかも眩んだ目が見えるようになって来た。
「疲労回復の魔法……?いやこれは、まさか、それ以上の……」
エンデはぶつぶつと自分の世界に入ってしまった。
それにしても、ここが天空城か。あの魔法陣が仰々しく神殿にあったことを考えると、恐らくここは玄関口と推測できるが……周囲には窓無し、灯り無し、扉見えない。視界は黒に塗り潰されている。つまり真っ暗だ!




