40話 進撃の怪物集団
流石に暗すぎたのでエンデが魔法で明かりを灯した。それによってすぐに視界は開け、この場所の様相が明るみになって行く。
この場所を一言で表すなら石造りの円柱状の空間。王宮で使われるような明るい白色の……大理石だろうか。内側視点だが、それが丸く円の形を成して建てられている。この場所だけしか見ていないが天空の城は嘘偽りは無いようだ。
「にしても大きいな。この魔法陣は」
儂等の真下。足元には、大きさは違えどこの場所に来る為に使った転移の魔法陣と全く同じな紋様がある。見た限りは相違点は無い。ならばこれを使えば地上のあの場所に戻れるだろう。帰りの心配はしなくて良さそうだ。
「確かにこの床全部を埋め尽くす魔法陣は大きい。でも大きい利点はそれなりにある。例えば複数箇所からの同時転移があったとしても、この大きさなら大量に来すぎて圧死なんてそうそう起きないし充分対処できる。他にも魔法の持続時間とか、地上の小さい魔法陣だと一箇所にしか転移できないけど、ここからマークした複数の魔法陣に転移できたりとか、色々と。場所は取るけど、それさえ解決できればどんなに大きくてもそれなりの利点がある。流石にこれ以上の大きさだと極大魔法陣の範疇になるけど」
やはり魔法関連となると饒舌になるな。エンデは。研究者気質というやつだろうか。かつて考古学者の友人が畑違いの学者の話は興味を持ち辛くて苦痛と愚痴ったことがあるが、この話は儂にとって有益な上、儂は魔法について興味を持っている。だから幸いにもそれほど苦にはならない。
『エンデさん、ルーダさん。その話は後にしましょう。今重要なのは、この密封空間からの脱出方法です』
脱出という言葉で儂とエンデの間に漂っていた緩い空気が消え、エンデと共に即座に周囲を見渡す。
今まで下の魔法陣ばかりに気を取られていて確認していなかったが、この場所には扉も、窓も無い。閉まっているとばかり考えていたが、事態は想像よりもかなり不味かった。
「恐らく外側から出入り口ができる仕組みだろう。でなければ魔法陣を用意したりしないはず。儂の推測はこうだが、どうだ?その本にはどう書かれている?」
「……確かにここの本に書かれているのを信用するなら、この外側に出入り口を作る装置があるらしい。あと人力で作動するらしい。多分……この世界にルーダ以外にいないよね、人間」
この場の全員が今まで沢山見てきた氷像を連想しただろう。儂もそうだ。恐らくこの天空城は今までの街や村や国の人々と同じだ。つまりこの天空城には、儂等をここから出してくれる者がいない。恐らく生存者全員が氷像と化している。
{管理者が凍える前に悠久の時で全て死滅しているかも知れぬがな}
『「「……」」』
確かにそうかも知れないが、どっちも同じだ。そう言いたかったが、そんな場合ではないのでファザー以外の全員はその言葉を飲み込んだ。エンデと怒神の顔がそう物語っている。儂も同じ顔だろうな。
『それで、どうしますか?幸い足元の魔法陣を起動すれば地上に帰れますが』
「いや、苦労してここまで来たんだ。今更戻るのはな……どんなに細い糸だとしても、真実に辿り着ける可能性があるのなら、手繰り寄せる以外に選択肢は無い。儂にとってはな」
そう言ったものの、正直どうしようか。現状、無計画でしか無い。
「壊すか」
『そうですね。ルーダさんにまでダメージが及ぶほどの硬度ではなさそうですし』
{悪魔と言えど定期的な運動を欲していたところだ。丁度いい}
物騒な言葉が儂以外のそれぞれから飛び出した。そう言えば儂以外全員が国を滅ぼす程度の力を持っている。それぞれ弱体化しているとは言え、壁一枚を砕くのは訳無いだろう。だがやり過ぎが怖い。やり過ぎて天空城が崩壊なんてしたら目も当てられない。
「待て待て。一斉にやったら何が起きるか分かったもんじゃない。エンデ、壁そのものに魔法的な干渉等が無いか調べてくれ。怒神、魔法的な破壊よりも物理的な破壊を頼む。ハンマーや釘はここにあるから、エンデのあれが終わり次第取り掛かってくれ。そして最後に、ファザーは待機だ」
{我が力に不満でも?}
「……やり過ぎが怖いだけだ」
下手にやりすぎて天空城崩壊、防衛のゴーレムが儂等を敵と認識し襲いかかる、重要な情報等が破壊に巻き込まれる。軽く考えただけでこれだけ最悪の状況が思い浮かぶ。色々な意味で怖い。
そんな会話をしていると、壁に手を触れながら一周したエンデが儂等に向けて口を開いた。
「魔法的な仕掛けは無いよ。強いて言うなら、あの方向から空洞音が聞こえた。多分、あそこが扉になるんだと思う。ここが天空なら、空に出るよりも城内部に出たほうが安全なはず」
『了解です……ですが、ルーダさん。この釘だと壁に負けてしまう恐れがあるので、ワタシの拳で代用させていただきます』
まぁ、ゴーレムの腕なら壁を叩いても大丈夫か。特に止める理由もないので任せ、儂は本に記されている天空城の地理と地図をエンデと共に確認する。そう時間は掛からず怒神の腕は石の壁を貫通し、すぐに人間一人分が通れる程度の穴になった。
『まず何処に向かうか決まりましたか?』
「あぁ、まずこのバルコニーに向かおうと思う。ここなら近いし、地図の位置的に天空城を一望できるはずだ」
天空城は大きな城を中心とした一種の城塞都市だ。城の周囲には街にような居住地があり、一定間隔で広い公園のような敷地がある。そして外周には高い壁で囲まれており、天空城の地下部分には空中に浮かぶ為の装置があるらしい。この本に書かれているのをすべて信じるならだが。
現在の位置は城から離れた離宮のような場所。外周にある壁に埋め込まれている高い塔のようだ。一定間隔で他の塔があるので、魔法的な何かの役割があると思われる。
『右方向。人型生命体。来ます!』
怒神のその言葉に全員がそれぞれ臨戦体勢を取った。儂は一番戦力にならなさそうだが、せめてもの自衛としてナイフを手に取る。
「ケイコク。ブキをオロシナサイ。アナタガタにショウキはアリマセン。デナケレバ、アナタガタのダレカガイノチを――」
「ほい」
『バチッ』
{愚かな}
「よし、ここを縛れば……制圧完了だな」
儂等に迫り敵意を向けて来たそれは、エンデの魔法で瀕死となり、怒神の電撃で僅かに残っていた意識を刈り取られ、ファザーの力で所持していた武器や防具や魔法具は全て粉々に崩壊し、どうなるかを悟った儂は縄で全身を縛り尋問に相応しい状態に整え終えた。
儂を含め、全員が興味深く蹂躙されたそれに目を移す。全員の目は、ただそれに向かっていた。人型、というよりほぼ人間の姿の背中に生えている、大きく白い天使の羽を。
「天使……だな。エンデはどう思う?」
「うーん。私も知らない。空は魔王による進軍の範囲外だったし、元々空を飛ぶ魔法は苦手だったから」
『ワタシを製造した時代にも、一切情報がありません』
{エンデール。あの本はどうした}
「あっそっか。ちょっと待って……うーん。天空城の行き方については詳細に載ってるけど、住民については全然載ってない……」
「もしや此奴が例の番人では?」
天空城の番人……にしては余りにも呆気ないが、その羽は普通の範疇では無いのは確かだ。
『あり得ると思います』
「なら、まずは起こしてからかな」
エンデの言葉に頷く。それは著者の意図か、単に知らなかっただけかは分からないが、本に書かれていないことについて、知る必要がありそうだ。
……まずベランダに行こうと思っていたが、まずはこの天使の拷問と尋問が先決だな。




