第60話「神骸」
角灯を掲げた。
炎の輪が、闇を少しだけ押し戻した。中央のものが、輪郭を現し始めた。
——人の、形をしていた。
巨大な。天井に届くほどの。横たわった人の形。だが、生きてはいない。石とも、金属とも、水晶ともつかない、何か。全身に、封印の紋が這い、五本の巨大な楔が——いや、鎖だろうか——打ち込まれて、大地に縫い留められていた。
美しかった。荘厳、という言葉が、これほど似合うものを俺は前世でも今世でも、見たことがなかった。壊れかけた月の環を、初めて見上げた時のあの胸の軋みが——その、何百倍もの強さで、襲ってきた。
「……何だ、これは」
声が、掠れた。
俺の眼が、勝手に開いた。今度は、弾かれなかった。
図面が、視えた。
そして——俺は、その場に膝をついた。
*
ひどい、なんてものじゃなかった。
その横たわる巨人の図面は、この世で一番壊れていた。俺が今まで視てきた、どんな壊れた物より、どんな捻れた魔物より、どんな蝕まれた御子より。全身に打たれた五本の楔が、「あるべき形」を五つの方向に引き裂いていた。魂の抜けた——そう、これは、魂の抜けた、体だ。中身を抜かれ、切り分けられ、縫い留められた、巨大な抜け殻。
そして、その図面の一番深い、一番奥。
握り潰され、引き裂かれ、それでも、消えずに残っている、たった一本の正しい線。
その線を、俺は、知っていた。
視たことが、ある。ほんの、数か月前に。
——ヴェルクの器を視た時、白く灼けて、何も視えなかった、あの光。あの光の芯にあったものと。この横たわる巨人の一番奥の線が。
同じ、だった。
「ヴェルク」
俺は、振り返った。声が、震えていた。
「これは……何だ。あんたは、これが何か知ってるんだろう。……教えてくれ。約束、しただろう。開くべき時が来たら、全部話すって」
肩の上の人形が、地面に、降りた。
そして、その巨大な横たわる体の傍らに、歩み寄った。膝丈の小さな体で。千年、そこに在り続けたものの、傍らに。まるで、里帰りのように。まるで、自分の抜け殻の傍らに。
真鍮の目が、俺を、見上げた。
長い、長い沈黙のあと。
ヴェルクは、静かに、言った。
「……あれはな、坊主」
「ああ」
「あれは——お前じゃ」




