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第60話「神骸」

角灯を掲げた。


炎の輪が、闇を少しだけ押し戻した。中央のものが、輪郭を現し始めた。


——人の、形をしていた。


巨大な。天井に届くほどの。横たわった人の形。だが、生きてはいない。石とも、金属とも、水晶ともつかない、何か。全身に、封印の紋が這い、五本の巨大な(くさび)が——いや、鎖だろうか——打ち込まれて、大地に縫い留められていた。


美しかった。荘厳、という言葉が、これほど似合うものを俺は前世でも今世でも、見たことがなかった。壊れかけた月の()を、初めて見上げた時のあの胸の軋みが——その、何百倍もの強さで、襲ってきた。


「……何だ、これは」


声が、掠れた。


俺の眼が、勝手に開いた。今度は、弾かれなかった。


図面が、視えた。


そして——俺は、その場に膝をついた。



ひどい、なんてものじゃなかった。


その横たわる巨人の図面は、この世で一番壊れていた。俺が今まで視てきた、どんな壊れた物より、どんな捻れた魔物より、どんな蝕まれた御子より。全身に打たれた五本の楔が、「あるべき形」を五つの方向に引き裂いていた。魂の抜けた——そう、これは、魂の抜けた、体だ。中身を抜かれ、切り分けられ、縫い留められた、巨大な抜け殻。


そして、その図面の一番深い、一番奥。


握り潰され、引き裂かれ、それでも、消えずに残っている、たった一本の正しい線。


その線を、俺は、知っていた。


視たことが、ある。ほんの、数か月前に。


——ヴェルクの器を視た時、白く灼けて、何も視えなかった、あの光。あの光の芯にあったものと。この横たわる巨人の一番奥の線が。


同じ、だった。


「ヴェルク」


俺は、振り返った。声が、震えていた。


「これは……何だ。あんたは、これが何か知ってるんだろう。……教えてくれ。約束、しただろう。開くべき時が来たら、全部話すって」


肩の上の人形が、地面に、降りた。


そして、その巨大な横たわる体の傍らに、歩み寄った。膝丈の小さな体で。千年、そこに在り続けたものの、傍らに。まるで、里帰りのように。まるで、自分の抜け殻の傍らに。


真鍮の目が、俺を、見上げた。


長い、長い沈黙のあと。


ヴェルクは、静かに、言った。


「……あれはな、坊主」


「ああ」


「あれは——お前じゃ」

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