資料編五「神授の兵・応急整備録」
本記録を複写する者は、帝国軍機密保持令により処罰される。
なお、壊れた神授の兵を本当に直せる者が読む場合は、処罰の前に技師隊へ連絡されたし。頼む。
──アルマ──
【世間の通説】神々の戦争で五大神が授けた、鋼の巨人。各国が保有し、御子または選ばれた神騎との同調によって動く。
帝国で確認されている機体は七。全機が稼働できるわけではない。部品は摩耗し、古代回路は劣化し、新造法は失われている。
整備とは、壊れた箇所を直すことではない。まだ動く箇所を選び、別の箇所を諦める仕事である。
少なくとも、北辺で「あの男」を見るまでは、そうだった。
──北辺街道での修復例──
停止機一。主回路の出力、規定の半分以下。同調者への逆流あり。右脚駆動部、固着。装甲接合部、複数脱落。
銀髪の整備兵らしき男が接触。
使用工具、ほぼなし。交換部品、なし。所要時間、記録不能。目を離した間に終わっていた。
結果、主回路安定。逆流消失。右脚完全稼働。接合部復元。
男は所属も階級も名乗らず、「ボルト一本締めただけ」と述べた。
虚偽である。ボルト一本で直るなら、技師隊の百年は何だった。
──神騎と同調──
神騎は、アルマの古代回路へ自分のマナ回路を接続する。規格が合わないため、動かすほど人間側へ負担が戻る。
現場では、痛みも出血も「名誉ある代価」とされる。
【記録者の見解】整備不能を、操縦者の名誉で埋めているだけではないか。
この疑問は軍議へ提出しない。提出者の首と一緒に棚へ載せられる。
──捜索対象──
仮称「伝説の整備兵」。似顔絵は三種類あるが、全部、別人に見える。
判明している特徴は、銀髪、若い、細身、ボルト一本という嘘が下手。
【余白】次に会った者は、せめて名前だけ聞け。




