資料編四「ガンツの型帳」
型帳は、読んで満足するもんじゃない。
炉へ火を入れ、鉄を打って、初めて意味が出る。じゃが、知らんまま手を潰すよりはましじゃ。若いのは一度読め。
──認可型──
今の職人は、ギルドが認めた型に従って物を作る。寸法、材料、工程。外れれば商品として売れん。大きく外れれば、創造の禁忌を疑われる。
型は、下手な職人でも一定の品を作れるようにする知恵じゃ。型そのものが悪いわけではない。
悪いのは、壊れ方が違う品にまで、同じ直し方しか許さんことじゃ。
──道具を仕舞う前の礼──
儂は、鎚も鑿も、仕舞う前に一度、両手を合わせる。
師匠から習った。師匠も、その師匠から習った。由来は知らん。「道具が今日も手を返してくれたことに礼を言え」とだけ教わった。
若い領主は、この仕草を見るたび妙な顔をする。祠の人形も、見られとる気がする。
【記録者の見解】長く残った癖には、長く残るだけの訳がある。分からんからと捨てるな。
──神匠という文字【アルト追記】──
地下の碑文から、「神匠」という位の名が見つかった。
今の五統に、その位はない。ギルドの古い型帳にも載っとらん。じゃが、アルトの眼が名乗る《神匠の眼》と同じ字じゃ。
偶然で片づけるには、出来すぎとる。
──上手すぎる仕事──
アルトの仕事は、時々、直したというより、物のほうが帰る場所を思い出したように見える。
あれを町で見せれば、腕を褒められる前に、型を調べられる。型にないと分かれば、次に調べられるのは職人のほうじゃ。
だから、直せる物を全部直すな。持ち主に頼まれていない物へ勝手に触るな。直した後、どこで使われるかまで考えろ。
【余白】本人へ何度言っても、壊れた蝶番を見ると手が伸びる。あれは腕より先に、癖を直さんといかん。




