資料編三「フィオナの巡察覚書」
本書は正式な教会文書ではありません。
正式な文書にするには、不明点が多すぎます。ですが、不明点を書かなければ、いつまでも不明のままです。
──鑑定と洗礼──
【世間の通説】子供は六歳でマナ回路の鑑定を受けます。火・水・風・土・光、五系統への適性と回路の強さが記録されます。
十五歳の洗礼では、五大神との縁を確かめます。強い加護を授かった者は、五統へ進む資格を得ます。
闘騎:武神ガルド
聖導:光神ソール
耕導:豊穣神テラ
水巫:水神ミア
風読:風神メル
回路がない者は「無印」。神録へ特記するほどの才がない、という意味です。本来、人格や働きまで否定する言葉ではありません。
少なくとも、教本にはそう書かれています。
──物の声を聞く者──
教会法では、「物の声を聞く」「認可された型を離れて物を創る」と称する者を、狂神の落とし子として届け出る義務があります。
理由は、創造が狂神の領分だから。
【記録者の見解】しかし、壊れた釘がどこで苦しんでいるか分かることと、人を害することは同じなのでしょうか。ミナは釘を直しました。誰も傷つけていません。
この疑問は、まだ正式報告に書けません。
──巡察で確認されたリンデ村──
井戸、異常なし。礼拝堂、修繕済み。村人、飢えの兆候なし。領主による重税、なし。魔物による人的被害、なし。
最後の項目だけは、普通なら喜ぶべき数字です。それなのに、被害がなさすぎることが疑いになる。私は、その考え方自体を疑う必要があると思います。
──六つ目の窪み──
リンデの古い神棚には、五柱ぶんでは説明できない窪みがあります。古い聖印も六角形です。
教会の説明では、「五大神と戒めの環」を表します。
【記録者の見解】ならば、なぜ六つが同じ大きさなのでしょう。
【余白】問いすぎるな、と神学校では言われました。問いをやめる方法は、まだ教わっていません。




