資料編二「リエラの辺境商売帳」
リンデ村を「何もない村」と呼んだ商人は、見る目がない。
正しくは、「値段の付いていないものばかりある村」よ。
──仕入れ候補──
【確認済み】修復済みの農具は、町の並品より長く保つ。ただし、仕上がりが良すぎる。ギルドの認可型と寸分違わないように見えて、力の逃がし方や重心が妙に使いやすい。
王都へ持っていけば高値になる。高値になりすぎて、出所を調べられる。したがって現状は、北辺の農村向けに少量ずつ流す。
鍬、鎌、鋤:需要大。ただし同じ村へまとめて売らない
修理した鍋:利益小。評判作りには優秀
リンデの水:商品化は保留。瓶と運賃のほうが高い
作物:収穫量を観測中。土まで妙に元気なのは、正直、商人にも分からない
──村の経済──
着任時のリンデには、余剰がなかった。食べる分だけ作り、壊れた物は壊れたまま使い、買い物のための現金がない。
けれど、井戸が直れば水汲みの時間が減る。農具が直れば畑を広げられる。屋根が直れば、濡れた薪を乾かす手間が減る。
修理そのものは貨幣を生まない。でも、失っていた時間を村へ返す。返ってきた時間が、畑と工房で品物になる。
これがリンデの最初の商品よ。
──住み着いたもの──
角兎のポポ。小型。毛並み良好。ミナの肩と、ヴェルクの頭上を巡って領有権争い中。
村の外には、ほかの魔物も集まり始めている。人を襲わず、畑も荒らさず、境界の外で待っている。
【記録者の見解】商品として考えるのは禁止。護衛、運搬、街道案内として協力できるなら、話は別。ただし、本人たちの同意とアルトの許可が先。
──祭りの日の収支──
収入、ほぼなし。支出、食材と塩。利益、村人全員が同じ卓を囲んだこと。
帳簿に書けない利益は信用しない主義だけど、これは例外にする。
【余白】窯焼き麦粥は商品化できる。ハンナは首を縦に振らない。交渉継続。




