第20話「地面の下の道」
石は、掘っても掘っても続いていた。
村総出——といっても動ける者は十人足らずだが——で土を払うと、それは幅三間ほどの、見事な石畳の道になった。切り石が隙間なく敷き詰められ、縁には排水の溝まで切ってある。畑の下から北へ、そして南へ。まっすぐに。
「古い、なんてもんじゃないよ」
マルタ婆さんが石畳の上に立って、首を振った。
「あたしの婆さまも知らん。村の誰の言い伝えにもない。……この村より、古い道だ」
俺はしゃがんで、石の一枚に触れた。図面が、開く。
——静かだった。
千年、土の下にいた石畳の図面は、驚くほど傷んでいなかった。それどころか、敷かれた時の意図が、まだ図面の芯に残っていた。荷を運ぶ車のために計算された勾配。雨を逃がす溝の角度。すり減ることまで織り込んだ石の選び方。
これを敷いた連中は、道の「あるべき形」を知り尽くしていた。
そして——妙な感覚だった。この石組みの流儀を、俺は知っている気がした。どこで見た? 思い当たって、鳥肌が立った。祠の、絡繰り人形。あの歌うような、無駄のない構造。同じ「手」の匂いがする。
「ヴェルク。この道——」
夜、祠で聞くと、ヴェルクは珍しく、素直に答えた。
「旧王国街道、と呼ばれとった」
「旧王国? どこの」
「……昔、あった国じゃよ。それはそれは、ものづくりの上手い国での。大陸の端から端まで、こういう道を通しておった」
「聞いたことがない。歴史の書でも」
「じゃろうな」
ヴェルクの声は、静かだった。
「忘れられたと言うたはずじゃ。……わしのことだけでは、ないんじゃよ、坊主」
*
リエラが次の商いで来たのは、その三日後だった。
彼女は荷下ろしの手を止め、村人に囲まれた発掘現場を見て、露骨に嫌な顔をした。
「何それ。遺跡? やめてよね、遺跡は。教会の検分が入るのよ、遺跡は」
「遺跡というか、道です」
「道お?」
面倒くさそうに石畳に上がったリエラは、しかし、そこからが商人だった。
しゃがむ。石を見る。溝を見る。立ち上がって、道の続く先——北を見る。南を見る。懐から小さな羅針盤を出して方角を確かめ、帳面を開いて何かを描き、また北を見た。顔から、面倒くささが消えていた。
「……ねえ。この道、真っ直ぐよ」
「見れば分かります」
「分かってない。真っ直ぐなのよ。今の街道はね、全部ぐねぐねなの。丘を避けて、沼を避けて、そして——哭原を、避けて。大陸の道は全部、哭原をぐるっと大回りしてる。塩がこの村まで来るのに、どれだけ遠回りしてくるか知ってる? だから辺境の塩は高いの」
リエラの指が、北を差した。石畳の続く先。灰色の地平を。
「なのにこの道は、避けてない。真っ直ぐ北——哭原のど真ん中に、向かってる」
彼女は帳面に引いた線を、俺に突き付けた。大陸の略図。ぐるりと外周を回る現在の街道。そして、その真ん中を貫く、一本のまっすぐな線。
「もしよ。もし、この道が向こう側まで通ってて、もし、哭原を安全に渡れたら——北の帝国まで、隊商の日数が三分の一になる。塩も鉄も、値段が半分になる。大陸中の荷が、この道を通りたがる。この村は」
そこで彼女は言葉を切って、深呼吸をひとつした。商人の目が、ぎらぎらと輝いていた。
「……この村は、大陸の真ん中の関所になる」
「なりません。哭原ですよ。魔物の縄張りの、ど真ん中だ」
「分かってる! 分かってるけど!」
リエラは地団駄を踏んだ。それから急にしゃがみ込み、石畳を愛おしそうに撫でて、誰にともなく聞いた。
「この道、どこまで続いてるの?」
答えられる者は、その場にいなかった。
——一人と一柱を、除いて。俺は知らないふりをして、祠の方角を見ないように努めた。




