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なにもの
歪み。
誰も視認していない。
だが全員の神経が同時に反応していた。
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そこには何もない。
霧と空気だけ。
魔力も、気配も、音もない。
それでも確かに“ズレている”。
世界の継ぎ目が、微かに軋んでいる。
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猫族が低く唸る。
本能が理解を拒否している。
リオは言葉を失ったまま視線を走らせる。
演算では追えない違和感。
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セラの光が鋭く変わる。
だが観測結果は空白のまま。
「検出不能」
その事実だけが異常だった。
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葵は動かない。
振り返らない。
ただ、妙な確信だけがあった。
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「いる」
理屈ではない。
説明もできない。
それでも否定できない感覚。
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ジーナの光が乱れる。
機械であるはずの存在に、微細な遅延。
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「……認識外干渉」
その言葉は、
この世界で最も危険な分類を意味していた。
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霧は静まり返り、
風は止まり、
音だけが世界から抜け落ちる。
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見えない何かが、
すでにすぐ背後まで近づいていた。




