表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/54

不可視

魔族の喉が、かすかに鳴った。


言葉を出そうとしている。


だが呼吸が追いつかない。



ジーナが静かに告げる。


「発声機能、不安定」


葵は小さく頷く。


「急がなくていい」


落ち着いた声。


責める調子ではない。



魔族は数度浅く息を吸い、


ようやくかすれた声を絞り出した。


「……おわれ……て……」


途切れ途切れ。


それでも意味は十分だった。



リオの表情が引き締まる。


「追われてる?」


セラの光がわずかに強まる。


「周囲索敵を強化」



葵は視線を外さず続ける。


「誰に」



魔族の瞳が揺れる。


躊躇ではない。


思い出すこと自体への拒絶。



「……わから……ない……」



猫族が小さく耳を動かす。


「わからない?」


明確な困惑。



ジーナの光が揺れる。


「発言の整合性に異常」


リオが低く呟く。


「記憶混濁か?」



魔族は弱々しく首を振った。


「ちが……う……」


息が荒い。


それでも必死に続ける。



「みえ……ない……」



一瞬。


その場の空気が静まり返る。



葵の眉がわずかに寄る。


「見えない?」



セラの声が低くなる。


「不可視個体?」


ジーナが即座に解析へ移る。


「該当データ……なし」



魔族は震える指で虚空を指した。


何もない霧の向こう。



「ずっと……いる……」


「でも……いない……」



葵の背中に、薄い寒気が走った。


理屈ではない。


ただの直感。



リオが周囲を睨む。


「精神干渉系か……?」



ジーナが静かに告げる。


「外部魔力侵食痕、検出されず」


否定。


だが説明にもならない。



魔族の瞳に浮かぶのは、


戦意でも敵意でもない。


純粋な怯えだった。



「……おとが……しない……」


「でも……ちかづく……」



風が止まる。


霧が揺れなくなる。



セラの翼光がわずかに鋭くなる。


「全員、警戒態勢へ移行」



葵は小さく息を吐いた。


理解できない。


だが確実に異常。



そして。



ジーナの光が、不意に乱れた。


「――後方、干渉反応」



何もなかったはずの空間が、


わずかに歪んだ。



「見えないもの」は、常に遅れて現れる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ