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見えないてき
霧の静寂。
異様な沈黙。
誰も動かない。
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“それ”は見えない。
だが確実に距離だけが縮んでいる。
説明不能の確信。
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猫族が一歩後退る。
理屈ではない。
本能が拒絶している。
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リオの視線が空間を走る。
「どこだ……?」
探知の癖。
だが手応えはない。
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セラの光が鋭く揺れる。
「位置特定不能」
天使にとって最悪の分類。
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葵だけが、微かに違和感の焦点を捉えていた。
視覚ではない。
魔力でもない。
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「……そこか」
小さな呟き。
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ジーナの光が揺れる。
「葵。根拠は?」
「ない」
即答。
だが迷いはない。
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次の瞬間。
葵は地面の石を拾い、
何もない空間へ投げた。
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乾いた音。
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確かに“何かに当たった”。
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全員の瞳が見開く。
そこには何もないはずだった。
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空間がわずかに歪む。
遅れて現れる存在の輪郭。
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見えない異常が、
ついに世界側へ姿を滲ませた。




