理解
広場。
土煙がゆっくりと落ちていく。
誰も動かない。
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戦闘と呼ぶには短すぎる衝突。
だが全員が理解していた。
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相手は格が違う。
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ゼルヴァ=グランは距離を取ったまま、
興味深そうに葵を見ている。
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「……妙だな」
小さく呟く。
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敵を見る目ではない。
観察者の目。
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葵は少し困った顔をする。
「いや……いきなり斬りかかっておいて妙って何」
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猫族がまだ警戒を解かない。
毛を逆立てたまま低く唸る。
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リオが立ち上がる。
肩で息をしながら苦笑。
「……容赦ないな」
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ゼルヴァが視線を向ける。
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「手加減はした」
淡々とした返答。
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「殺す気なら」
少し間を置いて、
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「都市ごと消えている」
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冗談ではない。
誰も否定できない。
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だが不思議と、
場の空気はさらに凍りつかなかった。
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妙に会話が成立している。
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ゼルヴァの瞳が再び葵へ戻る。
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「自覚はないのか」
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葵は素直に首を傾げる。
「だから何の話……?」
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「お前だ」
即答。
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「さきほどの干渉」
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ジーナが静かに補足。
「葵。先程、確率偏向反応を確認」
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「え?」
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本気でわかっていない顔。
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ゼルヴァがわずかに笑う。
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「やはりな」
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「意図的ではない」
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ゆっくりと歩き出す。
警戒を無視するような自然な足取り。
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だが誰も手を出せない。
出せば終わると理解している。
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「勇者の揺らぎ」
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低い声が広場に落ちる。
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「世界各地の誤差増加」
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「そしてお前」
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葵の目が少しだけ細まる。
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「……繋がってるって言いたいの?」
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ゼルヴァの口元が歪む。
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「まだ仮説だ」
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「だが」
視線が鋭くなる。
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「極めて濃厚」
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リオが小さく息を呑む。
セラも黙っている。
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葵は少しだけ考え込む。
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「いや……待って」
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「俺、ただここで手伝ってただけなんだけど」
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ゼルヴァは即座に返す。
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「それが異常だ」
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短い沈黙。
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「魔族が近づいても」
「都市秩序が乱れても」
「お前は変わらない」
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「中心にいる側の挙動ではない」
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葵は言葉を失う。
自分では気づけない違和感。
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ゼルヴァは立ち止まる。
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「……面白いな」
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敵意のない声音。
純粋な評価。
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「勇者は世界を固定する」
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「お前は」
わずかに笑う。
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「世界を迷わせている」
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広場に、誰も言葉を挟めない沈黙が落ちた。
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猫族がぽつり。
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「……それって」
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「つよいの?」
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ゼルヴァが一瞬だけ視線を向け、
静かに答えた。
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「最悪に厄介だ」
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葵の背筋に冷たいものが走る。
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戦闘ではない。
脅威でもない。
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理解された側の恐怖。
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ゼルヴァは踵を返す。
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「今日はここまでだ」
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「まだ殺す理由がない」
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振り返りもせず告げる。
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「だが次に会う時」
わずかに笑う気配。
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「もう少し詳しく調べさせてもらう」
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空間が歪む。
影が溶ける。
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高位魔族消失。
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広場に残されたのは、
妙な静寂だけだった。
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葵がぽつりと呟く。
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「……何なんだよ、あいつ」
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ジーナが静かに答える。
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「現時点で最も正確に葵を評価した存在です」
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「嬉しくない評価だな……」
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誰も笑わなかった。




