葵と魔族
レヴァント。
昼下がり。
乾いた風が通り抜けていた。
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広場の一角。
木箱を並べた即席の作業場。
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葵は工具を手に、少し困った顔をしている。
「……これ、どう組むんだ?」
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目の前には簡易搬送台。
人間圏らしい雑多な構造物。
増設前提。
現場改造済み。
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作業員の男が笑う。
「適当でいい」
「いや適当って……」
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「壊れたら直せばいい」
あっさりした返答。
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葵は苦笑する。
この街では、この理屈が本当に通じる。
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ジーナが静かに補足する。
「構造強度の概念が可変設計寄りです」
「便利な言い方だな……」
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その時。
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わずかな違和感。
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空気がほんの少しだけ揺れた。
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葵の手が止まる。
視線が自然に上がる。
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「……また?」
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ジーナが即座に反応。
「周辺確率変動を検出」
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リオの表情が変わる。
「来たか」
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だが今回は様子が違った。
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敵意の気配ではない。
魔力圧でもない。
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どこか粘つくような感覚。
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セラが空を見る。
「……視線?」
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次の瞬間。
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広場の端。
空間がゆるやかに歪んだ。
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光。
ではない。
影の揺らぎ。
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そこに立っていたのは、
見慣れぬ存在。
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長身。
黒い衣。
赤い瞳。
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猫族が即座に身構える。
「……だれ」
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ジーナの声がわずかに低くなる。
「高位魔族反応」
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葵の背筋に冷たいものが走る。
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男は静かに周囲を見渡し、
やがて視線を葵へ向けた。
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わずかに笑う。
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「……なるほど」
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その声には、
明確な敵意も殺気もなかった。
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ただ純粋な興味。
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「お前か」
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レヴァントの空気が、
初めて明確に張り詰める。
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葵は言葉を失った。
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世界の揺らぎが、
ついに直接形を持って現れる。




