魔族本部
魔族領域。
深層拠点ネヴァ=ルード。
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黒い岩盤に囲まれた巨大空洞。
空気は重く、
濃密な魔力が滞留している。
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転移光。
揺らぎ。
歪み。
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ゼルヴァ=グランが膝をついた。
着地と同時に床へ手をつく。
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「……くそったれ」
小さく吐き捨てる。
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周囲の高位魔族たちがざわめいた。
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「ゼルヴァ様……!」
「損耗率は!?」
「勇者はどうなった!?」
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ゼルヴァは手で制す。
立ち上がり、
外套を乱暴に払う。
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「生きている」
短い返答。
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「相変わらず、化け物だ」
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空気が静まり返る。
誰もが理解していた。
その言葉の重さ。
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奥。
玉座区画。
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低く響く声。
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「報告を」
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暗闇の中、
巨大な影が揺らめく。
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魔族上位存在。
名は――
ヴァルディ=ゼノス
魔族統括位。
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ゼルヴァは視線を向ける。
わずかに笑う。
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「結論から言う」
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「勇者は未だ健在」
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間。
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「だが」
瞳が細まる。
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「絶対ではない」
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空洞内の魔力がわずかに揺れた。
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ヴァルディ=ゼノスの声。
わずかに低くなる。
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「根拠は」
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ゼルヴァは即答する。
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「収束の遅延」
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「未来固定の濁り」
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「そして」
口元が歪む。
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「手応えだ」
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ざわめき。
緊張。
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側近の魔族が問う。
「揺らぎの原因は特定済みか」
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ゼルヴァは首を振る。
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「未特定」
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「だが確実に外部因子」
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ヴァルディ=ゼノスが沈黙する。
長い沈黙。
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やがて。
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「……観測網を拡張せよ」
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「世界全域」
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「微細誤差領域を重点監視」
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命令は静かだった。
だが異例。
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ゼルヴァが小さく笑う。
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「ようやく退屈が終わるか」
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「勇者が揺らぐ世界」
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視線を落とす。
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「面白いじゃないか」
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その時。
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別の魔族が駆け込む。
明らかに動揺した様子。
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「報告!」
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「人間圏域にて異常観測!」
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空気が変わる。
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ゼルヴァの視線が鋭くなる。
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「内容は」
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魔族は息を整えながら告げた。
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「局所確率乱流」
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「演算不安定領域発生」
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「規模は小」
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間。
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「……だが持続中」
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ゼルヴァの瞳がわずかに細まる。
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「場所は」
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「境界近傍」
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「人間圏集落レヴァント周辺」
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静寂。
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ゼルヴァの口元がゆっくり歪む。
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「……なるほど」
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誰もまだ知らない。
だが魔族側の歯車が回り始めていた。




