勇者vs幹部1
南方戦線。
ヴァル=グレア外縁。
焦土の上を、熱気と魔力が渦巻いていた。
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ゼルヴァ=グランはゆっくり立ち上がる。
口元の血を指で拭い、
面白そうに勇者を見る。
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「……なるほどな」
低い声。
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「やはり桁が違う」
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アルテリオは答えない。
視線すら揺れない。
ただ剣を構える。
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その沈黙に、
ゼルヴァはわずかに笑う。
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「嫌いではない」
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周囲の魔族兵がざわめく。
幹部が笑っている。
それだけで空気が変わる。
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「下がれ」
ゼルヴァが手を上げる。
「巻き込まれるぞ」
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兵たちが即座に距離を取る。
幹部命令は絶対。
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ミアが小さく息を呑む。
「……一騎討ち?」
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ガルドが低く言う。
「来るぞ」
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次の瞬間。
ゼルヴァの魔力が跳ね上がる。
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視界が歪む。
空気が裂ける。
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消失。
再出現。
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勇者の背後。
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常識外の転移速度。
だが――
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アルテリオは振り向かない。
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剣が後方へ閃く。
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金属がぶつかるような衝撃音。
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ゼルヴァの魔力刃と激突。
火花のような魔力散乱。
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「……っ!」
ゼルヴァの目が細まる。
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「読んだか」
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即座に距離を取る。
再転移。
今度は上空。
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巨大魔法陣展開。
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「焼き払え」
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降り注ぐ黒炎。
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広域殲滅魔法。
都市戦級。
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後衛が叫ぶ。
「アルテリオ!」
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だが。
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勇者は動じない。
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踏み込み。
跳躍。
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落下する黒炎の隙間を縫う。
異常な機動。
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一直線にゼルヴァへ。
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「はは……!」
ゼルヴァが笑う。
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「それでこそだ」
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迎撃魔法連射。
爆発。
衝撃。
魔力嵐。
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そのすべてを、
アルテリオは斬り裂きながら突き進む。
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一瞬で間合い侵入。
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斬撃。
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ゼルヴァの防御障壁が砕け散る。
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直撃。
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幹部の身体が吹き飛ぶ。
地表を転がる。
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魔族軍が息を呑む。
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だが。
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ゼルヴァは倒れない。
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ふらつきながらも立ち上がる。
肩で息をしながら笑う。
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「化け物め……」
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アルテリオは無言。
一歩前へ出る。
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その圧に、
ゼルヴァの瞳がわずかに揺れる。
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「……だが」
小さく呟く。
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「それでも」
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視線を逸らさない。
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「揺らいでいる」
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空気が一瞬、静止する。
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ミアの表情が変わる。
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勇者の未来固定。
確かに。
ほんのわずかに。
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ズレている。
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アルテリオの剣が静かに上がる。
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ゼルヴァは笑う。
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「いい」
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「その歪みこそが――」
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魔力再展開。
戦場が再び爆ぜる。
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「戦場だ」




