それでも勇者は進む
南方戦線。
魔族前線拠点ヴァル=グレア。
空は赤黒く染まっていた。
大地には焼け焦げた痕。
魔力の濁流。
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「来るぞ」
前衛のガルドが低く言う。
空気が張り詰める。
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遠くの空。
一点の光。
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勇者アルテリオ。
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落下ではない。
降臨に近い速度。
空気が震える。
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魔族側。
指揮個体が即座に命令を飛ばす。
「迎撃陣形維持!」
「結界展開!」
「距離を取れ!」
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だが遅い。
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地表へ着地と同時。
衝撃波。
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最前列の魔族兵が吹き飛ぶ。
防御魔法ごと粉砕。
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アルテリオは一切止まらない。
剣を横薙ぎ。
魔力障壁を切断。
個体ごと両断。
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魔族の後衛が叫ぶ。
「規格外……!」
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通常の戦闘理論が通じない。
それが勇者。
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だが今回は違った。
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側面。
高位魔族が突入。
瞬間転移。
死角攻撃。
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完璧なタイミング。
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「アルテリオ!」
ミアの警告。
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アルテリオは反応する。
だが。
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わずかなズレ。
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斬撃が浅い。
魔族が耐える。
反撃。
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火花。
衝撃。
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勇者が初めて後退する。
ほんの半歩。
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魔族側が息を呑む。
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「通った……?」
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アルテリオの視線が鋭くなる。
だが動揺はない。
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再踏み込み。
今度は全力。
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魔族の魔法ごと粉砕。
大地に叩きつける。
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それでも。
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「……今のは」
ミアが呟く。
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確かに、
未来の固定が甘かった。
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戦況は勇者優勢。
だが一方的ではない。
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魔族側も理解し始めていた。
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「収束が揺れている」
「勇者が絶対ではない」
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戦場の温度が変わる。
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アルテリオは剣を構え直す。
静かな声。
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「来い」
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魔族軍が雪崩れ込む。
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爆発的な魔法。
斬撃。
衝突。
咆哮。
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戦場は完全な激戦へ変わっていく。
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誰が見ても異常。
誰が見ても英雄。
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だが同時に、
わずかな歪みが混じり始めていた。




