最強勇者?
北方戦線。
灰色の空。
乾いた大地。
結界都市カルディア外縁。
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警報が鳴り響いていた。
短く、鋭い音。
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「魔獣群、接近!」
管制役の声。
「規模……中型以上!」
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城壁の向こう。
土煙が上がる。
大地が揺れる。
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魔獣。
装甲種。
突進型。
混成。
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兵士たちが息を呑む。
だが恐慌は起きない。
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勇者がいる。
それがこの都市の絶対前提。
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城門前。
アルテリオはすでに立っていた。
静かに剣を抜く。
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余計な動作なし。
ためもない。
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次の瞬間。
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爆発のような踏み込み。
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最前列の魔獣へ一直線。
空気が裂ける。
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振り下ろされた一閃。
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魔獣の装甲ごと両断。
衝撃が遅れて響く。
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「速……っ」
後衛のミアが思わず呟く。
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アルテリオは止まらない。
剣筋に迷いがない。
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横薙ぎ。
突進個体の首を刎ねる。
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踏み込みの反動で身体を捻り、
背後から跳びかかった個体を貫く。
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三体。
四体。
五体。
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数ではない。
処理。
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まるで最初から配置が見えているかのような動き。
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城壁上の兵が息を呑む。
「やっぱり……桁違いだ」
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魔獣群が雪崩れ込む。
通常なら前衛が持ちこたえる局面。
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だが。
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アルテリオは一歩も引かない。
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踏み込み。
斬撃。
踏み込み。
斬撃。
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単純な繰り返し。
なのに突破されない。
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魔獣の巨体が次々と崩れ落ちていく。
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血煙。
衝撃音。
砕ける大地。
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戦場の中心だけが異様に静謐だった。
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だが。
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ミアの表情がわずかに曇る。
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「……おかしい」
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結界の揺らぎ。
あの感覚。
消えていない。
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アルテリオの動きは完璧。
威力も精度も問題ない。
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それでも。
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魔獣の一体。
本来あり得ない角度からの突進。
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「アルテリオ!」
ミアの声。
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アルテリオは反応する。
間に合う。
はずだった。
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わずかな遅延。
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剣が届く前に、
魔獣の爪が肩をかすめる。
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鈍い音。
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一瞬だけ、空気が凍る。
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「……今のは」
ガルドが目を見開く。
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あり得ない。
勇者が被弾するなど。
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アルテリオは表情を変えない。
すぐに魔獣を斬り伏せる。
動きは変わらない。
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だがミアだけが理解していた。
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「未来収束が……ズレた」
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確定していたはずの安全域。
そこへ誤差が入り込んだ。
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揺らぎ。
あの正体不明の違和感。
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戦闘は続く。
勇者は圧倒的。
戦局は変わらない。
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それでも。
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ほんのわずかなズレが、
確かに存在していた。
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戦闘終了。
魔獣群壊滅。
被害軽微。
通常通りの勝利。
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だが。
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ミアは空を見る。
静かな声。
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「……世界のノイズが増えている」
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アルテリオは何も言わない。
ただ剣を収める。
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結界は今日も展開されている。
敵も退いた。
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それでも、
あの揺らぎだけが消えなかった。




