適材適所
翌日。
境界都市・外縁居住区。
昨日とは違う空気。
ざわつきはない。
効率低下もない。
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むしろ。
妙に落ち着いていた。
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猫族が首をかしげる。
「きょう、へいき」
リオも違和感を覚える。
「……視線が違うな」
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視線はある。
だが昨日のものと質が違う。
警戒ではない。
観察でもない。
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期待に近い何か
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広場。
簡素な仮設診療所。
人だかり。
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セラが小さく呟く。
「医療区画」
ジーナ。
「負荷状態の個体が集中しています」
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近づいた瞬間。
空気が変わる。
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「あ……」
「少し楽だ」
「頭の重さが……」
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人々の表情がわずかに緩む。
劇的ではない。
だが明確な変化。
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葵が立ち止まる。
「……え?」
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医療補助の人間が葵を見る。
目を見開く。
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「君……昨日の」
覚えている。
搬送路案件の救助対象のひとり。
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「近くに来たら、痛みが引いた」
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リオが目を細める。
ジーナが静かに告げる。
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「干渉効果の正方向反応を確認」
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「正方向?」
「はい」
短い間。
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「認知負荷・精神緊張の緩和が発生しています」
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葵は理解が追いつかない。
「……何もしてないけど」
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だが現実として、
人々の呼吸が整っていく。
表情が落ち着く。
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セラが小さく言う。
「揺らぎの吸収……」
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ここで構造がはっきり現れる。
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昨日の集積区:
高精度・高同期・高効率系
→ 干渉がノイズ化
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診療所周辺:
疲労・不安・痛み・緊張
→ 干渉が緩和作用化
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リオがぽつり。
「……環境依存か」
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ジーナ。
「はい。安定系では異常。
不安定系では補正として機能」
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猫族が嬉しそうに言う。
「なんか、きもちいい」
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診療所の空気が静まっていく。
ざわめきが減る。
不思議な均衡。
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医療補助員が思わず言う。
「もう少し……ここにいられないか」
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葵は少し戸惑う。
「いや……依頼が」
言いかけて止まる。
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リオが葵を見る。
珍しく柔らかい視線。
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「今日は予定ないだろ」
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短い沈黙。
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葵は苦笑した。
「……まあね」
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ベンチに座る。
何もせず。
ただそこにいる。
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時間だけが流れる。
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騒ぎなし。
派手さなし。
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だが、
診療所の空気は明らかに安定していた。
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夕方。
人間医師が静かに言う。
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「これは魔法ではないな」
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ジーナが即答。
「分類不能干渉です」
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医師は苦笑する。
「便利な言葉だ」
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葵は空を見る。
今日も勇者の光は遠い。




