異物
数日後。
境界都市・物資集積区。
荷車。
木箱。
人の往来。
いつも通りの光景。
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だが妙な空気が漂っていた。
小さな違和感。
誰も言語化しない類のズレ。
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商人が苛立つ。
「……さっきから噛み合わねえな」
荷運びの男。
「数、合ってたよな?」
別の声。
「合ってたはずだ」
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帳簿に誤りはない。
計算も間違っていない。
だが現場が回らない。
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天使監督官が眉をひそめる。
「報告では遅延要因なし」
副官。
「はい。しかし実作業効率が低下しています」
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その原因は単純だった。
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少し離れた場所。
ブリッジの姿。
葵たちは通常依頼で立ち寄っていただけ。
特別な介入は何もしていない。
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それでも。
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「……またズレたぞ」
「いや今合ってた」
「おかしいだろ」
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小さな判断齟齬が連鎖する。
本来一致するはずの認識が揺れる。
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ジーナが静かに告げる。
「周辺演算安定率の低下を検出」
葵は顔をしかめる。
「またそれ?」
「はい」
短い間。
「今回、原因はあなたです」
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「……え?」
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リオがすぐに理解する。
「干渉値の副作用か」
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ジーナ。
「計測以降、葵の影響半径が拡張しています」
「拡張って……」
「未分化干渉の波及距離が増大」
便利な言葉。
だが意味は明確。
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何もしていないのに周囲が揺らぐ
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セラが周囲を見る。
人々の小さな混乱。
事故ではない。
だが効率が崩れる。
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猫族がぽつり。
「なんか、ざわざわする」
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葵は黙り込む。
否定できない。
現実として起きている。
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少し離れた指揮区画。
天使監督官が低く言う。
「……やはり影響個体か」
副官。
「排除しますか?」
「違う」
短い否定。
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「距離を取れ」
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公式混成の動きは速かった。
区域分離。
動線再調整。
葵たちを遠ざける。
露骨ではない。
だが明確。
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リオが苦笑する。
「嫌われ始めたな」
「始めたじゃなくない?」
葵は乾いた声で返す。
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ジーナが淡々と補足。
「評価ではなく物理的対応です」
「その言い方も怖いんだよ」
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区域を離れるにつれ、
集積区の作業効率は回復する。
数値も正常化。
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誰も歓声を上げない。
誰も謝罪もしない。
ただ処理される。
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帰路。
猫族が聞く。
「わるいの?」
葵は少しだけ考えて答えた。
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「……たぶん、相性が悪いだけ」
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ジーナが静かに訂正する。
「相性ではありません」
短い間。
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「影響です」
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葵は何も言わなかった。
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夜。
簡易宿。
空気は静か。
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リオがぽつり。
「便利な能力じゃなかったな」
葵は苦笑する。
「だね」
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セラは外を見る。
都市の光。
遠ざけられた距離。
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「世界は合理的です」
静かな言葉。
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ジーナが続ける。
「高干渉個体は安定系と衝突します」
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葵は天井を見上げる。
しばらくして小さく呟いた。
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「……強さじゃないって、こういうことか」
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誰も答えない。
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外では異常なし。
平穏。
だが確実に変化は始まっていた。




