8章 化粧品屋
謝砂は町に戻り桃展たちと合流した。
「爛様の言われた通りに衣を借りてきました。同じように馬車も用意してあります」
風呂敷に包まれていたのは妓女の煌びやかな服だった。
絹の美しい艶のある花が刺繍された服だった。
「妓女の服か?」
「はい。さすが名が知れているだけありますよ。絹で織られていて最上級品です。白粉も上等な品を使っていますね」
「誰が着るんだ?」
「爛様じゃないのですか? 謝砂兄さんと」
「違うだろう。謝家の門弟たちも偽るには綺麗だけど無理がある」
謝家も謝砂の目からして身内びいきが入っているだろうが顔もかっこいいと思う。
だが招功たちのせいで体格がよくなり細身じゃなくなった。
ついてきた謝家の公子たちは頷きあう。自分の災難ではなく他人事になれば面白いようだ。
桃家の公子たちは爛から急に目を逸らしだした。
「桃展と柚苑だな」
「そうだよ。桃家では泰山で舞うのだから慣れてるよな」
謝砂がいうと柚苑が必死に首を横に振った。
「そうゆう問題じゃないですよ」
「どうゆう問題なんだ?」
「えっと化粧道具がありません」
捻りだした逃げ道が化粧だった。
「桃展も柚苑も化粧しなくても十分綺麗だと思う。だろ爛?」
「うん。気になるなら衣を借りたところで化粧道具も借りればいい。必要なら買ってもいい」
ちょうどよく化粧品を扱う店先だった。
「まだ閉まってない?」
「どうぞ。中にお入りください。万歓楼でも使われている高級品ばかりです。柳雷の妓楼や芝居小屋で使われている正規品はうちの店だけです」
日が傾き始めて店じまいをしていたが店主の男は店の中へと招き入れた。
むせるような白粉の香りを覚悟していたがいい香りがしていた。
「化粧品は香りも敏感です。うちは自然の花から抽出した香料しか使ってませんよ」
「ここで部屋を貸してもらえるか? 着替えて化粧したいんだがいいかな?」
「どうぞお使いください。誰か案内を頼む」
「分かりました。ご案内いたします」
店主は店内にいた綺麗な顔をした女性に案内を言いつけた。
「僕たちは一式をそろえてきます」
「うん。待ってる。謝家のみんなもお土産に選んでいいよ。姜ちゃんと瑛のお土産も買わないと何か候補を選んでくれるかな?」
謝砂が頼むとおどおどして落ち着かない謝家の門弟たちも選び出した。
部屋に案内されながら店の奥には顔立ちが美しい女性たちばかりとすれ違う。
(ここが妓楼じゃないよな? 化粧品屋さんに入ったはずだ)
所作も丁寧で扉をあけるのも、茶を入れて置くのにしても優雅で手慣れていた。
手も荒れてなく白く細い指をしている。
謝砂と爛を見比べておどおどとしながら尋ねられた。
「あの、万歓楼に行かれるのですか?」
爛は興味がないのか軽く頷くだけだ。
謝砂が会話をつないだ。
「うん。そうだよ」
女の子と話すのは何となく癒される気がする。
「私たちは万歓楼の妓女です。屋敷に近寄れず戻っていないので詳しくは分かりませんが馴染みのあるこちらの店で避難させてもらってます。公子殿たちは祓いに行かれるのですか?」
「うん。君たちが戻ってきたようにして中に入ろうと思ってるんだけど手を貸してもらえるかな?」
「もちろんです。化粧も着付けもいたします」
「だったらあの子たちを頼むよ。店内で選んでいるんだ」
「分かりました。姉さんたちを呼んできます」
案内をしてくれた女の子はすぐに引っ込んでしまった。
「失礼いたします。入ってもよろしいでしょうか?」
「もちろん。中に入って」
扉が開けられると大勢の女子たちが一斉に部屋にやってきた。
爛の顔をまじまじを見ている。
「人数通りじゃないと困りますよね? 何人かは他にも店内の公子殿たちを選びましたが、公子殿も姉さんのようにきれいなのでぜひ」
「爛は美人だからな。当然だな」
「そちらの公子殿もですよ」
「えっ?」
謝砂は自分が女装する日が来るなんて想像もしたことがなかった。
「爛公子と申されるのですね。爛公子は化粧だけでも十分ですね。お待ちくださいませ」
爛は連れられて部屋から出て行ってしまった。
「衣は私のをお使いください。化粧もいたしますから逃げないでくださいね」
謝砂は女子に囲まれて嫌がることもできずに上衣を脱がされる。
「ちょっと待ってくれ」
「公子殿、大丈夫です。痛いことはしませんから身を任せてください」
「下はやめてくれ」
「大丈夫。下衣も見慣れてます。着替えを手伝うのも仕事ですので」
「そういうことじゃない」




