8章 万歓楼の視察
「直接扉の隙間から覗いても何も見えないように結界がされている」
「どうしてわかるんだ?」
「扉に手跡がついていただろう?」
「あれがどうしたんだ? 古い扉のようだし手垢じゃないのか?」
「屍たちの手跡だ。黒く邪気をおびているから手跡が残されていた。押し入れないのなら内側から結界がされている証拠だ」
「触らなくてよかった」
「出てくるように操られているのか。強い邪気を感じて山からも降りてきたのか。なんせ内側の結界で弾かれる低鬼ばかりだったんだろう」
謝砂は手をのばしても届かない。
何度かジャンプしたが塀には届かないが体がふわっと浮いた。
爛が謝砂の腰を掴みぐっと上に持ち上げられていた。やっと指先が塀の瓦に届いた。
よじ登ろうと足をバタつかせるがツルツルとしていて塀の壁は足を置ける場所がない。
「爛、お尻は持ち上げなくても登れるからな」
「ああ。支えないから一人で頑張れ」
「押してくれないか? やっぱり手を貸してくれ」
ちらっと下にいる爛を見た。
呆れているのか黙って謝砂のお尻を手のひらで押し上げて手伝ってもらう。
謝砂の手で足を踏み台にさせてもらった。
謝砂が登ると爛は軽く跳んだだけで塀にぶら下がった。
塀の瓦からそっと頭を出すと中庭が見えたが視界を先には木が生えていて隙間から覗いているが黒い霧が覆っている
視界がはっきりとよく見えないが水が流れる音がしていた。
建物は木造で二階建てのようだということしか分からない。
「やっぱり誰もいないよ。華やかさがなく陰気が漂ってる。まるで空き家のようだな」
「結界は敷地内にしっかりとはられているいるようだ。塀から覗いても見えないか」
「一旦引き返そう」
爛が先に降りた。すたっと着地した足音が聞こえる。
謝砂も降りようとすると琴の音色がきこえてきた。
黒い霧は濃くなり建物を覆い黒い煙が出てきたような気がした。
ぐっと腕に力を入れて身を乗り出してみたが演奏している姿はどこにも見えない。
すぐに音が鳴りやんでしまった。
「やっぱりいないな。うわっ」
体重をかけすぎたのか塀の瓦がわずかに浮いた。
ずるっと塀にかけていた腕がずり落ち体は重力に引っ張られる。
(やばい。落っこちる)
塀から手を放し塀の壁で擦れないように壁をぐっと押した。
距離があれば打ち身だけで済む。背中を丸めたが地面に打ちつけられずに爛の腕に支えられた。
「危ないだろ! 気を抜くな」
「助かった。爛が気を抜かなければ大丈夫だな」
抱えられたまま謝砂は爛の衿をぐっと掴んだ。
「馬鹿を言うな。怖がりなら怪我をするような真似はするな」
「だって音色が聞こえたんだ」
「私にも聞えた。下見は終わりだ」
謝砂は爛から降りようとせず抱きかかえたままだった。




