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8章 万歓楼の視察

 謝砂と爛は茶屋から出て歩いていると万歓楼へとたどり着いた。

 近づくにつれて人が消えて行く。

 近くには店や民家はないようで人工的に作られたような川が流れていて淵沿いを歩いた。

 途中でちょうどいい木の枝を拾って川の水を飛ばしたりして遊びながら進む。

 謝砂は爛と並んで歩きながら話す。

「こんなに町からはなれているのに宿まで琴の演奏が聞こえたと言っていたよね。本当かな? かなり距離があるのに聞えるとは思えないんだ」

「嘘をついているようには見えない。もしかしたら寝ていたのかもしれないな。無意識で体から魂が離れやすく邪気を受けやすい」

「今日寝ているときも夢の中で琴の音が聞こえたんだ」

「怨念が深いのか謝砂の霊力が強くて引き寄せたのかは分からないが身動きがとれなかったのは琴の音が原因だろう。謝砂には聞えて私には聞えなかった」

「琴の音で動きを封じられるということ?」

 爛は首を横に振って答えた。

「分からない」

「夢では花妖と呼ばれる人が出てきたんだ。関係あるかな?」

「ずっと気になっていたんだが今回は怖くないのか? しかも怖がるだけじゃなく嫌がってない」

「だって妓楼に行くんだぞ。解決したらすぐに建て直すならすぐに祓ってあげようじゃないか」

 謝砂は悪鬼のことなど少しも気に留めてなかった。

 はあっと爛はため息をつく。

 万歓楼と書かれた提灯が道にずらっと並んでいたが華やかさではなく物寂しい。

 寝静まっているように気配が全くない。

 川に浮かんだ木船が流されているのが数隻見かけた。

 一隻の木船を棒で突く。えぐられたような傷がつき至るところに茶色っぽいシミがついていた。

「一番の妓楼だというのにシミのついた船を使いまわしていて金をかけてないのかな」

「それは血の跡だ。触れないほうがいい」

「うっ。なんだか怖くなってきた」

 謝砂は木の棒を川に捨てると流されていく。

 カァカァと山から響くカラスの鳴き声が響き不気味に聞えてきた。

「やっぱり帰りたくなってきた」

 楼閣はまだ昼間だというのに黒い邪気が滲んでいる。

 万歓楼という看板がかかったままだが門は閉められていた。

 塀の軒と門の軒下に吊るされた提灯はボロボロに穴が開いている。

 塀と門にはいくつもの手跡がついていた。

「想像していたのとは違う。こんなの妓楼が言える? まるで鬼たちの棲み処じゃないか」

「思い出したが昨日謝家の門弟たちが調べていたところ、ここはもとは広い庭園だったらしい。大切に育てられていて色んな花が咲き誇っていたという。昔はここは万の花という万花(ばんか)と呼ばれていた」

「今そんな情報はいらないよ。それよりも気になるところがいっぱいあるだろ。なんで物音が聞こえないんだ?」

 謝砂は近寄らず立ったままでじっと耳をそばだてたが物音一つしない。

 寝静まっているとは違うし息を潜めているような感じでもないくシーンとしていた。

 爛は謝砂を肩に手を置いた。

 謝砂は全身がビクッと驚いて肩がすくんだ。

「何するんだ? いきなりはやめてくれ」

「門が閉められているのに無断で正面からはいるつもりか?」

「じゃ、どこから入るんだよ? 裏口でもあるの?」

「謝砂こっちだ。ここから覗く」

 爛は塀を指さした。

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