8章茶香屋
謝砂と爛は宿から馬車に乗って妓楼などが軒を連ねている花町の中に入った。
鬼の害が起きたというが昼間は賑わっているらしく人が行き交っている。
「ここからは馬車から降りて人に聞きながら歩いていく」
爛の手を支えにして馬車から降りた。
妓楼や芝居小屋もあり綺麗な布を扱っている布屋もあった。
「普通に生活しているようにしか見えないんだけど怖くないのかな」
「桃展や柚苑たちは?」
「衣を買いに行かせた」
「着替えを持ってきてなかったのか」
歩いていると町の茶屋や酒屋はもちろん食事処も開いていて客が入っていた。
「すこし休憩に茶屋に寄ってみよう」
どの店も高級そうな老舗の店ばかりだった。
謝砂は茶の香りに一軒の茶屋を選んで爛と一緒に入った。
木箱に入った茶葉は香と書かれていた。手前には見本として香炉で焚かれていた。
謝砂が眺めていると爛が茶を選びながら教えてくれる。
「飲むための茶葉でなく香用だ。燻して香りを楽しむんだ。欲しいなら買っていく」
「それじゃ店主、一番いい香りのする茶葉が欲しいんだけど手土産にしたいんだ」
「分かりました。ぶしつけですが、あの万歓楼に向かわれるのですか?」
「そのつもりだ。でもどうして分かったの?」
「身なりからして世家の公子だと分かりますとも。顔立ちが妓女たちよりも美しい方は珍しいですが万歓楼のお客様が立ち寄られるため目が肥えてるのですよ。身なりで分かるほどに見慣れていますので仙師の方ですか?」
「目がいいね。その通りだ。でも公子ではないんだよ」
謝砂が言うと店主は警戒をゆるく解いた。
世家の公子ではなく小仙家の仙師だと思ったらしい。失礼がないように顔が緊張していたらしい。
「旦那殿でしたか。それは申し訳ありませんね。万歓楼なら花町の奥に建つ一番大きい建物ですよ。ですが今はとてもじゃないですけど近寄れそうもありませんよ。最近、万歓楼で突然妓女も客も中にいた者たちが殺されたんですよ。悪鬼が殺したんですよ」
「なんで悪鬼に殺されたとわかるんだ?」
「お客に来ていた数名の仙師様も殺されたのか入ったきり出てくる姿を見ていません」
「何が起きたのか詳しく話を知ってたら教えてほしいんだけどな。いいかな?」
爛と謝砂は茶を一杯ずつ頼んで店内の奥に置かれていた窓際の座席を選んで座った。
落ち着けるスペースで中庭が見える。
茶を運んできた店主は店番を雇人に任せて自ら話をしだした。
「万歓楼は風流を重んじて山の中に建っているんです。町中ではなく少し離れていて人口川が作られて流れている。裏手には引き取り手がない遺体を埋葬する無縁塚があるんですよ。悪鬼が墓荒らしによって荒らされたから目覚めてしまったんだと。万歓楼に怨念を持った妓女の悪鬼だと噂されているんです」
「普通は遺体を埋めたりする墓の近くなんて縁起が悪いと建てないだろう」
「無縁塚ができたのは妓楼ができた後からです。山に妓女たちが子を捨てたり、自害したりしたときに埋葬するのに塚が必要で遺体を埋めているうちに町の無縁塚へとなったと伝わっています。最近も妓女が自害し無縁塚に弔われたばかりだったんです」
「その妓女が悪鬼になったとは言われてないの?」
「違うと言い切れますよ。琴の音が聞こえてたんです。私だけじゃなく何人も聞いています。赤い花提灯が灯ったとさえ噂されています」
「墓荒らしって多いの?」
「万歓楼に囲まれていて知りません。煌びやかな宝飾を身につけて着飾ったままの姿で埋葬されますので山賊などが狙うんです。死んだ人から盗むなんて罰当たりだとは思いますが害が起きたことがなかったんです。怖い者知らずしか盗みませんよ」
「夜は店が閉まってると止まってる宿で教えてもらったんだ」
「そうですとも。昼間しか開いてません。ほとんどの店が日が陰るとすぐに閂をさして門を硬く閉めます。万歓楼から琴の音と悲鳴が聞こえるので近寄らないようにしています」
「仙師の方は祓いにはきた?」
「その仙師様たちが客としていたのに誰一人として出てこないのですよ。誰が来ても祓えないなら仕方がないと開き直って昼間に商売を続けてます。万歓楼に行くお客方は旦那殿のように」
「開き直っての営業だったのか」
店主に雇人が謝砂が頼んだ茶葉が入った木箱を持ってきた。
爛はお代を机の上に置いて立ち上がった。
「旦那様方はくれぐれもお気をつけてくださいね」




