8章夢の中
謝砂はしっかり食べたおかげで眠りは深かった。
琴の音色が響いてきた。
奏でられている旋律は誰かを慕っているようだ。
弾かれる弦は花びらのようで聴くものを蝶のように魅了した。
「花蝶のお出ましだ」
琴の演奏を聴こうと奏でられる日には赤い椿の花灯篭が妓楼に飾られた。
万歓楼は賑わうが花蝶の琴が奏でられている間は聞き惚れる。
「今宵はあなただけのために」
椿の赤い花灯篭が風に揺れて灯りが消えた。
月夜を眺めながら酒を飲んでいる男の隣で奏でていた。
「いつか私を見受けしていただけますか?」
男は答える。机に置かれた花瓶に活けられた一輪挿しの花を手で弄ぶとふわっと外へと飛ばした。
「独り占めはよくない。花は摘まない主義だ。愛でるだけで十分だ」
「摘んでいただいても花は喜びます」
「摘むと死んでしまうだろ」
「あなたのためだけに咲きたいのです」
「そなたは花妖だろ。摘めば元神が消えてしまう」
「――ご存じでしたか。元は椿の精ですが修行し今では人の体を得たので人です。あなたに摘まれるのなら本望です」
妓女の声は嬉しそうだった。
「だが僕はそんな気はない。自由に生きて花とは戯れるぐらいがちょうどいい」
用意されていた酒を流し飲む。
「以前の約束を覚えています。花が咲くのは見染められたくて咲いているのです。ずっとあなただけを想っています」
再び琴に手にとり弦をはじき奏でた。
トントンと扉を叩く音に謝砂は夢から目を覚ましたが身動きがとれない。
「謝砂様、爛様お目覚めになられていますか?」
「私は起きてるがまだ謝砂が寝ている」
爛が部屋の扉を出て話す声が聞こえた。
「朝餉の準備ができたそうです。室で食べられますか?」
「運んでくれ。部屋で食べる」
「分かりました」
ぎぃ音を立てて扉が閉まった。
爛は寝台に腰かけた。寝たままの謝砂を見た。
起き上がろうとするが押さえつけられれているようで力を入れても指すら動かせれない。
「謝砂起きたのか?」
「爛、どうしてか起き上がれないんだ」
爛は謝砂の被ってる布団をめくった。
めくられて軽くなっても動けないし寒かった。
「もしかしてこれが金縛り? そんなぁ! 今すぐ解いて! 悪いものなら祓ってくれ」
急に自分で言っていて恐怖体験に怖くなってきた。寒さも感じる。
「焦らなくてもどうってことない。すぐに解けるから泣きそうな顔をするな」
爛は謝砂の額をペシっと軽く叩いた。
謝砂の寝ている上を手のひらで祓うと花びらが舞って消えたように見えた。
ふっと押さえつけられていたのがなくなって軽くなる。
やっと指が動かせれるとばがっと身を起こした。
「金縛りにあったのは久しぶりだった。あー、怖かった。やっと解放されたよ。これ見てくれ鳥肌」
謝砂は袖をまくり爛に腕を見せたがそっと欄に袖をもとに戻された。
「それは冷えたんだ。あったかい茶を飲めばおさまる」




