8章宿での食事
「謝砂はどうしてここに? 部屋にいないから探しにきた」
「目的を忘れるところだった。厨房貸してくれないか?」
「ええ。どうぞお使いください。公子殿も芝居小屋にいそうな美男子ですけど隣の方は万歓楼にいてもおかしくない顔をしてらっしゃいますね」
「この顔も美男子に見えるのか?」
謝砂は同じ顔をしていても最近は美男子たちに囲まれているおかげだろうか目の錯覚でカッコよく見られることが多くなった。
「はい。お客さんで色んな方を見ますが、今夜はお泊りの公子たちは雰囲気が違った美男子ぞろいで一生分見たような気がします」
「中でも爛が一番きれいだよな」
謝砂は爛の肩に腕をまわす。
「はい。殿方に失礼ですがお連れの方は伝説の花蝶にも引けを取らにないので客だと思われないでしょう。えっと厨房でしたね。奥にあるのでお使いください」
「使わせてもらうよ。爛は暇なら火をつけてくれ」
「分かった」
謝砂は爛を連れて奥の厨房に向かう。
「何を作るんだ?」
「探しに来たんじゃなくて、つまみ食いをしないように見張りに来たんだな」
謝砂が言っても聞こえないふりをして食材を漁りだした。
「何があればいいんだ? 米か?」
「林檎があるな。小腹が空いた程度だから林檎煮を作るよ」
「林檎を洗えばいい?」
「爛は茶を入れてくれるか。鍋に水を入れて煮込むよ。砂糖と蜂蜜だけだと甘すぎるから林檎を茶で甘く煮るんだ」
謝砂はせっかく作るならと林檎箱に入ったあるだけの林檎を洗って切っていく。
レンジがあれば5分で済むがあるわけがない。
「大量に作るのか? 桃展たちは胃もたれをしてる」
「みんな食べすぎたんだな。カブも取って」
「何にするんだ?」
「カブの汁物を作るよ。あっさりした汁物を飲んだら治るよ」
カブも葉を落として皮をシュルシュルと剥き汁物を作る。
爛が火符で火をつける指先で強弱を調整する。
「謝砂に感謝だな。霊力も回復するだろう」
「霊力? 何か祓ったの?」
「御剣をしたからだ。飛ばしたから霊力を使ったと思う。霊力を戻すのに肉を頼んだんだがあれほど食べるとは思わなかった」
「安定してないと難しいのか。だったら仕方ないな」
謝砂はぐつぐつと林檎を煮込んで器によそった。
謝砂の代わりに爛が二階へと運んでいくと匂いを嗅ぎつけてすぐに門弟たちがとりにきた。
「美味しそうです」
「謝砂兄さんの料理はなぜか霊力が回復するんですよね。部屋で食べます」
桃展と柚苑が爛からお盆を受け取って謝砂と爛の分だけを別皿にとり渡された。




