8章 柳雷州の宿
宿は木造の二階建てのこじんまりとした宿で謝砂たちが泊まると満室になっていた。
爛が戻るまでと部屋で寝てられず座っていた。
桃展と柚苑が爛が戻ってきたのに合わせて食事を運んできたのだが謝砂が食べれないのをいいことに代わりに食べていた。
爛に続いて運ばれてきた食事をとりながら桃展が聞いた。
「うっ。おえぇぇ。食事中にすまない」
ちびちびと塩水を飲んで桶を抱えているが胃の中は空っぽで吐き出しているのは気分と声だけだ。
「気にしません。美味しいのに食べれないなんて残念ですね」
出された料理にステーキがある。
とってもいい赤身で柔らかそうだ。
柔らかそうな肉を食べてから柚苑が謝砂に感想を伝える。
「肉は柔らかくて口の中で解けます」
爛に背中を擦られながら桶を抱えている。
「御剣しないと馬車で休まず急いでも謝家からは三日はかかるんだ。騙すつもりはなかったし仕方ないだろ。体調が悪いなら言ってくれたらよかったのに」
「体調は絶好調だった。もう柳雷についたしすこし休めば戻る」
謝砂は桶を片付けて並べられた食事を眺め手を出そうとすると向かいに座った爛に叩かれる。
代わりに爛が入れた茶を飲み干した。
謝砂はお腹が空いて寝付けなかった。
爛は師弟たちに呼ばれて謝砂の代わりに聞きに行って部屋にはいなかった。
部屋を出ていくと一階の受付はまだ明かりがついている。
謝砂が階段を下りてきたのに受付にいた男が気づいた。
「公子殿、どうかされました?」
「いやあの、食事って時間はもう終わった? 食べそびれたんだ」
「今の時間はすみませんが調理人もいないんです」
「外には売ってる?」
「すみませんが夜は門を閉じさせてもらってます。それに今じゃ酒楼ですらどこも夜はきっちりと閂までいれて扉を閉めてます。かわりにこれでも食べますか?」
小皿に盛られた干しぶどうを差し出された。
「ありがとう」
謝砂はありがたく数粒もらって口の中に入れる。
「ねえ、この辺は昼しか営業しないの?」
「自慢じゃないですけど妓楼にいくお客さんの出入りが激しいので門を閉めたことがなかったんです。朝帰りのお客様が大勢いるものですからね」
「今妓楼は閉まってるの?」
「一番大きい万歓楼が祟られたようで妓女たちが怖がってまいました。その晩に宴に招かれていて逃れた花たちが避難している妓楼や芝居小屋もあるんです。昔いた家ですからね」
「万歓楼の花たちは各地から集まるんです。万歓楼はよその妓楼とは違ってるんです。ただ美しいだけでは入れません。芸に秀でていることが条件です。裏口としては柳雷州にある妓楼や芝居小屋で認めらることです。推薦状をもらって紹介として入ることができます。祟りさえなくなれば立て直しは早いでしょう」
「祟りってどうしてわかったの?」
「そりゃ一夜にして人が死ねば祟りですよ。叫び声はここまで聞こえたんです。それに講談師が話していた昔の話がありましてね。芝居小屋でも演じられている話なんです」
「怖いなら結構だ。話さないでくれ苦手なんだよ」
「ここまで話しておいてそれはないですよ。公子殿聞いてくださいよ」
「嫌だよ。朝にしないか」
「分かりました。大まかに省きますよ。万歓楼が建っている裏手に無縁塚があるんです。万歓楼は寂しく死んだ者たちの弔いも兼ねてますからね。昔の土地の主がわざわざ選んで立てたんです。土地代も安かったこともあると思います。柳家の仙師の方も妓楼を立てるときに浄化もされてますし祟られたことは一度も聞いたことがありません。万歓楼は以前は春花蝶と言われてました」
「以前?」
「昔ですよ。花蝶を見ると春が訪れたようだと言われる妓女の名です。その妓女は見受けが決まったというのに数日後に突然死んでいたそうです。室には血が花びらのように残されていて、その血を花と思ったのか蝶が止まったと話があるんです」
「どうしてかは詳しく知らないのか?」
「うわぁ! 爛か」
話に夢中になっていて後ろに爛が来たことは知らなかった。
謝砂は爛の声にびっくりして殴りそうになった手は爛が防いでいた。




