8章 豆腐尽くし
柳雷州に旅立つ当日の朝、室で朝餉を食べながら向かい合わせで食べる爛に聞いた。
帳家では誕辰祝いとして宴のパーティー料理ばかり食べていたせいかあっさりしたものがいいというとなぜだか豆腐料理だった。
味噌田楽や豆腐を千切りした麺のような料理におぼろ豆腐に黒蜜をかけた甘い豆腐。辛いのは麻婆豆腐など豆腐料理ばかりだった。
揚げ豆腐の中にひき肉の餡を挟んだものに団子まである。
どれも美味しいのだが大豆で祓えということなのかと疑いたくなる。
「ごちそうさまでした」
もちろん箸はお気に入りの箸を使っている。
きちんと洗って乾いた布で拭きしまう。
柚苑と桃展が空になった皿を取りに来たついでなのか謝砂をこっそりと呼んだ。
「謝砂兄さんちょっといいですか?」
部屋から呼び出されて外に出た。
「爛なら今着替えに隣の室だよ」
「知ってます。分かって呼びました。謝砂兄さんに用事があるんです」
「どうした? 桃展げっそりしてるな。柚苑も目にクマがある。桃常と雪児はどうした?」
「柳鳳師兄に捕まりました。あの柳雷州に行くって師兄から聞きました。僕たちも行きます。ついていきたいんです」
桃展が必死に謝砂に頼むのは初めてだ。
「兄さん、見てください。手を洗っても取れないんです」
柚苑は謝砂に手のひらを向けて伝えてくる。
「帳家で蛇妖の精怪を駆除したこと山鬼に出会ったこともまとめるのに文字ばかり書いて書き直してを繰り返して僕は気がおかしくなりそうです。返礼品をもらってなければ絶対書いてません」
手には墨の擦れた跡がついている。
「誰の指示なんだ?」
「柳鳳師兄です。祓ったことは書き残してまとめるというけど、あれは招待されてお祝いにいったのにできなければ返礼品を没収されるんです」
「よしよし。頑張ったんだな。すごいな。いい子だ」
「謝家よりはましでしたから。謝家の師弟じゃなくてよかったと考えさせられました」
「どうして?」
桃展が柚苑と目くばせをした。
目で小競り合い柚苑が負けたのか謝砂に伝える。
「まとめ方が違います。教えてもらいましたが字が読めないとやり直し。書き損じたら初めからやり直し。僕だったら終わりません」
「書き間違えてもやり直しなのか。信じられない。塗りつぶしてしまえばいいのにな」
「謝砂兄さんが一番厳しいと聞きました。姜殿は毎回泣きながら書いていたそうですね。謝砂兄さんが書いた報告書が手本になっているらしいので今度蔵書閣に入ってもいいですか?」
「いいよ。写して覚えればいい。それにしても姜ちゃんが泣いてたの?」
「招功殿が話してました。才女と呼ばれるようになったことを話すのには涙なしでは語れないと」
「だったら自由についてきていいよ。爛には伝えておく。柳鳳は連れて行かないから謝家の仙府が近いらしから危なくないように。そして邪魔はしない」
「ありがとうございます。伝えてきます」
謝砂が許可すると桃展と柚苑はきちんと挨拶をして足取り軽く走っていく。
「また御剣するのか?」
見送ったあと独り言に返事が返される。
「途中までだ」
振り返ると湯浴みも済ませた爛が立っていた。
すでに会話は聞こえてるみたいだから伝えなくてもいい。
急いでいたのか髪が湿ったままで先端は濡れている。
爛にして上衣がはだけていて胸元が見えていた。
「ちゃんと着ないと風邪ひくぞ。ほら」
謝砂は小さい子に着せるみたいに爛の上衣を着せなおさせる。
「御剣は寒いからあったかく馬車でいかないか?」
にっこりと微笑みながら合わせた衿のうえに手を置いた。
「爛、ほらあったかいだろ」
謝砂が言いたいことは御剣はいやだということだけだ。




