7章 帳荻の先生
「謝姜殿が瑛殿の先生であり師姉なんですね。せっかくですから僕たちの先生もご紹介します」
「先生?」
謝砂が帳荻に聞き直した。
「桃家から戻ってから稽古をつけてもらってこんなに体が鍛えられました」
「桃家から戻って休めばいいのにすぐ稽古してたのか」
「はい。爛様と謝宗主がいなければ死んでました」
「あれは普通の状況じゃないからだよ。あんな傀儡は悪趣味すぎて思い出したくない」
「教えていただこうとおもっていたのですが、謝宗主の魂を修復してもらってから霊力の質が研ぎ澄ませれ前よりもよくなった気がするんです」
「謝砂が修復するときに邪気を祓っているから謝砂の霊力に影響を受けたんだ。純粋な霊力で守られているから邪気に強くなったはずだ」
「爛様の言うとおりです。以前よりも邪気に敏感に気づくようになり、低級の鬼は逃げていきます」
「ですから体力から修練することにしました。先生も参加してますから終わってから案内します」
宝探しを楽しく終えて瑛はみつけた宝のおもちゃを持って同じ年頃の子たちに誘われ遊びにいく。
爛と謝砂が見つけたものを腕に抱えて自分の室へと持ち帰り広げた。
「こんなにいっぱいどうするんだ?」
「工芸品だよ。謝家にもどったら部屋に飾るんだ」
「子供用と言っていたが謝家なら手に入るものばかりなのにうれしいのか?」
「おもちゃっていうなよ。立派な部屋の置物だ」
爛が床の上に散らかされたおもちゃたちを眺めた。
謝砂は爛に手渡しでおもちゃを一つずつ渡してもらい籠の中に綺麗に詰め込む。
積み木にパズルと櫛もあった。馬の木彫りの飾りや木の刀に輪投げなどもあった。
人形、腕輪や簪、扇子も子供用で高価なものではないと言っていたが職人技が光る工芸品だった。
謝砂は面白さと珍しさに瑛よりも途中から真剣に探していた。
夜の宝探しに参加するために招功と一緒に謝家の門弟が謝砂を呼びに来た。
「招功たちも木のおもちゃが欲しいのか? 渡せれるのは……」
「結構です」
「いりませんよ」
門弟たちに狙われず要らないといわれて謝砂は安堵した。
「宝探しって家ごとで参加するの?」
「招待状に書かれた名前で参加できます。帳荻公子から私たちの個人の名が記載された招待状を頂きました。宝を見つけて受け取る資格があります」
謝砂は普段は団体と言っていたが今回は宝探しだ。
安全だし参加するつもりがない。
「謝砂は準備より先に帳荻公子と約束があるんだ」
「約束ですか?」
「うん。帳家の鍛錬している先生を紹介してくれるんだ」
「修練を見せてくれるなんてないことです。気になっていたので私もご一緒してよろしいですか?」
「帳荻があとでくるから桃展たちも一緒に連れて行こうと思った。できれば招功も一緒に来てくれるほうがいい」
「分かりました。ですが宝探しはもうすぐですよ。日の入りと同時に始まります」
招功に言われて門弟たちがソワソワしている理由がよく分かった。
すごく楽しみにしているようだ。
「個別に動いていい。宝探しは自由にしてくれ」
「見つけたものはどうしますか?」
「横取りしない。戦わず逃げることが条件だ。宝は見極めて油断は禁物。連絡用の花火と護符は持っていくこと。手に負えないと思ったら協力しよう。話は終わりだ」
謝砂が言い終えると門弟はすぐに挨拶をして去っていく。
ちょうど帳荻が呼び来ると雲児が桃展たちをつれてきた。
挨拶と見学を兼ねて向かった。
帳荻に案内された先生は筋肉ムキムキのすごい人だった。
場所は修練場ではなく竹林の中にひっそりと建つ離れだった。
「ここは作業場なんです」
佇まいからしてただ者じゃない。
目つきは鋭く剣を扱う手をしていて言うなら仙師というより武人の体つきだ。
「先生! こちらが話していた桃爛様と謝宗主です。そして謝家の招功殿と桃家の公子たちです」
謝砂と爛は呼ばれた帳荻の先生に向かって頭を下げ挨拶をした。
腕を胸の前で合わせ挨拶をされる。
「先生ではなく私は職人なんです。恵といいます」
手に持っていた木刀を置く。
顔立ちは帳宗主に似ているが髭はない。まだ若く三十歳手前だ。
「仙噐を加工するため鍛冶職人の基本の修練として門弟たちの体を鍛えています」
「修練をしている先生と聞いたのです。恵殿は立派な筋肉ですね。帳荻と雲児に久しぶりに会ったのですが体つきが一回り大きくなっていたので驚いたんです」
謝砂が言うとすぐに招功が付け加えた。
「謝家ではまず精神を研ぎ澄まし霊力から鍛えますので体の作り方は知らないんです。できれば教えていただけますか?」
「招功申し出るな。他家の修錬を教えてもらおうなんて駄目だろう」
(体験させる気だな。巻き込まないでほしい)
「もちろんです。ですが門弟たちがいないので雰囲気だけになりますがお見せいたします」
恵の上半身は上衣と中衣の袖を脱ぎ帯のまいた腰で留められているが用は上半身は裸だ。
すぅっと呼吸を整えるとスパンと手のひらを打ち付けて竹を大きく反らせる。
強い反動で竹が元の位置より前にめがけて襲ってくる。
それを手で打ち返す。
「謝砂宗主も鍛えますか?」
「あいにく筋肉は寝てるんだ。爛は鍛えているよ」
謝砂は帳荻に巻き込まれそうになり爛へと受け流す。
爛が部屋でも常に鍛えているのを見ていた。
柳鳳が桃展たちに言っていたのを聞いたが爛に鍛えられたら体が絞られて必ず痩せるらしい。
桃家の師弟や門弟が皆細身ですらっとしているのは修錬方法が違うからに違いない。
「爛様はすごく鍛えてますよ。ですが無駄がないんです」
「謝宗主、爛殿って普段はどんな感じですか? 僕たちは宴のときや大会でも顔を見たのが数回だけなので」
「綺麗だし師弟たちの前ではかっこいい兄さん」
「謝宗主とは違いますよね」
「言い方が引っかかる。爛と何が違う?」
「謝宗主は鬼さえ目で殺すと噂されていたそうですね。見事に噂と違わない鋭い眼光でした。宴の席では目を合わさぬように逸らされてましたね」
「見間違いだよ。品のいい貴公子だと言ってくれてもいいんだぞ」




