7章 夢での入れ替わり
謝砂は酒を飲みすぎたのか寝苦しく悪夢のように昔の紗々の記憶が思い出された。
同じように頭がふわふわしていて自分じゃないと感じたときがあった。
普段は感じないし見えないのに突然ぞわっと寒気を感じると人影を見ることがあった。
目を凝らすと多分見えるがそんな時はきまって幽体離脱のような感じ。
人格が入れ替わったりする感覚があった。そのときは決まって自我がない。
意識の中の何かをぐっと引っ張り強制的に入れ替わってもらっていた。
今はリュックを背負い中学のジャージを着ている。
何気なく道を歩いているときにうっかり見てしまった。
横断歩道ではなく路地の信号のない交差点。
人影は車が通るたびに誰かを突き出そうと立ち止まった人を押したりぶつかったりするがそのまま通り抜けて影は車に轢かれて煙になる。そしてまた人が現れると人影が現れる。
紗々は逃げて立ち去ったが三か月がたち記憶も薄れてきた頃だった。
にわか雨がよく降るため傘を持ち歩いていたある夕方の黄昏時だった。
通学路だったがこの道を本能的に避けていた。たまたま友達と話して帰るのに付き合って通りかかっただけだった。
以前感じたときよりも影ははっきりと見え、禍々しい邪気を感じた。
「見ざる聞かざるの紗々だもんな。知るわけないだろうが一週間前にもそこの交差点で飛び出し事故があったんだよ」
「聞きたくない。わざと連れてきたんだろう」
「そんなこと言わずに聞けってば。知ってるんだろ。じっと見てたじゃないか」
「知らない。何も知らない」
「俺は知ってる。車がきたときに人が飛び出てきたらしい。数件同じことがあって、みんな押されたというんのだが他の通行人はいないんだ」
話を聞かされた瞬間に怖くて逃げ出したくて逃げようとした。
左肩に重みを感じたが隣にいる男友達は傘を持ち振り回していた。
触れられた気配がして紗々の意識がぶっ飛んだ。
右手は勝手に肩に乗せられた影の手首を掴んだ。
身の毛がよだつのに震えはなく逃がさないと
「何人だ?」
「うん?」
「あれの害は何人だ?」
「知ってるだけでも五人」
「離れてろ」
紗々のはっきりとした声にびっくりし言われた通り離れている。
手に掴んだまま人影をひっぱり目の前に姿を出させ右手で影の首を掴んだ。
影を交差点に生えた木に打ち付けた
左手に持っていた傘の先端で人影の上に『招来天雷』という文字を書き手を放した。
傘を開き文字を打ち付けるとバンと天から一筋の雷が木に突然落ちた。
木に落ちたが雷を受けても燃えず影だけに落ち木の幹には人影の煤 が残った。
白昼夢のような記憶だったがそのあと同じ道を通っても影は現れることはなく、雷神というかっこいいあだ名で中学生活を過ごしたことを思い出して夢から抜け出した。
そしてこの世界にも同じように謝砂と紗々は何度か魂が入れ変わっていた感覚を思い出した。
初めてその時は気づかなかったが意識の流れは切り替わりまた眠りに落ち同じ夢をみた。
以前に見た夢をもう一度見ていた。
紗々で見た夢は意識が入り乱れていた。
自分の意思もあって感情もある。でも話しているのを聞いていられるし憑依の感覚だ。
爛が隣を歩いていて桃家の爛の室から正門に向かって出ていく途中だった。
「他仙府の揉め事を引き受けるなんて謝砂らしくない。なんで私についてくるんだ? 心配なくても多分大丈夫だよ」
「君ためじゃない」
「知ってる。正直に言ってみろ。理理殿のためだろう。桃威叔父上の夫人になるのに理理殿が断られないためだって私は知ってるよ。宗主になるのにも実力を示すために箔がいる」
「違う。修練のためだ」
「素直じゃないな。だけど理理殿に思いを秘めたままでいいのか? 素直に兄さんを頼っていいぞ」
「霊力が高く若く見えるだけで君とは大差ない。だから兄と呼ぶことはない。以上だ」
「わかった。呼んでくれるなら君じゃなくて名前がいい。君だと誰に言っているのか分からない。私は謝砂と呼ぶからな。謝砂公子殿。謝砂殿」
覗き込んでいる爛の目が笑っていて謝砂をからかってる。
爛の瞳に映る謝砂の顔は眉をよせ苦い薬を飲んだあとのようにすごく嫌そうな表情をしている。
「分かった秘密の名を教える。紗々だ。謝砂ではないから絶対呼ぶなよ。黙っていてくれ」
「なんの名前」
「魂の名前。謝砂ではなく紗々。違うのに違和感がないんだ」
「紗々」
名を呼ばれると意識が自分に入れ替わった。




