7章帳夫人
謝砂と爛は宴を退席し室に一旦もどった。
しばらくして門弟が一人呼びにきて帳家宗主のもとへと案内する。
執務室の前で帳荻に顔立ちがよく似た顔立ちの女性が出迎えてくれた。
「謝宗主、爛殿ここからは私が案内いたします」
落ち着いた物言いだが頭が謝砂の胸下ぐらいと背は低く小柄。
にこっと笑うと目元が帳荻にそっくりだ。
物腰が柔らかく髪を金色の竜の形をした簪を挿している。
竜の爪のなかには赤い玉が握りしめられているのが謝砂の目についた。
「はるばるお越しいただき感謝します。爛様、謝宗主いたらぬところがありましてもお目こぼしを」
爛はこくっと頷き返した。
「宴に顔を出すべきなのですが、客人が招待した以上に急に多くなりまして慌ただしく顔を出せませんでした」
「お気になさらないでください。楽しみました」
「帳夫人、気になさらないでください」
「爛、この可愛い女子に夫人と呼ぶのは失礼じゃないか」
謝砂が言うと爛がうん? と首を傾げた。
「爛夫人って失礼だろ」
「では言い方を変えると奥方だがどの言い方をしても同じだ」
「帳荻の母? あの帳宗主の奥方ですか? 帳荻のお姉さんじゃないの?」
爛と帳夫人は笑っているが謝砂は驚きのあまりポカンと口が開いた。
目元や首にもシワ一つなく美肌で赤ちゃんのようにすべすべしている。
「謝砂殿、桃爛殿、礼を述べるのが遅くなりました。帳家の息子たち門弟の命を助けていただき感謝しております。息子の命を救ってくれたと雲児から聞いております」
「謝砂が失礼なことを言い申し訳ない」
爛は謝砂のあごに手のひらをあて閉じさせた。
「息子の姉なんて言われるとうれしいわ」
恥じらう仕草も少女のようで謝砂は夫人だとはまったく信じられない。
「せめて礼にと夫の誕辰に招かせていただきました。帳家総出でもおもてなしさせていただきます」
帳夫人に案内されついていくと部屋のなかに帳宗主が一人待っていた。
「あなたお連れいたしました。私は失礼いたします」
帳夫人は茶を出すと部屋から出ていく。
「謝宗主、爛殿わざわざ足を運んでもらってすまない」
帳宗主の室に足を踏み入れると謝砂たちが漬けた果実酒や果桃蜜水と書かれた瓶がぎっしりと運び込まれていた。
招功たちが運んできた品は受け取ってもらえたようだ。
「私たち謝家と爛たちからの祝いの品は気に入っていただけましたか?」
「もちろんです。謝砂宗主が持ってきて頂いた酒と果実糖蜜は呉先生と同じ味です」
「呉殿に教わりながら漬けたんだ。謝家の贈り物は気に入って頂けましたか?」
「直接教わったのですか? 教えていただけないのに?」
「丁家の果実を漬けたんだ」
「丁家と言えば樹医が育てた果実でしたか。貴重な物を頂けてこっそり食べます」
蜂蜜をぺろぺろとすくって食べているのが想像しても似合っていてますます熊さんに思えてきた。
謝砂は折り紙で作った竜の置物が入った箱を帳宗主に渡した。
「作ったものなのですが祝いの贈り物です。気持ちだけ受け取ってください」
「帳宗主の好みにぴったりだと思いますよ。ぜひ箱を開けてください」
爛が謝砂のハードルをぐっと上げた。
宝石や書画などでもなく紙一枚で作ったものじゃないのにどうしてくれるんだろうか。
帳宗主は受け取った箱を開けた途端に表情が変わった。
壊さないようにと包みを慎重に開け折り紙で作ったドラゴンを取り出した。
「紙のみで作られた作品は謝砂宗主がお作りになられたので? このような作品は初めてみました。どのような手法で作られているのですか?」
「紙を折りつくる折り紙という手法で紙のみで作ります。これは空を飛んでる竜なのです」
謝砂が祝いの品と折ったのは透けるようだが破れにくい和紙のような紙を選んだ。
折りなおしでいくつも折り目が入り破れてしまうから仙筆で折り目をなぞった。
補強した結果に金色にキラキラになった。まとわりついているのは霊蛛だとも言えない。
霊蛛のおかげで雲の上を飛んでいるように見える。
蜘蛛と雲をかけ合わせた二重の意味をかけ合わせた。
折り鶴をアレンジしていくうちにドラゴンの折り方を思い出して作った。
「謝家の修復術のすべてが込められているのですね。帳家は体を鍛えることで魂を鍛える修錬方法です」
だから帳家の人たちは帳宗主を含めて筋肉隆々なのか。
「ですが仙噐や法器を作られる名家ですよね?」
「仙噐や法器を作るのに足腰の力が必要です。修錬とは違います」
「飛竜は帳家のことを表します」
(それは知らないけどたまたまラッキーだ。爛にさりげなく言われたとおりに作ってよかった)
作りながら何度も爛に口出しをされた。
「飛竜帳家という呼び名をご存じとは塵家が名を連ねていた昔を思い出します」




