7章 帳宗主の誕辰3
「謝宗主、爛殿宴が終わった後私の私室にきてください」
盃を交わしたあと謝砂と爛は用意された席に案内され腰を下ろした。
爛と隣同士で助かった。
帳家の人たちに挟まれている一列の間に座らされている。
なぜか筋肉所帯に放り込まれた。
見目麗しい爛は華やかさで同じ場所にいても空気が違う。
鍛えている人たちのなかに中にポイっと放り込まれて戸惑いを隠せなかった。
何を話せばいいんだろうか。
殴られるのを見るのも苦手で格闘技はなるべく見ないようにしていた。
とっさに逃げれるように護身術をテレビで見て覚え、空手や柔道のような武術は本で型を覚えて知識のみ薄っすらとある。
会話が成立するとは思えない。
帳宗主から見えるため誰からも絡まれることはないが謝砂は縮こまっていた。
(はやく料理が運ばれてこないかな。居心地が悪すぎる。囲まれるなら女の子の方がいい)
宴の席に女の子が皆無なわけではない。
料理は侍女が運び給仕をしていた。
謝砂の側にいないだけでちらほら帳家の師弟のなかには女の子も混ざり座っている。
見覚えのある綺麗な女性が少し離れた斜め向かい側に座っていた。
緊張をほぐすために謝砂は目で美人を探していると隣の爛に目が留まる。
美人と言えばやっぱり爛が一番だった。
姿勢よく背筋をピンと伸ばしたままで品よく茶を飲む仕草は思わず見入ってしまった。
「うん? 謝砂どうかした?」
「なんでもない。いい匂いで腹がすいただけだ」
爛が謝砂の視線に気づき目を合わせた。
謝砂は首を横に振り爛から目を逸らした。
帳家の家紋である鱗模様は竜を現しているらしい。
同じ家紋が入った丈の長い上衣を着ている人が多く座っていた。
料理と共に急須の大きい酒器というものに入れられた酒も運ばれてきた。
謝砂と向かい側に座っていた客人たちが順番に帳宗主に立ち上がる。
手には酒を入れた盃を持ち祝辞を述べていく。
謝砂と爛は身内側に案内されたようだ。
見覚えのある綺麗な女性が斜め向かいに側に座っていた。
「塵家からも祝いを言付かってきました。帳家と同じく大世家として塵宗主の代わりに帳宗主の誕辰をお祝い申し上げます」
塵家として立ち上がったのは塵有眉だった。
その後ろには塵昌がいて同じように立ち上がり祝いを述べていた。
小声だがひそひそと聞えてくる。
「塵家って桃家の傘下だっただろう?」
「知らないのか? 修宴で実力を持ち合わせた門弟を招きいれたんだ。今じゃ傘下も多い」
「傘下に招いたのは廃れるまえの昔、塵家の傘下にいた小仙家や門弟、師弟の家だろ。義理を貫いたともいわれてるぞ」
「塵家の復活だな」
騒がしいなかでも謝砂が聞き取れた会話だった。
「かたじけない」
帳宗主は形式的に一言返すと有眉たちを座らせた。
全員に同じ酒が配られると帳宗主が盃を手に持ち立ち上がった。
「私の誕辰にお集まりいただき感謝する。祝いの酒は来ていただいた方への感謝の気持ちだ。飲んでくれ」
謝砂は言われるがまま注がれた酒に口をつけ一気に飲み干した。
「これはあの呉先生が作った薬果酒である。そして菊花酒と金色の酒は花が香る酒が祝いの品に届けられた」
帳家の門弟が立ち上がり祝杯に用意した酒を説明すると真剣に吟味しあい感想が飛び交う。
帳家の者たちですらざわついていた。
「手に入らないという呉先生の酒を頂けるとはさすが帳家ですね」
「帳家は呉先生が住まれているという仙府。他所ではいただけない黄金酒を振舞っていただけるとは」
「姿を見せることなく直接店に買いにいかないと手に入らず季節のものはたった一日足らずで売り切れてしまう幻の酒店とも呼ばれています」
「呉先生は店に姿を見せることなく倉にこもりっきりの幻の人。直接店に買いにいかないと手に入らず季節のものはたった一日足らずで売り切れてしまいます」
「他の酒も呉先生の薬果酒だ。好きに飲んでくれ」
帳家の宴は豪快だった。
挨拶が終えると無礼講のようになっていた。
仲いい者どうし席を無視して机を合わせて好き勝手に移動する。
酒だけを手に持ち顔見知りを見つけては酒を注いで飲み干して歩いている。
爛と謝砂は幻の酒といわれても驚きもせず落ち着いていた。
謝砂は黄金色の酒を嗅ぐ。花びらが数枚混ざっていた。
「うーん。これも美酒だな。とろっとしているし香りがいい。爛飲んだ?」
「うん。一杯だけでいい」
「分かった。じゃ酒噐を交換するよ」
手早く謝砂は自分の空にしたのと爛の酒と交換してまた注いだ。
謝砂は爛に机ごと横に近づけて隙間を詰めた。
「呉先生って呉殿のことだよね? すごい有名人みたいだ。知り合えてよかった」
「謝砂の味覚と嗅覚がすごいんだ」
「食い意地が張ってるのも悪くないだろ」
「食い意地は理解しているが飲んだら退座する。贈り物を送ってない」
「そうだった。室に置いてきた」
謝砂はまだ飲んでいる爛の盃にこつんと当てた。




