7章山鬼
帳家荘がある町の中に入るとすでに人が集まり賑わっていた。
都では祭りが盛大に行われている最中のようだ。
剣を携えた仙家の一行は謝家だけではなく帳家の傘下の仙家も大勢集まっていた。
帳家の屋敷は家というより城のようだ。
静かでひっそりとした山奥や湖のそばでもなく都の中に建っている。
大きな岩が詰められた岩壁の門を抜け城下町のような都に入った。
西だと聞いていたが商売に活気がある。
その中でも一番の大きな店を構えていたのが呉が営む薬果酒だった。
「ただいま。長いこと戻れずすまなかった」
「若様! よくご無事で戻られました」
呉が店に先に入り荷下ろしに人手を呼んできた。
「こんなにたくさん仕入れてきたのですか? この艶に漂ってくる香りからして丁家の果実ですね」
「ああ。これでまた果実酒が漬けることができる」
敷地も広く酒という看板が大きくたち雇人も大勢出てきた。
謝砂たちも馬車から降りると呉の店を兼ねた家の中に案内された。
街中では馬車は不便だ。馬も便利が悪いと呉の屋敷で預かってもらう。
「帳家に酒を届けるのに謝宗主たちの馬も連れていきます」
「お願いするよ」
「そこに倉がありますので運ばされてもらいますね」
呉は店の人たちに倉に運ばせ謝砂たちを敷地の中へと案内した。
中庭は井戸があった。干されている果物たちが棚に並んでいて厨房が外にもある。
客室に案内されると茶を入れてもらい謝砂たちは休憩をとる。
招功と謝家の門弟たちは呉の屋敷のなかには寄らず馬車があるため回り道で帳家に向かい謝砂を待つと言っていた。
招功に「しばらくしてから来て」と言われていて謝砂はゆっくり茶を飲ませてもらうことにした。
桃展、桃常は謝砂と爛の後ろに座り茶を飲む。
柚苑と雪児は庭を走る瑛を追いかけているが遊ばれているようにしか見えない。
「ご同行いただけて感謝します。道中山鬼に出くわしたときはどうやって切り抜けようかと必死に考えましたが爆竹を嫌うとは知りませんでした。助けていただき感謝します」
「山鬼?」
謝砂はピンとこなかった。
「謝砂は寝ていたな。謝家の管轄地から抜けたときに帳家の手前で出くわしたんだ」
「緑の猿だったら見たよ。恐ろしい」
謝砂は思い出してぶるっと身震いする。
帳家の管轄地の山に入ってすぐのことだった。
謝砂は爛が馬車から降りた気配がし外の騒がしさで目を覚ました。
馬車の窓からちらっと外をのぞくと緑の巨大な猿の顔を目撃して気絶した。
瑛も馬車に乗っていたが途中から同じように寝ていた。
「山鬼は三寸ほどのある巨人のように見えると言われてます。人ではなく肌の色は緑色、顔は猿のようで盆のような口にまばらに生えた歯を持ちます。そして長い爪という特徴があります」
「さすが桃展。よく勉強しているんだな」
謝砂が桃展を褒めたあとで爛は呉に話を続けた。
「山鬼は道行く人をからかう。山鬼は爆竹で逃げだすが竹があるとは限らない。墨糸を嫌がるのは山鬼だけじゃなく妖獣、妖怪も逃げる。護身用としては墨糸を持ち歩くといい」
「大工の道具が使えるんですね。教えていただきありがとうございます。山鬼から慌てて逃げても追いつかれて軽い物でも重症、重たいものは命を失うといいます」
呉は爛に教えられてすぐに家人に探しに行かかせる。
「墨糸って?」
「まっすぐの印をつけるのに墨をつけた糸のことです。あとは墨壺も使えます」
爛が呉に説明しているのをちらっと見てから謝砂は桃展に訊いた。
「出くわした山鬼は倒した?」
(帰りが心配だ。逃がしていたらまだ出会ってしまう)
「はい。私たちは山鬼を駆除するのに剣で斬りました」
桃展は後ろから身を乗り出して謝砂に小声で話を続けた。
「普通は襲う前に炎符で逃げ出すはずなんです。しかも妖丹を持っていました」
桃展から呉に見えないようにこっそり邪封袋を渡された。
謝砂が受け取ると中に一つ妖丹が入っていてそっと懐にしまった。




